鬼の面

息子は時々、家にある緑色の鬼の面をかぶって「鬼だどー」と現れることがある。私たちはキャーと割と適当に怖がってみせるのだが、その実、息子の鬼は全然怖くない。逆に襲いたくなるぐらい、かわいい。所詮おもちゃの鬼の面だしな、と思っていたんだけど、昨夜、私と夫が息子の任命を受け、それぞれその緑色の鬼の面をかぶってみたところ、それが妙に怖くて気持ち悪いということを発見してしまった。

面というのは、その面がどういう風に精巧か、ということももちろん重要ななんだろうけど、それと同じかそれ以上に、それをまとった身体に他者の視線がフォーカスされるようだ。多くの情報源と考えていた「表情」が見えなくなったせいだろうか、やけに身体が気になってくる。そうして眺めてみると、大人の身体は情報が多い。歪っていう事なんだろうか。これまで数十年を生きてきた肉体は、妙に饒舌で、気持ちが悪い。

対して3歳児の身体はコンパクト、程よく脂肪にまとわれており、滑らかで美しい。でもそれだけといえばそれだけ。ただただ愛くるしくて、鬼というキャラクターと親和性が低いのかも。

息子は面をかぶって「鬼だどー」と私たちに言わせると、その後面を外すように要求してくる。リセットまで含んで完成だと思っている様子。ベッドに入ったはずの私たちは、「なんやぁ、お父ちゃんかぁ」「あ、お母ちゃんやった!」を何度もなんどもやらされる。

私はだんだん疲れてきて、とうとうリセットを拒み「もっと食わせろ、もっと食わせろ」と意味不明に息子に迫り始めた。息子はマジで怖がってくれて、思惑通り、鬼の会はお開きとなった。夫は軽く引いていた。

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