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転職の前に「おうち転職」

31歳で会社は4社目、職種は3つ目のわたしには、友人からたびたび転職の相談がやってくる。

「転職しようか迷っていて」
「30代じゃ遅いかな?」
「〇〇をやってみたいけれど、何から始めたらいいのか分からなくて」

悩みの内容や真剣度はさまざまだけど、答えはたいてい同じ。

「とりあえずやってみたら?」

思いつきで答えているのではない、本気も本気だ。効果もお墨付き。なんとなく法学部に入って出てしまったわたしは、この方法で技術翻訳者になり、ソフトウェアエンジニアにもなった。

いきなり転職活動をしろとは言わない。むしろ会社を辞めるのは、心身に不調が出ていない限り「絶対にやめたほうがいい」と伝えている。

「やってみたら?」はやりたいことが仕事になった体で、空き時間に実務っぽいことをしてみたらどうかという提案だ。「おうち転職」だと思って「夢が叶った!自分は今日からこれで生きていくぞ!」とつぶやいてみるといい。あなたが弁護士や医者になりたいのなら申し訳ないが、この世には個人で勝手にチャレンジできる仕事が意外とあるのだ。

エンジニアになりたいなら、とりあえずプログラムを書きサーバーを立てて、アプリを一個作ってみればいい。技術翻訳者になりたいのなら、ネットで無料で閲覧できる文書を探して訳してみればいい。


無料の学習サービスに登録してプログラムを書き始めたのは、大きな転機だった。翻訳という二次創作的な仕事をしていたわたしにとって、自分が想像した世界をプログラムで形にできる感覚は刺激的すぎる。休日にほぼ一日中PCに向かっても、まったく苦じゃなかった。

本を参考にプログラムを打ち込み、思った通りに文字が現れ、画像が動き、計算ができているのを確認する。
「ぜーんぶ、わたしが書いたんだぞ!」
新しいことができる度に、カフェで隣の人に画面を見せて回りたくなるほど嬉しくなる。耐える代わりに、プログラムの概要と画面が動く様子をSNSに載せた。「うちの会社を受けてみませんか?」と前職の上司からDMが来たのは、半年後くらいだっただろうか。

自分が面接する立場になって「怖いな」と思うのは、転職がゴールになっている人だ。転職はゴールではない。今やりたいことが一日八時間×週に五日間やり続ける義務となり、情けなく辛い日があっても報酬に見合う質を淡々と求められる生活のスタートだ。

いきなりプロになってしまう前に「おうち転職」をして「本当にそれを自分の生きる糧にしていいのか?」と考えてみれば、いろいろなものが見えてくる。「趣味で十分」と感じたなら、それもまた喜ばしい発見だ。

「休日だけじゃ時間が足りない」
「つまづいた箇所を、プロはどう乗り越えているんだろう」
「もっと知識がある人の側に行けたら」

転職活動はそう思ってからでも遅くはないし、その時はきっとあなたが一人で積み上げたものが道を開いてくれる。

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