見出し画像

気候危機時代におけるアグロフォレストリーの可能性

皆さんこんにちは!アジアを中心に猛威を奮うコロナウイルス、東南アジアの畑を襲うバッタの大群発生など、毎日不安なニュースが多く気持ちまで曇り空になる最近ですが、いかがお過ごしでしょうか?

さて、僕はオランダ第二の都市ロッテルダムでのタイニーハウス作りのお手伝いを終え、次の目的地であるオス(Oss)という場所に来ています。ここはオランダの田舎。酪農やコーン栽培を中心とした農業が盛んな地域で、空が広くのんびりとした空気が流れています。のどかなだけではなく、カパラッ、カパラッと家の近所を乗馬をする人達がいたり、至る所に牛や馬、羊、鶏、ダチョウなど家畜が小屋や芝生で牧畜されていて、お散歩していて見飽きない風景が広がっています。動物園みたい。


「食べ物の森」をつくる農家さん

ここで僕は、WWOOFというオーガニックファームに特化したボランティアマッチングサイトを使い、ある農家さんの元でお世話になることになりました。その方は、アグロフォレストリーという手法を用いて、なんと25haもの土地を、「食べ物の森」にしようとしています。

アグロフォレストリーとは、農業(agriculture)と林業(forestry)を合わせた単語。樹木を栽培し、その樹間で家畜や農作物を飼育・栽培する農林業のことです。主にアフリカや南米と言った場所で普及しています。

その土地の自然な森林更新に沿した農業であるという意味では、「生態学的な資源の管理システム」であるとも言え、経済・社会・環境の持続可能性を推進する可能性を秘めているらしいのです。

https://world-note.com/agroforestry/

この農家さんは、3年前から、「BOER-IN-NATURE」という名称で、25haの土地を4つのランドスケープにゾーニングし、樹木と農作物、牧畜を組み合わせたやり方を実践しています。

僕はここで、木々の補植や杭の差し替えなどのお手伝いをさせて頂きました。



アグロフォレストリーをオランダで実践することへの違和感

僕自身、このアグロフォストリーという手法を初めて知った時の衝撃は今も忘れられません。食べるための農業と、住むための林業という全く異なる領域の生業を融合させることにより、作物の生産性と生物多様性という一般的にはトレードオフの関係にあるものを「両立」できる第3の道があるとは思いもよらなかったからです。

しかしこの手法は、大規模な農地開発やよって土地が荒廃してしまった熱帯地域で、森林を再生させながら農作物栽培も行おうという経緯で始まったもの。南アメリカやアフリカなど熱帯で多様な植物が育ちやすい気候があるからこそ出来るものかなと僕は理解していました。土地も違えば、農業の形も変わるもの。熱帯地域ではフィットしたとしても、気候環境が大きく異なるヨーロッパでこれが有効な方法なのかは分からなかったのです。正直なところ、上手くいかない可能性も大きいんじゃないかって、半信半疑でした。


Wilcoの自信

僕は思い切ってオーナーのWilcoに聞いてみました。

"アグロフォレストリーと言えばアフリカや中南米が一般的だけど、どうしてヨーロッパでもやろうと思ったの?"

すると彼はこう言いました。

"この農場があるエリアは、オランダの中では自然が多く存在している場所で、政府は更にここにある自然を豊かにするために、生物多様性を高めていく計画を作ったんだ。僕は生物多様性を高めながらでも、地域の食料供給に貢献できる様な形として、アグロフォストリーの森をつくることを提案した。確かにヨーロッパでアグロフォストリーを大規模に実践する農家はほとんどない。ほとんど手探り状態でね。でもね、こんなニュースがあるんだ。去年イタリアの農業地で5ヶ月間雨が降らず、干ばつに襲われた地域があったんだ。すると、平地の肥沃な土壌に栽培していた単一作物は全てダメになってしまった。しかし一方で、痩せた土壌の丘に植えていた木々と草地の混植植栽は一面緑だったらしいんだ。僕はこの話に大きな可能性を感じたんだ。"


気候危機時代におけるアグロフォレストリーの可能性

Wilcoの指摘はとても鋭い、と思いました。今、世界のどこにおいても、気候変動は間違いなく進行しています。もはや気候変動ではなく、気候危機だと言われているとても深刻な状況。僕がいるOssの天気も平均気温より約10度高い日も少なくありません。Wilcoも予想より早く芝が伸びてきていると言っていました。南極でも、最高気温が20度を超えたというニュースも。

そんな中、天気にその成長の多くを依存する農作物に対する影響は計り知れません。実際に、温暖化や干ばつのみならず、オーストラリアやアマゾンの森林火災や東南アジアにおけるバッタの異常発生など、少しずつその現象や農業被害は重症化かつ多様化している様に感じます。

そのような気候危機時代を生きていくためには、今までの様な大規模・単一栽培が中心のモデルから、よりレジリエンスの高い農業の形へのシフトが必要になってくるのでは?と考えました。

ちなみに、レジリエンスとは「回復力」のことを指します。この記事では、生態学における「安定性」との比較から、分かりやすくレジリエンスについて紹介がされています。

"レジリエンスとは、変化や外乱を緩和し、個体数や状況を維持する粘り強さ"

https://www.risktaisaku.com/articles/-/10451

つまり、イタリアの例で言うと、平地の単一栽培エリアはレジリエンスが低く、丘にある混植エリアはレジリエンスが高かったと言えます。


時代に沿した農業のカタチ

日本でもヨーロッパでも、現在の農業のスタンダードは単一栽培(モノカルチャー)です。国や地域によって規模や種類に差異はあるものの、米は米だけを田んぼで作り、小麦は小麦、野菜は野菜、茶は茶…など、一つの農地では、一つの作物を育てています。(二毛作三毛作のように時期をずらす手法はありますが。)

しかし、今もこれからも環境が刻一刻と変化していく中、果たしてそれが本当に「効率的」なのかは、立ち止まって考えてみる必要があると思います。

人間が生きていくためには、食べ物が必要です。2050年には世界人口が100億人近くにのぼると推定されており、それだけを考えると、今まで以上に食糧生産が必要となります。

確かに、一つの農地からどれだけの食糧が生産できるのか?という目線も大事ですが、アグロフォレストリーの様に、その農作物を育ててくれる生態系も同時に「育てて」いくという長期的な目線も必要なのではないだろうかと、感じています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?