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本棚から … 読書の秋に3冊

やっと朝晩は涼しくなって、秋らしく落ち着いてきました。
最近読んで印象に残った本を3冊紹介します。




身近な植物の賢い生きかた

     稲垣 栄洋 ( ひでひろ)著/ちくま文庫/2023年6月発行

植物的と言えば、ただ受け身で優しく… こういうイメージが、この本を読むとひっくり返されます。

「植物たちの生存戦略」というフレーズが帯にありますが、生きる厳しさは植物も同じだろうか… いや、動物のように自由に移動できないので手段は限られていて、植物はトリッキーな仕掛けまで各種用意していました!

例えば「昆虫の食害からの防衛」。病原菌だけじゃなく、葉を食い荒らす昆虫も恐ろしい敵なのです。力を持たない植物が強大な敵(=昆虫)を倒すために、毒殺ほど有効な手段はないそうです。快いハーブの香りも植物の毒だったのです。玉ねぎやワサビの辛みも防衛のための物質だそう。

近ごろは妙に暗いニュースが続くので、ガラリと気分を変えてくれそうな一冊です。植物の世界を擬人化して描いており、分かりやすく面白い。一章がほぼ10頁くらいなので、休憩や通勤時間などにも良さそうです。




つくられる病 ー過剰医療社会と「正常病」

      井上 芳保(よしやす)著/ちくま新書/2014年9月発行

図書館で借りましたが、約10年前のやや古い本です。著者は社会学の研究者なので、社会から見た現代医療を語るというスタンスです。ですので、後半は社会構造論やマックスウェーバが語られ、やや分かりづらく感じました。(こちらの無知が悪いのかもしれませんが…)

ただ、「正常病」という言葉には、とても驚きました。この概念をいち早く使ったのは、フランスの精神科医ジャン.ウリだそうです。(2005年に京都大学で講演した時に、この概念を使っているそうです。)

では、「正常によって病気になっている人」とは誰か?それは、精神病とされる人のことではなく、むしろそれ以外の「何かに駆り立てられるように強迫的に生きざるを得ない多くの人たち」だ言います。ギョッとしました。

正常と異常は、物差しで測るように明瞭に判定できるのでしょうか?しかも判定する基準はよく変わるそうです。近年は高血圧やメタボ診断の基準が変わりましたが、同じ数値でもたちまち治療対象者になってしまいそうです。

医療に盲従するのではなく幅広い見方ができれば、心にもそれなりの余裕が生まれるかもしれません。「規範が一つしかない状態におかれているからその人は「病気」なのだ」と文中で紹介されていたガンギレムの言葉が、強く印象に残りました。



姉 の 島

     村田喜代子著/朝日新聞出版/2021年6月発行

表紙は横書きですが、中は縦書きの小説です。読んでいると、自分もこの島の島民にでもなった気がしてきます。島の厳しくも珍しい昔話を親しい海女さんから聞いて、一緒に深いため息をついたり目を丸くしているかのよう。85歳を過ぎても冒険心を忘れない、海女のミツルさんや小夜子さんたちの暮らす「姉の島」の物語です。

ずっと続いてきた人間の営みを見るようですが、簡単便利な生活しか知らない身には、いくらか異世界のようにも感じられます。(それほど昔の話ではないのでしょうが…)リアルな話に時おり蜃気楼のような幻想がまざり合い、かえって島の情景がぐっと濃く迫ってくるようです。

村田喜代子は数々の受賞歴のあるベテラン小説家で、『エリザベスの友達(新潮文庫)』も忘れられない一冊です。



                京都にて



こちらでも少し本の紹介をしています。




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