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美食作りに起業家へのプレゼン 日本一アツいU-21のための合宿・Hakone Neighbor’s Campに迫る


突き抜けるような、気持ちの良い青空。太陽が容赦なく照りつける箱根の大地で、私たちは未来への扉を開けるために一堂に会した。
7月22日から10日間にわたって開催された「Hakone Neighbor’s Camp」(以下「Neighbor’s Camp」)。高校生向けのキャリア支援を行う「高校生みらいラボ」がライムリゾート箱根に招集したのは、20歳以下の学生と、起業家、イノベーター、表現者たち。彼らは未来への情熱、そして夢を共有する仲間を求め、日本・世界各地から箱根の地に集まった。

Neighbor’s Campは学校と家との往復だけでは得られない、魅力的なコンテンツが目白押しだ。
自分のモヤモヤをワクワクする夢へと変える「本当にやりたいことを見つけるワークショップ」に、起業家へ熱い想いをぶつけてフィードバックをもらう「本気プレゼン」。最高の食材を使って自らの手で食事を作り、自然や他者とのつながりを感じる「美食作り」。

さて、いったいどんな仲間が集まり、何が行われていたのか。ここからは初日と2日目の朝までの様子を紹介したい。



地球と繋がり、自分のあり方を考える夕食作り

初日のメインイベントとなるのが夕食の時間。なんでもNeighbor’s Campの主要なコンテンツのひとつが“美食”を体感することだという。
会場となる中庭に参加者全員が集まったところで、高校生みらいラボの代表であり、Neighbor’s Campの主催者である喜多さんから声がかかった。(喜多さんについてはこちら

「では、合宿をはじめていきたいと思います。」

喜多さん:写真中央

時刻は18時。そろそろ夕食の時間だが、食事は用意されていない。その代わりに中庭のテーブルの上にはお米や新鮮な野菜、塊のチーズなどの食材がずらりと並んでいる。

いったい何が始まるのだろうか。

程なくしてその疑問は解けた。なんと、夕食は自分たちで作るのだという。喜多さんの話を聞いてみよう。

「前回の合宿では料理を用意したんですけど、それだとどんなにいいものを出しても、やっぱり自分で作ったものには劣るんですよ。

いい食材を使って自分で料理を作って『うまかった!』って言うことで、自分はこういうことを大切にしたいんだとか、人間は地球や自然と繋がっているんだとか、そういうことを感じてもらいたいと思います」

ホテルの超一流シェフにおいしい料理を作ってもらうのもいい。だけど自分の感性を生かして作ったごはんは印象に残るし、よりおいしく感じるのかもしれない。

続いてコメントをくれたのは、夕食作りを担当してくれる料理人の“そばニキ”さんこと坂部さん。坂部さんは神奈川県鎌倉市にある蕎麦処「slove」のオーナーだ。サステナブルをテーマに、地産地消やフードロス削減につながるメニュー開発に取り組んでいる。

「喜多さんが言ったように、出されたものをただ食べることだったり、お腹が空いたから適当に何かを食べて満たしたり、生活の中で“ただなんとなくやっていること”って多いんじゃないでしょうか。

その当たり前になっているものを、食材に想いを馳せ、自分たちの手を加えることで普段よりも少し意識してみようか、ということで今回の夕食作りを企画しました。だからといって難しいことは考えなくていいです。食材に触れて、匂いや感触を感じながら作ってもらえたらいいかなと思います」

この日のメニューは「かんたん蝦夷鹿リゾット」と「この辺のサラダ」。蝦夷鹿のリゾットに使う鹿のジャーキーと北海道のラクレットチーズは坂部さんが実際に生産者の元を訪ね、味だけでなく生産者の想いを聞き、本当に良いと思ったもののみを仕入れているそうだ。サラダは平塚(神奈川県)産の新鮮な旬の野菜を使う。

ここで参加者は3つのグループに分かれた。さて、説明も聞いたことだしおいしいごはんを作るぞ!と意気込んだのも束の間、喜多さんから「待った」がかかった。
いわく、「おいしい料理を作ろう!と気合を入れて作るのとはちょっと違う」らしい。どういうことだろう。

「ここにある食材から、"何かおいしいもの"をみんなと一緒に作り出す、という意識を持ってほしい。それは必ずしも今あった説明通りの料理じゃなくてもいいです。大事なのは、食材の持つポテンシャルがどう組み合わさって、口の中や胃袋にどうインパクトをもたらすのかを考えて作ること。
社会が『こういう人間になりなさい』と押し付けてくるものに従うのではなく、自分という人間がどうありたいかを考えて作ってみよう」

