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ドキッ★ハウスメーカーと三角関係(東京⇄岐阜の遠距離婚夫婦、家を買う#5)

↓こちらの記事の続きです。でも多分ここから読んでも楽しめます。

2021年10月某日。土曜なのに、在宅勤務用のデスクに緊張の面持ちで座る。
いよいよハウスメーカー2社とのオンライン相談の日が来たのだ。

相談といいつつ、実態は各ハウスメーカーからの「うちで建てましょう」というラブコールを受け取るプレゼン大会である。2週間ほど前に我が家からはマイホームに求める必須条件、希望、イメージ画像を10枚ほどのスライドにまとめて送っており、それに対する提案という形になる。

さぁ、見せていただこうじゃないか。ハウスメーカーの提案力とやらを!
素人では想像できない、とんでもなく素敵な家が出てくるのではと夢見る一方で、「この費用だと、まぁここまでですね」と限界を突きつけられるだけだったらどうしようと嫌な方向への想像も膨らむ。


一社目は住宅展示場に南面スケスケ豪邸を立てていたA社である。

「〇〇's HOUSE」と我が家の苗字が入った表紙には、庭木が添えられたベージュ色の二階建てのCGが載っている。

「おおおぉ〜〜〜」「おおおぉ〜〜〜」
岐阜・東京それぞれのPCの前で歓声が上がる。表紙からこんな反応では、ここから先のページでリアクションがインフレする予感しかないが、それでも喜ばずにはいられない。
リアクションの大きさに営業さんも苦笑いだ。

スライドはLDKのイメージ画像へ進む。
「へぇぇえ〜〜〜!」
「えっ、えっ、えっ……おおぉぉ〜〜!!!」
北から南まで敷地を目一杯使ったLDKには、料亭を思わせる黒のキッチンや、憧れて止まない壁一面の本棚が並び、無限にリアクションが引き出される。

希望を書き連ね、言語化できない部分は「こんな感じで」とInstagramやPinterestのスクショをベタベタと貼り付けたスライドから、こんなにドンピシャなイメージが出てくるだろうか。
自分でも言葉にできないイメージが他人の力で形になるのは不思議な感覚だが「提案力が売り」の言葉に間違いはなさそうだ。

やはり目を奪われるのは高さ2.4メートル×横3.5メートルの作り付け本棚で、これは家を建てる目的の一つと言っても過言では無い。本棚の前にはLDKから2階へと続く階段がかかり、高い場所でも階段を使えば手が届くようになっている。

収納場所を心配せずに本を買えたら、天井いっぱいの本棚を家族が選んだ本で埋めていけたら、好きな本がいつでも視界に入る家に住めたら、どんなに幸せだろうか。

(でも、見積もりはどうなってるんだ?)
家全体のCG画像を一周したが、LDK以外の要望も程度の差はあれどすべて叶っており、期待は余裕で飛び越えている。
だからこそ見積もりが怖い。ここで数百万円も予算を上回っていれば、この1時間の感想は「うわ〜。もっと就活頑張っておけばよかった!」で終わってしまう。

最後に出てきた見積もりは、予算を150万円ほど上回っていた。

んんん……。絶妙なラインを攻めてくる。
上回ってはいるが、提案の中には要らないオプションもあった。それらを切ると見積もりはどれほど下がるのだろうか。


「本当に予想以上に素晴らしい提案なんですが、予算はオーバーしてます。まだ一社目なので、他のメーカーとも話して夫婦で相談する時間が欲しいです」
「もちろんですよ!じっくりご検討いただいて、気になることがあればいつでもご連絡ください」

即答できず心苦しいが、さすが大手メーカーだ。返事には余裕が見え、焦らずこちらの立場になってくれるのはありがたい。


30分空けてB社。こちらは別の大手ハウスメーカーのやや安価なブランドだ。

大手のノウハウや調達力を活かしつつ、オプションや間取りに多少制限をもたせることで値段のバランスを取っている。
値段もちょうど良く、説明にも納得感がある。50代ほどのベテラン風の男性の説明は、何万回も繰り返してきたような落ち着きがあった。

肝心の間取りは、私達の趣味の多さや床に座って食事をするスタイルに合わせてあり、珍しい間取りだが住みやすそうだ。

「玄関の突き当りをダイニングにすることで、帰宅時に顔を合わせやすくしながらも、リビングやキッチンのプライバシーは守れます」

なるほど。
しかし肝心の本棚が提案の中に見つからない。
在宅勤務になるので個室の仕事部屋が欲しいとも伝えていたのに、リビングの一角にデスクを取り付けた場所が「ワークスペース」として割り当てられただけであった。

「リビングとの間はスライドドアで仕切れるので、普段は空間を広く使って、集中したい時は個室にできますよ」

うーん、言いたいことはわかる。
しかし、子どもと扉一枚隔てただけの一角で、顧客へのオンラインヒアリングや企画会議ができるだろうか?「では、あなたの仕事はこのスペースでできますか?」と言いたくなるのをグッと堪えた。


A社がこちらの要望をバッチリ抑えて「こういうのが好きなんでしょう?」とトキメキをくれる王子様タイプなら、B社は「自分を選ぶとこんないいことがあるぞ?」と理路整然と訴えてくる俺様タイプだ。

見積もりはB社が一千万円ほど安い。
B社を選ぶのであれば、ペースに乗せられすぎず、自分の希望を通すように交渉するエネルギーが必要になってくるだろう。
私はこの営業さんがところどころで見せる「こちらにするべきですよ」と迫るような圧にちょっと負けそうだった。オンライン相談で物理的な距離があってよかったかもしれない。


二社の相談が終わりヘロヘロになりつつ、LINE通話で旦那と感想戦に入る。

この時点で私はA社推し。旦那はB社推し。
私が感じていた圧は旦那は気にならなかったようである。バリバリ外に出る営業職と引きこもりがちな開発職の違いだろうか。

強くアピールされるのって大変なんだなぁ〜、どっちも良いところがあるんだよなぁ、なんて少女漫画の主人公のような気持ちになってみるが、選んだ方にお金を払うという一点が決定的にヒロインとは違う。

次のオンライン相談は2週間後。
各社、私たちからの追加要望をもとに間取り修正をしてくれる予定だ。


夜な夜な「ハウスメーカー 決め方」と検索しては、すでに開いた形跡のあるリンクを何度でも読む。
いま悩んでいる人の声、住み始めた人の後悔、満足している人の意見。
あぁ、夫婦で意見が割れた人はどうしているんだろう……。

布団の中から日本中の声を集めても、数だけ増える意見の沼にズブズブと身体が埋まっていくようで何も解決しないのだった。

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