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【映画レビュー】演出とリーダー適性とニジマスとトラウトサーモンと。『特別編響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』の感想

“特別編”なので厳密には“劇場版”ではないのですが、映画扱いしてレビューしていきますよ。

『特別編響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』のざっくりとした感想

『特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』を観てきました。

特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト
制作年:2023年 / 制作国:日本
57分 / 京都アニメーション制作
監督:石原立也

https://eiga.com/movie/97304/

武田綾乃による原作小説をアニメーション化した京都アニメーション制作でおなじみのシリーズ最新作。

原作の短編集にあたる『響け!ユーフォニアム北宇治高校吹奏楽部のホントの話』の人気エピソードを中編アニメーション化しました。60分ないぐらいの短めな作品となっているのですが、ただし監督は石原立也監督です。

本作を観てきた感想をざっくり一言で言うと……

傑作!!

「部長になった黄前ちゃんが苦労するって話なのか?」
と思いきや“そうじゃなかった”し“そうじゃない”の描き方がまた上手い。

中編だからと舐めてかかったけど60分弱の繋ぎの話ながら、このサイズの正解を見せられた気分でした。

もっと内容に踏み込んだネタバレ寄りの感想を書いていきます。


『特別編響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』のもっと踏み込んだ感想


■中編スケールだけど手堅い演出の嵐!

今作は“劇場版”ではなく“特別編”と冠しているだけあって、本編も短めであれば、話の内容も学校内で実施するアンサンブルコンテストということで、全体的にスケールは小さめ

こうなると映画としても見劣りするかな……

と思いきや、そんな中編でもしっかり見応えを見せてくるのが、ユーフォニアムクオリティ。

主人公の黄前ちゃんがこれまでとは違って、吹奏楽部の部長になって迎える課題であったり、環境の変化、ドラマを絶妙な演出で見せる見事な中編となっていました。

(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

分かりやすいところでは同級生の釜屋つばめと黄前ちゃんが一緒に大型の楽器を運ぶシーン。悩みを抱えるつばめに対して黄前ちゃんが助言をすることで、つばめがそれを解消するというシーンなのですが、楽器を一緒に運んで段差の向こう側に運ぶという行為がつばめの心情や状況とあからさまに重なる様に描いているんですよね。

そんな風に場面の各所にメタファーになってますよーとか、台詞になっていないけどここでこの子の個性が出てますよーみたいな演出がこれでもかと詰まっていて、セリフにしない演出が好きな身としては幸せなひとときでした。

セリフ以外でも魅せる演出だらけでめちゃ私好み!


■まとめ役がうまくいっている時って確かにこういう感じだよね

今回珍しいな、と思ったのが黄前ちゃんが部長になる話ということで、普通だったら部長という立場に慣れずに四苦八苦するという展開が定番だと思うのですが、この映画は全く逆。

確かに黄前ちゃんは部長という立場に慣れている感じではないのですが、全然部長という立場に適性があって、自然と部長として仕事をこなせてしまっている……というリーダーとしての立場が最初からうまくいっているという珍しい映画でした。

▼『スキップとローファー』が好きになりすぎて、予告編で黄前ちゃんにみつみちゃんの幻影を観ていたけど、さすがプロの声優ですわ。本編が始まって早々、“部長をこなれてない黄前ちゃん”の具現化ぶりに一気に幻は消えました。

(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

これだとドラマが生まれにくくなってしまうところですが、そこは黄前ちゃんがアンサンブルコンテストを前に発生するトラブルをどうナチュラルに解決していくかであったり、同級生と対比してなぜ黄前ちゃんにリーダー適性があるのかを見せていったりと、群像劇の要素を駆使しながら見応えに昇華しているところが見事でした。

思えば、現実でまとめ役を任された時にうまくいくパターンって、映画の様な紆余曲折を経て成長していく場合よりも、大抵スタートからスムーズにいくよな……というのは今回の映画を観ながら再確認した次第。

“リアルなリーダー適性がある様子”を描いた映画だった様に思います。

ただ勘違いしちゃいけないのは、黄前ちゃんのこのリーダー適性ぶりは、ナチュラルに生まれたものじゃなく、これまで一年生からの活動で培ってきたもの。

(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

今作でも先輩とのやりとりが描かれるシーンもありますが、こういった場面で、その適性って一朝一夕で生まれたものじゃないことも、しっかり描かれてるのも手堅いです。

リアルな“リーダー適性”を描いた映画!


■ニジマスとトラウトサーモンってなんだよ

この映画、観終わった後にずっと気になっているシーンがあります。

黄前ちゃんたち仲良しメンバーが一緒に下校するシーン。
メッキとラッカーの違いの話題になり、突然に麗奈が「ニジマスとトラウトサーモンと同じようね」みたいな話をぶち込み、みんながその話を自然と受け入れている様子が、「そんなしっくりくる話じゃねーだろ」とびっくり

(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

魚に詳しくないので突然挿入されたニジマスとトラウトサーモンの話と、それを自然と受け入れる黄前ちゃんたちに違和感がありすぎて、映画を観た後もずっと引っかかっていました。

私はこの2種が同一視されているというスタート地点にすら立てていないよ。

▼ギリ、どうぶつの森で“ゴールデントラウト”って崖上で釣れる魚が居たな……とか思い出した。私の魚知識は大体ここが出典。

みんなはあのシーンをどんな風に見ていたのか気になります。
しっくり来ながら見ていたのかなぁ。

ニジマスとトラウトサーモンのシーンだけ次元が飛んでしまっているようで観た後もずっと気になりすぎてる。


まとめ

●セリフで語らない演出が盛りだくさんで好みすぎる。
●“リーダー適性がある”ことの映像化としても見事な映画だと思う。
●ニジマスとトラウトサーモンのシーンは夢だったのかもしれない。

という感じで、いろんな感情が湧き上がるとても良い映画でした。

このサイズ感の作品でこれだけの満足感が得られるのであれば十分ですよ、十分。楽しいひと時をありがとうございました。中編でも全然最高でした。

演奏シーンはいつもより少なめでしたが、自身があまりそこを求めているわけでもなかったのも、ちょうど良かったかもしれないですね。

そして、この続きは来年4月からの『響け!ユーフォニアム3』へと続きます。今回は初めてリアルタイムでTVシリーズを追えそうなので楽しみです。


公式サイト


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