つまり「自分は何を大切にしたいか」「社会の中で自分はどうありたいか」、料理を通してそれらを考えることが、この合宿のコンセプトを理解することにつながるのだそうだ。

食材は用意されている。作り方も説明される。しかし、それに従うかどうかは自由。手順通りに作るのもいいし、リゾットに使うチーズをサラダにトッピングしてもいい。私たちは、何でも作れるんだ。

喜多さんがそう促すと、各テーブル思い思いの作り方で料理を始めた。

「チーズのスライスはこれくらいの厚さでいいかな?」
「きゅうりに味噌をつけるとめっちゃうまい!」
「盛り付けはこんな感じでどう?」

生産者に想いを馳せ、食材に触れ、みんなで切り方や盛り付けを考える。その場の思い付きでトマトの切り方を変えてみたり、きゅうりにチーズや塩、味噌をのせて味見してみたり、“当たり前”ではない発見を楽しむ。

そして、リゾットとサラダができあがった。
ひと口食べると「おいしい!」の声が自然とこぼれ、食材の持つパワーで身体中が満たされていくのを感じた。

リゾットは噛むほどに味わい深く、蝦夷鹿の旨みを感じられる。塩や味噌を少し加えて味を変えてみるのも楽しい。サラダはシンプルな味つけだがみずみずしく、旬の食材が持つパワーがぎゅっと詰まっている。トマトときゅうりのおいしさを存分に味わうことができる。

「料理を通して自分がどうありたいか考える」。
実際に自分の手で作って、食べてみて、その意味が理解できた気がした。この後のコンテンツも楽しみだ。


大人の言うことは、信じるな

夕食が終わって自己紹介の時間。そういえば、まだ全員と顔を合わせていなかった。この合宿にはどんな人たちが来ているのだろうか。
初日は総勢30名。高校生・大学生の“学生参加者”にコーチや起業家といった“大人”が全国から集まっている。

参加者がステージを囲むように集まって座る。隣の人と夢中で話し込む人もいれば、少し緊張した面持ちで会の進行を待つ人もいる。
ステージ上の喜多さんが「用意ができた人から自己紹介をお願いします」と促し、流れを参加者に委ねる。自己紹介は一人1分。順番は決まっていない。

初めはみんながお互いの様子を伺っていた。会場はしーんと静まり返り、空気がぴりっと張り詰める。1分ほど経って一人の男子高校生が「じゃあ、僕から」と思い切って手を挙げ、自己紹介を始めた。彼を皮切りに、みんな順々に自己紹介をしていった。
なぜ合宿に来たのか。いま何に興味があってどんなことをやりたいのか。想いを語る。

「この合宿はやりたいことがなんでもできそうなので、なんかやってやろう!という当たって砕けろの精神で来ました。企画を一つ用意してきたので、みなさんぜひ参加してください」
「環境保護や対話の分野で起業したくて、そのイメージを固めるために来ました」

いきいきと語る人、控えめながらも芯をもって話す人。みんな前向きで、輝いているように見える。
一方で、悩みや葛藤を抱えている人もいた。

「大学受験の課題を進めないといけないのに、自分が本当にやりたいことがわからなくなってしまって、ぐちゃぐちゃな気持ちで今ここにいます」
「いつもはワクワクする気持ちを大事にしてるけど、ずっと走り続けてきて最近ちょっと疲れてる感じがしていて。1回立ち止まって自分と向き合いたいと思っています」
「目の前にあることをとにかくこなすような毎日が続いているので、皆さんの想いとか最近熱くなってることを聞いて、これからのために何かヒントをもらいたいです」

よろしくお願いします、と言って話し終わると温かい拍手が送られる。学生も大人も関係なく、全員がお互いの話を全身で聞く。「ありのままの自分で大丈夫なんだ」と思える絶対的な安心感がこの空間にはある。

大人の参加者は、そうそうたるメンバーが集まっていた。
・社団法人を作っている医者
・スタートアップ代表取締役をやっていたラッパー兼書道家
・声で人生を広げるサポートをするボイストレーナー
・脳科学に詳しいYouTuber事務所社長
・勤めていたIT企業を前回の箱根合宿から帰った翌日に辞めた、アーティスト兼コーチ
・2週間後からJICA(国際協力機構)のプログラムでパプアニューギニアに行く元小学校教員
・50代で起業した看護師(なんと、喜多さんのお母さん!)

