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Clubhouseは何を発明したのか

割引あり

話題のClubhouseを使ってみたんですが、いやはや、すごいですね。何がすごいってサービスの設計がすごい。非常に学びが多いです。もはや人類は新しい発明を手にしたのではないかと言っていんじゃないかってくらい、すごくすごい。すごすぎてだんだん頭悪くなってきました。このまま文章を書けなくなってしまう前に、Clubhouseは何を発明したのかについて書き残していきたいと思います。


お前誰やねん

「そもそもお前誰やねん!」と思う人もいるかもしれませんね。なのでざっくり言うとサービスの設計を常に考えている人です。さらにわかりやすく言うと、「Sarahah」というサービスの設計に感銘を受けたけどあの設計のままじゃ文化が育たないと思って「マシュマロ」というサービスを考えた人です。この説明だけで「なるほど、お前か」と理解してくれる人もいることでしょう。

具体的にマシュマロというサービスで何を考えたかと言えばこれです。

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いわゆる「グロースサイクル」ってやつです。実はサービスを設計する上で考えていることを自己流で図にしているだけなので、雰囲気でグロースサイクルって言ってます。

さて、問題は呼び方ではなく何を考えたかです。Sarahahというのは匿名でメッセージが送れるサービスで、当然ながらメッセージを受信した人は何か回答したくなります。サービス内で回答の欲求が生じている状態です。ですがサービス内で回答する機能はなく、SNSで回答するしかありません。それにより回答=シェアになり、めちゃくちゃ拡散するという仕組みです。図で言うと青矢印が鬼のように強く、それがバイラル性を高めているというわけです。

しかし弱点もあって、匿名だと赤矢印の質が悪すぎてろくな文化が育たないし、UXも悪くなって長く使える人がごく少数になります。そこで「機械学習でなんやかんやして赤矢印の質を向上させたらいい感じになるのでは?」と思って設計されたのがマシュマロです。

そうこう考えているうちに「質問箱」という秀逸なサービスがさくっと世に出ちゃいましたが、やっぱりどう考えても質問箱じゃ文化が育たないので気にせずリリースしました。その結果質問箱ほど爆発的なヒットはしていませんが、いまのところ何の施策も打っていないタイミングでも伸び続ける程度には使われています。

というわけで、ある程度は「なるほど、確かに設計について考えている奴だ」と思ってもらえたかと思います。

で、そういう人間がClubhouseをチェックしてみたらサービス設計がすごかったというわけです。

Clubhouseのバイラル性

Clubhouseの設計を自己流のグロースサイクルっぽいやつにしてみるとこうです。

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ちなみにグロースサイクルで「〜が増える」って全部に書くのうざくない?と思ったのでカットしました。

それはさておき、全てがシェアに向かう秀逸なサイクルですね〜

特筆すべきは赤矢印です。招待制なので、認知→登録の矢印に進めるのは認知する前に招待されたエリートのみです。ですから認知→登録のルートをばっさり切り落としているんですよね。

それによって何が起こるかというと、一旦シェアを通る迂回路の発生です。誰が招待枠を持っているかわからないので、SNS等で不特定多数に呼びかけるしかないんですよね。そうしてシェアを通過しているわけですから、同じ結果でもバイラル性が高まります。もちろん直通ルートよりはロスが大きくなりますが、バイラル性が高まれば認知も増えるので回収できます。なんと鮮やかなサクリファイスでしょう。

もし迂回しないパターンだったらこうなります。

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認知→シェアの矢印が消えました。登録が特別なイベントにもならないので使う前にシェアする人も稀でしょうし、登録→シェアの緑矢印の存在もほぼ消失します。シェアに向かう矢印が弱くなったのでバイラル性がぐっと下がりましたね。

でも普通のサービスはバイラル性が低いもので、これが普通なんです。それなのに一本の矢印を犠牲にするだけでバイラル性のあるグロースサイクルに組み替えるなんて、天才的なやり方です。

このやり方で重要なのは招待制という点じゃありません。それはあくまで表層であり、ユーザーから見た結果です。再現してみせる設計者としての視点で見るならば、重要なのは「グロースサイクルの矢印を一本犠牲にし、シェアを通過する迂回路を作る」という必殺技です。使える状況は限られますが、これは小技じゃなく必殺技レベルなので、サービス設計について考える人はみな覚えておいて損はないかと思います。普通は仕様変更で枠を増やしたり、すでにある矢印を強化しよう考えてしまうものです。なので「仕様はほぼ変えず、むしろ矢印を一本消しちゃおう」だなんて発想を持てるだけでも大きな価値になります。

本当にすごい部分はバイラル性じゃない

このClubhouseのバイラル性については、散々語られていることでもあります。ですがバイラル性はあくまでマーケティングの一部分の話であって、サービスの本質ではありません。実は本当にすごい部分はバイラル性じゃないと思っています。

Clubhouseのグロースサイクルは、2つのエリアに分けられます。

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左のバイラルエリアと、右のUXエリアです。圧倒的バイラルパワーで人を集めてUXエリアに送るという構造です。ユーザーがUXエリアに入ってからが本当の勝負です。

じゃあUXエリアはどうなの? というと……こっちのほうがすごいかもしれません。

非常にシンプルな仕様なのですが、特筆すべきは青矢印です。「うわ、ここをシームレスにまとめた設計が美しい……」と感じてしまったのですがそう言われても伝わらないと思うので、説明しますね。

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