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表現の欲求と周辺との関わりあいのことなど

先日、ある地域の精神科病院に付属する福祉事業所と精神科デイケア(以下、デイケア)へ、絵を描いたりものづくりをする人4人のお話しを聞きに行った。ちなみに、別に入所施設もある。もともと仕事でお付き合いもあって、2年前にもその入所施設に住む方へ訪問したことがあって、職員さんも利用者さんも何度もあったことあり、表面的には知っているという関係だったけど、改めて行く機会をもらった。

事業所は就労支援B型と就労移行支援をしていて、最初の3人はそこで仕事をされている。静かな環境でもくもくと10人ほどが作業している。皆精神障害を持つ人たちで、年代性別もバラバラ。見た目はもちろんのこと、コミュニケーションもそれなりに楽しくできる人もいるので、ぱっと見は全然誰がスタッフなのかもわからない。
前に行った生活介護の事業所は、建物の奥へ行けば行くほど知的障害の重たい人が衝立に囲われるように座っていて個別に作業していて、ものすごく静かなのにさらにイヤマフ(ヘッドフォンのような形の耳栓)していたり、急に大きな声を出したり、ずっとイヤホンで音楽を聴いている人もいた。
今回はそういう明らかな障害のある人ではなく、精神の方。

お仕事を一通り案内されてから、別室でそれぞれに創作しているもの、スケッチブックに毎日描く絵だったり、折り紙で精巧につくられた置物とか、を個別に見せてもらう。

◆高齢施設入居者の創作活動について

最初に、その3人とは別に、2年前には入所施設にいらっしゃって、今は高齢福祉施設へお引越しされた方が、引き続きとても元気で施設内で絵を描いているとのことで、当時のスタッフの方が絵を借りてきて見せてくださった。以前は、施設の中でスタッフや同じく入所している方たちへ絵を見せたり、施設内で飾ったりしていて、創作活動が精力的だったが、現在は高齢福祉施設が完全面会禁止、外出は通院時のみとなってしまった。スタッフや同じ施設内の方とも絵を介したコミュニケーションはとってないそうで、絵を見せる人やその絵を見て喜んでくれるスタッフもそんなにいないようで、前よりは描かなく(描けなく?)なったらしい。
外部からの刺激は施設内のテレビと新聞、(あるかどうかよくわからないが)雑誌などのみ。施設は海がすぐ横にあるけど、海を描くこともないとのことだ。近くに海あるけど、散歩もできないそうだ。ツラいな。
外部刺激がなくなってくると、創作が少なくなってくるわかりやすい事例だなと思う。余談だけど、今はテレビでオリンピックばかり放送されているので、その方にとってはすごく大きな生活の刺激になっているんだろうなとも思う。

◆事業所に通う方の創作について

話題は事業所に戻る。普段から事業所内で絵を描く時間を設けてはおらず、皆さん日中の昼休みだったり、お休みの日とか、夜とか、総じて「仕事以外の自分の時間」に創作している。※1

Aさんは、20代前半。昼休みとか、家でせっせとスケッチブックに描きためている。色鉛筆を使っていたが、後にでてくるCさんが絵画制作の知識があるので、アクリル絵の具などの画材について教えてもらって、最近はそれも使っている。お話しするのが苦手なようで、とても緊張していた。
調査では、「創作のきっかけ」をまず聞く。
きっかけは、仕事中のスタッフと雑談のなかででたこんなエピソード。

小学生のときに絵を描いたとき、色んな色に塗りたいという思いで描いた絵について、先生にそんな色はダメでしょ、と怒られたことがきっかけで絵を描かなくなってしまった。
白と紺の地味な体操服をどうしてもカラフルにしたくなってしまい、色んな色に塗ったらお母さんにめちゃくちゃ怒られたから、絵が好きじゃなくなった。

ちょっとしたきっかけでその方の創作意欲の芽は摘み取られてしまった。が、その雑談の後、スタッフが「そんなの別に気にしなくていいよ。好きな色に塗っちゃえばいいじゃん」と言ったことで、事業所に通いだした2年前からせっせと描いては持ってきて、スタッフや他の利用者さんに見せてくれるようになったそうだ。
描いている物は、散歩の途中で見つけた植物や、食べ物、季節の行事についてと様々。その方は就労移行から、一般企業に就職が決まったそうで、その環境の変化で絵が描いていくことができるかな、と心配していた。

Bさん。折り紙で精巧かつ、とても小さなものを折り続けている。それで盆栽のような工芸品を作っている。年代は50代。昔から細かな作業が好きだったので、夜にひたすら折り続けて作っているとのこと。作ったものはとても美しく、見た人は皆、「すごい!、これはすごい!」と褒めるしかないといった作品。一つ作るのにマイペースに作業して2~3か月とのこと。
この方も、家で作っては人にあげたり、スタッフへ見せたり、置いてくれそうな店があればそこに置いてもらっていて、見てくれた人の反応が嬉しくて作り続けているそうだ。コミュニケーションが苦手なんだなぁといった雰囲気の方で、終始おとなしく、照れくさそうに話していた。