なんとも個性豊かな人たちの集まりだ。医者に、社長に、起業家。肩書きだけ聞くと「私なんかがそんなすごい人と話していいのかな」とびびってしまうかもしれない。
でも、そんな心配はいらない。ここにいる大人たちは、みんな良い意味で“すごい人オーラ”が出ていないのだ。フラットに、同じ目線で接してくれる。それは彼らもまた、一人の人間として悩み、葛藤してきた過去があるし、学生に負けないくらい貪欲に学ぼうとしているからだ。

自己紹介が一通り終わると、合宿のプログラムについて説明があった。
合宿中の過ごし方は基本的に全部「自由」だ。午前は好きなワークショップに参加して、午後は自由時間。箱根を旅してみるのもいいし、自分で何かイベントを企画してもいい。夜は大人に向けて自分のやりたいことを熱く語りフィードバックをもらう「本気プレゼン」をするチャンスがある。

つまり、自分が望めばワークショップが受け放題だし、大人からのフィードバックももらい放題。なんて贅沢なんだろう。2日目以降はボディメイク日本一のトレーナーや落語家が日替わりで来てワークショップを開いてくれるという。ちなみに喜多さんはというと、ワークショップを100個、話せるエピソードも200個くらい持っているそうだ。すごすぎる。

説明が終わったところに、一冊のノートが配られた。一見何の変哲もないノートだけど、何に使うのだろう?
喜多さんはこれを「魔法のノート」だという。

「このノートの1ページ目に自分の欲しいものを20個くらい書いてください。それを大人に見せたら、たいていのことは叶います。大人たちに自分の考えてることややりたいことをたくさん伝えれば、この会社のことだよねとか、あの人と話してみたらいいよとか、必ずヒントをくれますから」

これは…本気だ…。学生はもちろん本気だけど、大人たちもまた、本気で学生の夢を叶えに来ている。しかし今度は喜多さんから思わぬ忠告があった。

「みなさん、最後に大事なことを言います。大人の言うことはほぼ信じないでください」

さっきと言っている事がまるで違う。大人とたくさん対話しろと言ってたのに、どういうことだろう。

「何が言いたいかというと、答えは自分の中にあるということです。大人は説教っぽく色々と言いたがるけど、最終的に答えを持っているのは自分だけです。自分が選んだものが正解だから、自信を持ってください」

先生や大人の言う通りにしなければならない。学校で、家で、課外活動で、私たちは無意識のうちにそう思い込んでしまう。だけど彼らはあくまでアドバイスをしているだけ。最後に自分の人生を決められるのは自分だけなんだ。そんな大切なことに気づかせてくれた。
そして喜多さんは、最後にこう締めくくった。

「もう一つ、大事なこと。私はこれが好きなんだ!っていうことをたくさん伝えてください。自分の愛するもの、好きなものをどんどん周りに発信してください。この合宿はみなさんが求めるものに必ず応えます。もし周りの人と比較して落ち込んでしまったら、運営スタッフでもうちのお母さんでも、身近な大人を捕まえて気軽に相談してください。では、一緒に最高の合宿を作っていきましょう!」

自分は社会の中でどうありたいか考えること、答えを自分で見つけること。
これがこの合宿での重要なメッセージになっているようだ。喜多さんからの激励を受けてみんなの顔が上向き、会場にエネルギーが満ちた。

いよいよ箱根合宿が幕を開けた。

合宿を気持ちよく過ごすための「虎の巻」なるものも配られた


うまくいかなくてもいいから、まずやってみる

時刻は夜11時。高校生参加者による最初の持ち込み企画が始まった。高校2年生のレンくんが呼びかけたのは、その名も「妄想ミライ会議」。会議といっても着席して資料が配られるようなお堅い会議ではない。
こうなったらいいな!こんなこと起こったら最高じゃない?と理想の未来をみんなで熱く、フランクに語り合う会議だ。

ステージを囲むように階段状に設計されたベンチには、高校生から社会人まで8人ほどがそれぞれ腰かけている。時間になり、さっそく会議が始まった。ステージ上のレンくんがスライドを背に、集まった参加者に向けて問いを投げかけた。

「まずひとつめ。環境問題とか、今って解決しないといけない課題がたくさんあると思うんですけど、結局“理想のミライ”ってどんなのだと思いますか?」

参加者は少し考えてから、自分の思いついたタイミングで自由に発言する。

「虫とか花とか、人間以外の生き物とも会話できる」
「めっちゃモテる。毎日、誰かに告白される」

誰かが発言すると、ほかの誰かが「いいね」「それめっちゃ面白い!」とリアクションをくれる。レンくんはスライド上で映し出したGoogledocumentにみんなのアイデアをどんどんメモしていく。

あらかじめ用意された3つの問いに答え終わったところで、スライド上にはルーレットのような円形の図形が映し出された。英単語が書かれた大・中・小の3つの円がひとつに重なり、それぞれの円がくるくると回る。

