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よい評伝は、しばしば深すぎる愛の所産である

 1年ほど前に出た田中耕太郎の評伝を、いまさらながら読んだのである。


 田中耕太郎は、一般にはおそらく砂川事件や苫米地事件といった著名な事件を扱った時代の最高裁判所長官として知られていることが多いであろうが、それ以前に彼は東京帝国大学の教授であり、敗戦後の日本の文部大臣であり(この資格で日本国憲法に署名もしている)、また参議院議員であり、そして最高裁長官を退いた後は、国際司法裁判所の裁判官も9年間勤めている。このような多彩な職務・立場を個人がその一生のうちに経験することは、現代の日本においてはなかなか考えにくいことだろう。

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