最後、Cさん。この方は何年か前からやり取りをしているけど、ちゃんとお話しを聞くのは初めて。子どもの時から絵描きになりたくて、ずっと描き続けている。40~50代。描いている画風はそれなりに時代を感じさせる。雑誌「1枚の絵画」や「美術手帖」をよく読み、絵画の研究も熱心。話しを聞いていると、創作において流派とか派閥とかが嫌で、一時は東京の画廊に持ち込みなどもしていたそうだ。幻聴に悩ませられながらも、言葉遊びで連想しながら色んな描き方をしたり、描く対象も風景や肖像画とさまざまだ。
Cさんは話を聞けば聞くほど、いわゆる一般的に活動する美術作家と変わらない。創作に関する考え方も面白くて、ぽつりぽつりと話す言葉には結構引き込まれてしまう。地域の絵画教室で学んでいたときもあり、技術もそれなりだと思った。表現欲求はとても高い。見てもらうためにどんどん描くタイプ。だけど、幻聴で体調を崩すことも多々あるようだ。

◆デイケアと入所施設で創作する人

続けて隣接するデイケアへ。手芸作品(布小物)をせっせと作るDさんの作業を見に。物は前から見ていたので、創作の環境と、本人に会って話しを聞かせてもらう機会をもらった。
その方は20~30代の方で、入所施設で生活し、日中はこのデイケアへ通っている。デイケアはだいたい日によってプログラムがあって、そのプログラムに参加したい人が通ってくるという想定だと思うけど、プログラムに参加しなくても可。居るだけでももちろん可。
その方はどのプログラムも合わず、あれこれやりたいことを提案しつつ、好きにやるというスタイルをとっていて、看護師さんもそれに付き合っているかんじ。付き合っているというより、看護師さんも楽しんでいるかんじがした。羨ましい。雑多に散らかった布の中で試行錯誤、ひたすら作り続けている印象だった。入所施設の自身の居住スペースにもミシンを買って日中も休みの日もずっと作り続けているらしい。出来上がった小物もかなり手が込んでいる・・・。
この方の創作の継続というか、やりがい、どこに継続の理由があるのかは、本人は口にしていなかったけども、スタッフは看護師さん始め女性且つママさんが多いとのこと。作ったものをイイネ、イイネ、こういうのあったら欲しい、とその方へ言っているのが、創作の継続に繋がっているようだ。でも実は、ママさんスタッフじゃなくて、一番の上客は入所施設の男性スタッフとのこと。お得意様が近くにいるって、良いなぁ。。

◆まとめ オチなし。

一貫して、美術的や技術的に特別に目を見張るほど素晴らしかったりするわけではないんだけど、表現欲求高め、そこには自分を知ってほしい、自分を認めてほしいとか、そういう思いが誰しもにあって、そこが表出しているんだろうと推測するが、、、そういう方が、とてもとてもこの障害のある人の芸術活動をされる方には多いなーと思う。何件か訪問したり、この仕事をしていて感じていること。
スタッフの方たちも、なんとかこの彼ら彼女らの、表現したから見てほしいという気持ちを事業所だけではなく、色んなところで受け止めてもらいたいという思いを持っている。

オチはありません。すいません。
一般社会ではなかなか生活が難しいけど、お話しもできて、車の運転ができたり自炊できたり買い物にも行けるという人はとてもたくさんいて、そういう人も障害者手帳持っていて、創作活動している人もたくさんいるんだなぁという話し。

こないだ大学課題の参考図書で借りてきた「美学の事典」の中に「障害者の創作活動」について論じられたところがあって、そこにある障害者はコミュニケーションができない、難しい人のことについてしか触れられていなかったのだけど、そういう人と、上記の人を一緒にくくって論じるのは無理がありすぎると思ったなぁ。

そして今回、私にとっては謎の多かったけどとても興味があったデイケア。そのデイケアに潜入できただけでも嬉しい。看護師さんは少し訝しそうに私たち接していたが、誰もかれも断らないという気概がデイケアにはあった。同行した人は、このデイケアは、めっちゃ色んな活動の痕跡があってイイ!と話していた。(実際、あちこちに作ったものがぶら下げられたり、飾られたり、床にゲームの痕跡があったり、片付いてるけど雑多であった)
「すごしの場」の提供なんだよなぁ。言葉だけで知ってはいても、そういう場所が世の中にあるって実感できた。

何が言いたいかって言うと、昔仕事していたアートセンターにすごく似ていたのだ。広い部屋に雑多にいろんな道具や材料があって、各々が好きに作業して過ごす。喋ってるだけでもよいし、テレビ見るだけでも良いし、卓球してもよいし、メンバーで運営するカフェもあった。そういう所が同じだった。
居心地よくというか、居るだけでよしという場所だなぁって思った。


1※ この分野には、就労施設や生活介護、地域活動支援センター内で、「絵や音楽、ダンスなど芸術活動を主に日中活動している」ところが全国に点在していて、知名度が高いところでは、滋賀の「やまなみ工房」とか、埼玉の「工房集」、三重の「希望の園」など。活動自体が利用者のお給料となるので、「利用者さんの好きなことがそのまま仕事として認められている」として、同業者からの支持も多く、熱心なファンも多い。描かれたり、作られているものの美術的評価も高く、美術館で展示される機会も多い。

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