(引用:https://2121futuresinsight.jp/)

いったい何がはじまるのだろう?英単語は内側から疑問詞、名詞、動詞がぐるっと一周分並べられている。回転が止まったタイミングで、目印の位置にある3つの単語でできた一文を“問い”とする。

そう、これはミライに関する質問作成ツールだ。たとえば“How”と“Futures”と“Start?”が並んだら「ミライはどうやって始まる?」という質問ができあがる具合だ。

この質問作成ツールを使っていくつかの問いを作り、みんなで考えた。妄想とはいえ、抽象的な問いにはなかなかアイデアが出にくい。全員が考え込み、沈黙してしまう場面もあった。そんなときはレンくんが「じゃあ、この観点から考えてみるとどうだろう?」と提案したり、参加者からも「こんなモノも近いかも」とアイデアが出てくる。
まさに、みんなでひとつのワークショップを作っていた。

ワークショップは順調に進んだようにみえた。しかし終わってからもレンくんの表情は今ひとつ晴れない。
翌朝、眠い目をこすりながら朝食を食べているレンくんにその訳を聞いてみた。

「うーん、正直、難しかったです。なかなか思った通りにいかなくて。ワークショップが終わってからは、どうしたらもっとうまくいくか色んな人から意見をもらっていました。夜中の2時くらいまでフィードバックをもらいながら話していて、いいアドバイスがもらえたので次はやり方を変えてみたいと思います。何事もやってみないことにはわからないし、僕は当たって砕けろの精神で来たんで次もがんばります!」

話し終えたレンくんは晴れやかな表情をしていた。まずやってみる。周りの人にアドバイスをもらう。改善して、もう一度チャレンジをする。この合宿では、成長に必要な一連のプロセスを一気に体験できる。

「まだ高校生だから」とか「失敗しちゃうかも…」といった遠慮は一切いらない。やろうという意思さえあれば何でもできるんだということをレンくんは教えてくれた。
うまくいかなくても馬鹿にする人はいないし、むしろガンガン失敗して自分を成長させていく。自分のやってみたいことに思いっきり挑戦できるのもこの合宿の魅力といえるだろう。


私もあなたも、実はみんな繋がっている。“菌ちゃん”が教えてくれたこと

2日目は朝から寒麴づくりのワークショップが開催された。

寒麴とは漬物の素となる発酵調味料のことだ。米麹と塩、蒸したもち米を丁寧に仕込んで作るもので、野菜や肉を漬け込んでおけば麹漬けができる。生野菜につけてもおいしいということで、スティック状に切ったきゅうりにちょっぴりつけて味見をさせてもらった。発酵食品特有の鼻からほんのり抜けるアルコールのような香りと、口に広がる深い旨みが印象的な味わいだった。

寒麴作りを教えてくれるのは、山口県で300年続く老舗漬物屋「うまもん」の11代目・ゆりこさん。このワークショップ、材料が用意されていて説明を聞きながら一緒に作る、いわゆる“お料理教室”とは訳が違う。ゆりこさんはただ作るだけでなく、心を整えながら発酵食を作る“作業瞑想”的なスタイルを大事にしている。

黄色いエプロンがトレードマークのゆりこさん

ワークショップが始まる前に、ゆりこさんは作業に集中できるよう着々と場を整えていった。まずは近くで会話していた人たちに場所を移動してもらった。会場が朝の静かな澄んだ空気に包まれる。それから私たちにも、リラックスできる体勢で座って合掌をし、自分の心の声を聞くように促す。
そのままワークショップが始まり、ゆりこさんは始めに発酵食品の歴史について説明してくれた。おっとりとしながらも明るくテンポの良い語り方に、ついつい引き込まれてしまう。

発酵に欠かせない菌のことを、ゆりこさんは愛情を込めて“菌ちゃん”と呼ぶ。
「発酵食品は、菌ちゃんと人の手によって生まれたものなんだよね。そもそも漬物の歴史は3000年前から始まっているんです。海のそばに甕(かめ)があって、そこにいつの間にか海のお塩が入ってきてて、毎日野菜を入れていた人が『あら不思議!風味も良いしいつもより長持ちしてるぞ!』っていうことに気づいた。そうして発酵食品である漬物が生まれました。

地球の歴史は36億年前にさかのぼるんだけど、この菌ちゃんたちも36億年前に生まれて、私たち人間は3500年前くらいに生まれてるんです。つまり、菌ちゃんは大、大、大先輩なんです」

