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パチンコが面白いわけがない

 チャンスでもないのにチャンスと表記するのをやめてほしい。私は目の前の赤文字に対して強く遺憾の意を表明する。
 信頼度約13.7%程度で何がチャンスなのか。役物落下を死んだ目で眺めながら、鬼がかりを待つ。
 あ、鬼がかりって言っちゃったよ。頑張って濁してたのに。
 左隣に座る金髪の、柄の悪そうな兄ちゃんはイヤホンをしながら大音量でパチンコ玉を弾いている。ライブ会場で曲の雰囲気を考えずUOをぐるぐる回している人間が光害と呼ばれ非難されるのならば、パチ屋の大音声も非難されるべきである。まだ右打ち嫌がらせ仙人じゃないだけ許せるが。たまに、おそらく意図的に爆音右打ち警告音を轟かせているのだろう「この世全ての悪」の存在が確認できるのだ。その伝説上の生物とも既に二、三回遭遇しているため、パチ屋ではもう何にも驚かない気さえする。
 ふと気を抜いた一瞬に、隣の台の爆音先バレが鳴り響き、驚いてつい椅子から落ちそうになる。フラグの回収と兵は拙速を尊ぶと孔子だか孫子だかも言っていた気がするので、私は悪くない。目覚ましにしたい快音ランキング堂々の一位として有名な某先バレ音を恨めしげに聞いていると、眩いフラッシュと共に自分の台に鬼がかり演出がやって来た。
 信頼度、約70%。希望が胸に湧く。
 台のグラフを見れば、私の入店時刻はここ数日間で当たりが出やすい時間帯に該当していることがわかった。しかし私は理論でパチンコを打つ人間は負けると考えているので、この考えも一笑に付さざるを得ない。単発当たりばっかりの台を選ばず、ただ座って画面越しに自分の目を見つめ、ハンドルを捻る。左上の上に球を当てるように最初調整して以降は特別なことはしない。それが私のマイルール、ジンクスであり、これ以上のこともこれ以下のこともしない。
 発展先は殺人鬼。ここで私は肩を落とす。ああ、終わったと、思う。
 鬼がかり状態での殺人鬼は三択のうちのちょうど真ん中の信頼度。だがしかし、私的には体感100負けである。保留変化なし、タイトル変化なし。ボタンを押すたびにフラッシュが輝いて期待を煽ってくる。
 ここでふと、最近はやったバンドの歌詞が頭に浮かぶ。眩しい、眩しい、そんなに光るなよと人を弄ぶギャンブル・マシーンのボタンを叩くと突如金色の文字が画面に浮かぶ。
 いわゆる激アツジャッジ。信頼度にして約75%。だがパチンコにおける75%は勉強が苦手な友人がはるヤマくらい当たらない。ランクマッチで打つじわれは当たっても、激アツジャッジは外れるのである。
 最終ボタンの演出が始まるも、すでに敗戦ムードの私はスマホの通知に目をやりながら、視線の端にボタン変化が来ていないことを確認する。負けを直視するのが怖いからだ。
 だが重要な事実を思い出して、再び一縷の望み。
 先ほどのテンパイ画面に表示されていたのが、奇数テンパイだったような気がしてきたのだ。
 みんな知っている通り、殺人鬼が体感100負けならば、奇数テンパイは体感100勝ちだ。 
 もしや、という思い。
 これは一周回って熱いのでは。
 最終ボタン。特別なボタン変化はない。
 周囲には「当たらないですよねw」みたいなノリに見えるようにあくまで軽薄に装い、スマホの角でボタンを押す。しかし、心の中では「勝ったな」とほくそ笑む私である。
 思惑通り、役物落下。
 ああ、当たったのねというようなクールな素振りを見せて周囲に「格の違い」を見せつけてラッシュ突入の抽選が始まる。ラッシュ確定演出は入っていなかったからどちらかわからないが、期待して待つ。
 だが、パチンコ屋に祈るべき神などいない。いても邪神である。
 邪神の存在証明をするかのように、祈る者はことごとくチャレンジの方に飛ばされてしまうのである。かくいう私もそうである。
 読者の皆皆様方はボタン一撃で進退が決まるのは、某台の一撃ボタンよりも酷というものだと思わないだろうか。
 チャレンジに行った時点で運ここに尽きたり、といった風。
 ボタンを待つ。すると、いつもと違う強烈な違和感。
 ボタンがおかしい。赤いのである。
 赤ボタン、大当たり濃厚。
 全身から湧き上がるような情動、鳥肌が止まらない。
 コーヒー100杯分にも相当し得るほどの覚醒物質、オーガズムにも近い快楽物質が脳を駆け巡る。
 ボタンを押す。 
 気持ちが、イイ。
 結果として、プレミアを逃した私が唯一掴める蜘蛛の糸を握りしめることに成功したのである。
 
 鬼がかり、3000ボーナス。
 私は、とうとう、負け組でなくなりました。

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