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ジャングル/ギンズバーグ19日間の軌跡

Jungle (2017)

 イスラエル出身の探検家ヨッシー・ギンズバーグのアマゾンでの遭難体験を描いたドラマ映画。出演は「ハリー・ポッター」シリーズのダニエル・ラドクリフ、「キャリー」(2013)のアレックス・ラッセル、「スターリングラード」(1993)「戦場のピアニスト」「ヒトラー 〜最期の12日間〜」のトーマス・クレッチマン。監督は「ウルフクリーク/猟奇殺人谷」「ダークネス」のグレッグ・マクリーン。3人のバックパッカーが、謎めいたガイド(クレッチマン)の誘いに乗って未開のジャングルを目指すが……というお話。

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 はっきり言うとこの遭難って、大雨なのに中州でバーベキューをやってレスキューのお世話になる人たちと大して変わらないとは思います。が、自業自得とか、自然をなめた報いとかいった、主要登場人物に対する現代の視点からの非難はまったく当たらないでしょう。何せ1980年代初頭ですから。映画としても、批判調はほぼありません。

 いっぽうで「大変だったけど、助かってほんとよかったね」という感動をねじ込んでくる映画でもありません。その割に、事実を淡々と並べて観客に判断を委ねたり、自ら教訓を得させるような問題提起もない。1人はぐれた主人公(ラドクリフ)はサバイバル術に長けているでもなく、「127時間」みたいな強烈な生への固執を示すでもなく、ただもうヘロヘロになってジャングルを彷徨っているだけ。じゃあ面白くないのかと言うと、これが結構面白いんで困っちゃう。

 意図的なものかどうかわからないのですが、本作は人間を拒絶するような自然の厳しさとか、その裏返しの手つかずの自然の素晴らしさとかいったこの手の映画にありそうな描写がほとんどないんですね。密林の道なき道、急に水かさを増す川、食べられそうな木の実、危険な野生動物、皮膚に潜り込んできたり、刺されたり噛まれたりすると痛そうな虫……スケールダウンはあるでしょうが、そこらの山奥でも経験できそうな要素ばかりです。終盤、川岸にたどり着いた主人公の目に満天の星空が映りますが、これもアマゾンじゃないと見られない訳じゃないし、それまでに何度も襲われた幻覚なのかもしれない。

 ラドクリフは一生ハリー・ポッターの亡霊から逃れられないと思いますが、本人はそれを受け容れながら、地道に色んな役に挑戦してますよね。本作でも中盤以降はほぼ1人の熱演が光ります。著名監督の映画で大俳優と共演できたりすると、セカンドブレイクありそうなんですけどね。「スイス・アーミー・マン」もまた見たいなあ。

 本作を見て個人的に思うのは、人は人との関りを含む文化・文明の庇護の許になければ生きていられない、ということです。水や食べ物を得たり、活力を得るためにわざとアリを集らせたりとかしてはいますが、生への緩い渇望として描かれる幻覚はすべて人。終盤に現れる原住民の娘は、両親や叔父、ガイドと一緒に戻った友人(ジョエル・ジャクソン)への贖罪や感謝の対象として造りだされた幻影です。最終的に主人公が助かったのは、川ではぐれた友人(ラッセル)と現地人がモーターボートで助けに来てくれたからだし、迎えた村人はみな主人公の生還を神の思し召しとして喜んでくれます。自然を敬う気持ちは忘れる訳にいきませんが、自然を切り拓いて文明を興し、宗教を含む様々な形の文化・芸術・コミュニケーションを育んできた人間の営みもまた、感謝して享受すべき対象だと私は思います。

 エンディングでは、実際の主要登場人物のその後の消息がテロップで紹介されます。一応マナーとしてネタバレを避けますが、ここでさらっと明かされる事実は、不気味な皮肉として尾を引きますね。案外このエンディングが、本作の一番のクライマックスかも。

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