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AKIBA'S BEAT-PS+エクストラ探訪-



戦闘部分

 本作の戦闘が不思議と退屈しないのは、構成要素の噛み合いが程好い緊張を生んでいるためだ。アクション面の(プレイヤー)スキル、HPやMPの管理、戦闘前の準備。これらが一つ欠いても他の二つがカバーしてくれるが、一つでも完全に無くしてしまえば進行が難しいという調整になっている。

・真剣に立ち回る必要は無いが、棒立ちではヒーラーが追い付かない。
・装備やアイテムの準備があれば、その状態で押し切る事も可能。
・ただし準備のための資金は、スキルと管理による戦果が原資。

……といった感じだ。


 スキル管理準備、3つのどの要素も真面目に突き詰める必要は無いが、完全に捨ててしまう事も出来ない。遊びを大きくとりつつ、最低限の水準だけを全てに要求してくる。この調整の結果、本作の戦闘は薄味ながらも飽きが来ず、ハクスラで狩りを続ける様な淡い楽しさが持続する物に仕上がっている。


 自キャラ操作、HPMP残量、アイテムのストック、全てに緩く目を光らせ続ける程好い緊張が本作の戦闘の肝だ。ソウル系の様な手応えも、スラッシュ系の様な爽快感も本作には無い。それでもダラダラと浸っていられるハクスラ感のお陰で、敵やマップの使いまわしに目を瞑り、サブクエ込みで最後までクリアしようと言う気になれる。



ストーリー部分

 ハクスラの狩りを延々続けられるのはドロップやランク等の報酬があるからだが、ARPGである本作の報酬ストーリーの進行だ。本作はお話もよく出来ている。新しいキャラと新しい謎が途切れる事なく供給され、常に先が気になり読み続ける。一つ解決すればまた一つ事件が起き、伏線は忘れた頃に発掘され、最後まで退屈させない。


 感情に付けるべき名札に惑う少年の悩みや、破断した自我をぶつけ合って友情に接続する様。少年漫画の様な熱さと勢いに牽引させるお話のため、心情描写は男性陣の比重が多い(女性キャラの心情は、それを見る男性の視点で描かれる)。どキツいサブカル自体ではなくその文化に生きている少年に焦点を絞る事で、読み手を弾かずに耳を傾けさせ、共感性羞恥も抱かせない。


 個人の感情と人類世界が繋がる展開に、秋葉原という妄想の吹き溜まりを通す事で説得力を確保するのも、この描き方だから可能になる物だろう。運命に翻弄されるヒロイン達に男性の肉体を被せたFF15の様な齟齬は起こるまい。


 大義に尽くしながらも内心それを信じきれない大人達は、アニメやゲームに救われながらその可能性を信じきれないオタクを皮肉る様だ。現代のサブカル層を中高年が占めていると判った上で、そこにも訴求出来そうなお話を意図している。戦闘とストーリーが互いの面白さを報酬として互いを遂行させるのに必要な魅力を確保しており、その双輪で60時間の本編にプレイヤーを繋ぎとめている。

 


トレンド不一致とオミットされた機構

 一方、本作は近年のARPGとしては難易度が低く、NORMAL固定だと多くの人が全滅を経験せずにクリア出来てしまう。HARD以上は難しいと言うより手間が増えるため、折角噛み合っている戦闘とストーリーの二重螺旋を壊すだろう。ソウル黄金時代だった2016年(ダクソ3の年)に、フルプライスを払わせたARPGが、だ。


 ソウル系とは別のサブジャンルとはいえ、代わりにスラッシュアクションの様な爽快感を備えている訳でもない。肩透かし感に文句を言いたくなるのは人情という物だろう。そして現在は名作犇めくゲームカタログに放り込まれており、コスパとタイパ両面で競争相手が多い。過去、単体評価に恵まれる機会は少なく、これから先も二度とあるまい。


 武器のパーツを組み替える機構もほぼ機能してておらず、買い換える手間だけが残っている。膨らませれば一つのゲームに出来そうな機構だが、面白さに貢献する水準まで作り込めないと判断されたのだろうか。この種の「突き詰めれば面白そう」な物を矮小化する事でオミットした痕跡が、ゲーム中に幾つか見られる。これらは単純に勿体なく、今後のAKIBAシリーズで復活してくれると嬉しい。



 GOD OF WAR : RAGNAROKは10時間で味がしなくなった私が、その後65時間本作に繋ぎ留められた当たり、好みの合致次第で刺される完成度はあったのだろう。だが面白さの源泉が無形のセンスと調整部分に依っており、見てくれの技術が当時としても低水準なのは致命的だったかもしれない。傍目には虚無ゲーに見えた事だろう。続編があるなら買いたいが…まぁ無理だろうな…