合掌をしながら、菌ちゃんのことをたくさんお話してくれた

私たちの大先輩、菌ちゃん。菌ちゃんの命は人類が誕生する遥か昔から存在し、これまで絶えず脈々と受け継がれてきたのだ。尊い。むしろ“菌さん”と呼んだ方がいいのかもしれない。

「ということで、今から米麹をさわっていこうかなと思います。このときに、ぜひ菌ちゃんと会話しながら作業してみてください。ときどき味見してもらっても大丈夫です」

もちろん、麹と会話したことなんてない。だけどゆりこさんのお話を聞いて麹を触ってみると、手がびりびりする感覚があった。たしかにそこに菌ちゃんを感じられた。ほかの参加者も味見をしたり菌ちゃんとたわむれたり、みんな興味津々だ。

「では次にお塩を入れていきます。このお塩は山口県の海から来た、精製されていない釜炊きのお塩です。これを米麹にぎゅぎゅっと揉みこむように混ぜていく。ある程度できたらもち米を入れて、米麹をもち米にくっつけていくようなイメージで混ぜてください」

言われたとおり、ぽろぽろの米麹とぱらっとしたお塩を手でぎゅっと握るように揉みこんでいく。これがなかなか難しいのだけれど、「おいしくなあれ」「菌ちゃん、よろしくね!」と念じながら、お塩と米麹をぎゅぎゅっと握って揉みこむ。ここに蒸したもち米を混ぜ、ゆりこさんの持ってきた寒麴を合わせて炊飯器で寝かせたら完成。

ところで菌ちゃんは私たちの大先輩らしいけれど、レシピサイトも検索ツールもない時代、昔の人はどうやって寒麴や発酵食品を作っていたのだろうか。そんなことを考えていると、ゆりこさんから解説があった。

「ここまでいろいろと混ぜたり揉みこんだりしてもらったけれど、今私たちがやっていることのもともとの起源は、最初もお話したように“たまたまそこで反応が起こっただけ”のもの。そのうまくいった事例をレシピとして使っているだけなので、いわば歴史の中の偶然なんです。だから“人が作る”っていうよりは、“菌にいい感じに働いてもらうために、私たちが環境を作ってあげる”っていう感覚」

この寒麴ができあがったのは歴史の中の偶然、そしてあくまで私たちは環境を整えているだけ。まるで「もう少し謙虚に生きなさい」と菌ちゃんに諭されているような気分だ。
続けて、ゆりこさんは心があたたまる神秘的なお話をしてくれた。

「さらに言えば、今作った寒麴と同じものは2度と作れない。なぜかというと、私たちの手の中には常在菌がいて、空気中には環境細菌っていう菌ちゃんがいる。箱根の大地で、このメンバーで、この時間に作ったもの。それはオンリーワンの菌ちゃんだからね。

そして今、みんなの常在菌が寒麴のおかげでひとつになることができました。みんなで米麹をまぜまぜすることによって、自分とお米、自分と菌ちゃん、自分と他者、それらのつながりや境目が曖昧になる。自然界って、実は全てが繋がってるんです」

ワークショップ終盤になると場の空気に一体感が。
みんなの距離もぐっと縮まった。これも菌ちゃんパワー…?


山口県から来た米麹の菌ちゃんとお塩、箱根の大地の菌ちゃん、日本各地から集まったみんなの常在菌。それらをみんなでまぜまぜするうちに、心まで一つになったような気がする。発酵食品ってまさにダイバーシティだ。発酵食品が世界平和につながる、そんな日も遠くないのかもしれない。

初日の夕飯に続いて、食材を一つ一つ大事に見て、触って、食べる体験。自分が地球や自然とつながっていることを五感で感じる。これこそが本当の意味でSDGsを達成する第一歩になるだろう。


社会を変えたいなら。夢を叶えたいなら。

さて、ここまで2日間のコンテンツについて書いてきた。そしてこれらは、Neighbor’s Campのほんの一部である。

「何を食べるか」は、未来を選ぶ一歩である。それが、私たちが社会を変える方法の一つであることに気づいた。大人の言うことは、聞かなくてもいい。最後に人生を決められるのは、自分だけだから。私たちはみんな、他人と、自然と、地球とつながりあっていることを体感した。

その道のプロから教わり、実践し、フィードバックをもらい、また実践する。これを一気通貫で、高い志を持った仲間と共に体験できる。学校と家との往復だけでは得られない体験がここにはある。このNeighbor’s Campで学んだこと、感じたこと、そして夢を語り合った瞬間は、私たちの心に響き続けるだろう。

語りたい夢はあるか。
叶えたい未来はあるか。
次のNeighbor’s Campを作るのは、君だ。

取材・執筆:溝川みか


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