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私が私のままであろうと決めた理由


1年前の冬、日本に帰っていた時に、私の話を聞きたいと言って、交通費とお昼をおごってくれた人がいる。

その人は擬似的に始動していた『オンラインシェアハウス』という所にいた人で、私が日本に帰る話をした時に、「じゃあ、会ってみたいな」と誘ってくれた。

家族で高山に旅行して、家族と別れて高山での用事を済ませてから、彼が住んでいる静岡に向かった。
静岡で幾日か過ごし、滞在していた富士にあるゲストハウスから電車に乗って、彼が待つ駅へと向かった。

電車には、ボタンで開閉ができる扉があった。
登校途中の学生と、通勤途中のサラリーマンがたくさんいる車内。
たくさんの荷物を持って、明らかに学校に行く様子ではない、学生くらいの年齢の私は確実に浮いていた。

別世界に迷い込んだかのような気分だった。
普段はあまりにも、そういう生活をしているのが普通の人とばかり会っていたから、「そういえば、世界はこんな感じだった」と妙に納得したような、それでも不思議な気持ちを抱えて、電車に揺られていた。

目的地の駅の名前がアナウンスされて、私は電車を降りる。
普段あまり使わないような、二つしか改札口がない駅。一緒に降りた数人のサラリーマンの後ろについて、改札を出た。
別世界に来たような気分が抜けなかった。

アメリカに行った時も、ここまでの別世界感を感じなかったのに、なぜ生まれた国の日本の中でここまで乖離を感じるのか、不思議だった。

改札を出ると、一台の車が止まっていて、中を覗くと約束した人がいた。
彼の顔を見て、「ああ、優しそうな人だ」とホッとした。
軽く挨拶をして、緊張しながら車に乗り込む。
今はもう、人に会う時に緊張することはあまりないけれど、この頃はまだ慣れない経験だったので少し緊張していた。

有名な『さわやか』のハンバーグを食べさせてくれるそうなので、ポツポツと話しながら『さわやか』に向かった。
お昼より少し早めの時間だったので、すぐに座れたけれど、私たちが食べている間に待ちの列ができていた。

話しているうちに、「いい人だな」という確信を得た。
やわらかい人だ。
オンラインシェアハウスで話している時も「やわらかい人なんだろうな」と思っていたけれど、言葉遣い、目線、表情、どれをとっても柔らかかった。

ハンバーグは美味しかった。


混んできたので、食べ終わって少し落ち着いてから店を出た。
「これからどうしようか」という話になって、なぜか”まかいの牧場”に行くことになった。

平日ということもあって、牧場にはほとんど人がいなかった。
牧場内に入る前に買ってもらったアイスがとても濃厚で、ルンルン気分で牧場に足を踏み入れた。

昨日くじいた足はまだ痛かったけれど、まぁ、数時間なら大丈夫だろうとそのまま歩き始めたところで、彼が「ちょっと待ってて」と言い、スタッフさんに話しかけに行った。

「車椅子ありませんか?」

私は驚いたと同時に、「やっぱりこの人、すごい優しい人だ」と感心した。

車椅子に乗って、牧場内を巡る。
途中で見つけたハンモックで遊んでいる時に撮られた写真は、今でも私の一番のお気に入りだ。


そして、ふと気がついた。彼、車椅子を押すのが、上手すぎる。
何気なく相手に聞くと、以前介護の仕事をしていたそうで、そこからしばらく社会福祉の話になった。

児童養護施設でも働いていたことがあったらしく、「あまりにも酷い環境で育つ子供が、まだたくさんいる。父親に振り回されて、壁に何度も叩きつけられて、頭蓋骨が骨折している子とか」という話を聞いて、苦しくなった。

そういう子は確かに存在するし、そこまではいかなくても、精神的に傷つけられ続けて、精神を病んでしまう子もたくさんいる。

「どうすればいいのだろう」と、一緒に考えた。だけど、すぐに答えが出るものではない。そんなに簡単に解決するのなら、もうこの世から虐待はなくなっているはずなのだ。

私は、「どうしてその仕事をやめたんですか」と聞いた。
彼は答えた。「この仕事をしていても、根本的な解決にはならないと思ったから。僕は根本的に解決をするための活動をしたくなった」


この社会は、あまりにも余裕がなさすぎると思う。
人は、楽をして生きやすくするために社会を作って文明を発展させたのに、できあがった今の社会は明らかに生きづらい。余裕がない。

その時、やりたいことが一つできた。
社会の余裕を少しでも増やしたい。

ストレスは質量みたいなもので、たくさんあるところにどんどん集まっていく。
ストレス量で歪んでしまった中心で生まれた子は、そこから逃げ出せる力を持つ前に潰されてしまう。

だから、できるだけその歪を軽いものにしなければいけない。
ストレスはもっと簡単に拡散しないといけない。拡散すればするほど、小さくなっていくから。

それ以来ずっと、社会に余裕を作るにはどうするかを考え続けている。
人を孤立させないとか、ストレスを生むシステムをアップデートするとか。


それから、私は私のままでいようと決意した
多くの人がたどる社会システムから外れること。
普通でいないことにずっと劣等感を感じてきたけれど、私が普通でいないことで、きっと救われる人がいると信じたい。

人が逃げ出したいと思った時に思い出してもらえるような人でいたいし、”普通”をなぞらない生き方でも良いのだと思えるきっかけになりたい。

既存の社会システムから外れても楽しく生きている人はたくさんいる。
”良い”大学に行って、”良い”企業に勤めなくても、お金をたくさん稼がなくても、人はしあわせになれる。

だから、辛くなった時に人が逃げられる場所であるために、私はずっと私で居続けようと思った。
幸運なことに、逃げ道をつくっているような知り合いはたくさんいるしね。


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今年の冬は、アメリカを電車で旅する予定です。
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