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『ウルフウォーカー』の感想。これはマストチェック!絶品の美術で彩る秀作アニメ映画

こんにちは。
アニメ映画ライターのネジムラ89です。

上映館は限られていますが、各所の大絶賛の一本。

『ウルフウォーカー』を観てきました

カートゥーン・サルーンの最新作『ウルフウォーカー』を観てきましたよ!

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ウルフウォーカー
制作年:2020年 / 制作国:アイルランド、ルクセンブルク カートゥーンサルーン制作
監督:トム・ムーア、ロス・スチュアート

『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー海のうた』に続くケルト三部作最終章。三部作というほど話に繋がりがあるわけではないですが。

映画賞でもすっかり有力アニメーション制作会社となっているカートゥーン・サルーン社の2020年最新作。

高価な絵本のような、鮮やかな色彩とポップなキャラクターが見せる神話アニメーションで、前評判もかなり良いということで、ハードル高めの期待具合で観に行きました。


観てきた感想をざっくり一言で言うと

秀作!

研ぎ澄まされたデザインセンスで、全身をメッタ刺しにされたような体験。「綺麗だ、綺麗すぎる。」と映画中ずっと美への感動に電源が入りっぱなしでした。

もうちょっと詳しい感想を書いていきます。

見事すぎる美術に見惚れてしまう眼福映画!

いやぁ、本当に見事。
見事すぎる美術です。

よく、私はカートゥーン・サルーンの作品を紹介するときに“めっちゃ洒落たパワーパフガールズみたいな絵”と表現しているのですが、もうなんかその説明では、緻密さにギャップがありすぎてダメな気がしてきました。

もちろん『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー海のうた』でも『ウルフウォーカー』で描かれたような可愛さや美しさといった魅力の片鱗は表れていたわけですが、今作では作中の中でも微妙なタッチの違いであったり、明暗の違い、カット割の工夫などなど......挙げたらキリがないぐらいに独自の魅力があり、ストーリーとの調和が抜群の相乗効果を発揮しているのですよ。

しかも、どのシーンも、いちいち絵になるんだ、ほんと。
立体的になったり、平面的になったりと、奥行きが縦横無尽に変わっていく様がまた面白いのだけど、どれも一場面一場面が言葉通り“絵になる”ようにできているのですよ。これはすごい。

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あまりにも絵になりすぎて、山から街を見下ろした時に、お城が平面すぎて『インセプション』みたいになってるのもちょっと笑えたのですが、それぐらい本作では奇抜な立体感になっているのです。ぜひ多くの人にこの意匠を体験してもらいたいですよ。

名曲!オーロラの『Running With The Wolves』

作中には名シーンが数多くあるのですが、なんといっても印象的なシーンが、ロビンとメーヴが狼姿で森を疾走するシーン。

前述の絵の美しさに加えて、オーロラ(AURORA)さんの『Running With The Wolves』が流れるわけですが、曲・絵・物語の組み合わせがパーフェクトすぎて、もうここで恍惚とした私の魂は天に召されかけました

オーロラの『Running With The Wolves』は予告編でも使用されている曲ですが、本当に作品に合っていますよね。

意外なことにこの曲は書き下ろし曲ではなく、2015年にリリースされた曲で、歌詞自体はもっと前のかなり若い頃に書かれたものなんだそう。あまりに映画にハマりすぎていて、そうは聞こえないのですよ(とはいえ、劇中で使われているのは『ウルフウォーカー 』用に改めて作られたアレンジバージョンではあります)。

もしかして曲ありきで、作られた映画なのかな?とも思ったのですが、インタビューによるとトム・ムーア監督が制作過程で、偶然この曲を発見したそうで、たまたま映画とこの曲は巡り会えたとのこと。

その運命的な背景を知ると余計、あのシーンが神秘的に映りますよね。

人間vs自然の『ウルフウォーカー 』の答え

また、インタビューなどでも言及されている通り、本作では人間の開発に脅かされる自然が描かれているので、『もののけ姫』とも近いテーマの映画になっています。

『もののけ姫』では結局どっちつかずの結末を迎え、人間と自然のどちら側につくといった答えは出さなかったのですが、『ウルフウォーカー 』は面白いことに結構な自然派寄り。寓話的な側面があるからこそとも言えますが、冷静に考えると衝撃的な結末なんですよね。

この人間と自然の対立については、面白いことに同時期公開のアニメ映画でも行われています。『羅小黒戦記ぼくが選ぶ未来』がまさにそうで、人間の開発によって追われた妖精が反旗を翻し、それを主人公たちが食い止めるという物語になっていました。

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『羅小黒戦記ぼくが選ぶ未来』は結果的に、人間寄りの結末になるので、かなり対照的なのですが、ここは制作国の思想の違いというより、描いている時代の問題なようにも思います。

それよりも日本ではすっかり人間vs自然というテーマでの映画が登場しなくなったような気がするというのにも気づかされたりしました。

議題として忘れてしまったというより、日本はそこの議論はすでに成熟してしまって自然保護はするに越したことはないという考えが定着しているからこそなくなったんじゃないかと思いますが、そもそも一人一人ができることの限りがあることに気づいたのに近いかもしれません。

環境先進国とされる欧州が『ウルフウォーカー』を作り、植林を進めて着々と自然保護に貢献している中国が『羅小黒戦記ぼくが選ぶ未来』を作り、そこに及んでいない日本は未だ『もののけ姫』を擦り続ける状態にあると考えると、これを機に改めて日本も“人間vs自然”というテーマについて考えて直してもいいタイミングかもしれない、なんてことを思ったりもしました。


そんな感じでいろんなことを思い巡らされた『ウルフウォーカー 』は見所盛りだくさんの秀作映画。上映館は限られているようですが、お近くで上映されていましたらぜひ、足を運んでみてくださいませ。

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そしてそして関西の方にお知らせ。

2020年11月28日(土)には関西・アメ村のバーCROSSOVER様でトークイベントをすることになりました。

ディズニーをはじめメジャー作はもちろん、欧州・中国作品、映画賞で話題の作品から配信作品、その中での日本の在り方まで...手広く抑えていきます。

来場者には缶バッジのお土産有りです!ぜひお近くの方は足を運んでくれると嬉しいです。


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