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「関西女子のよちよち山登り 5. どんづる峯」(4)

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「すごいよなあ!おれも実物見たんは初めてやけど、なかなかの迫力や」

 次郞はうれしそうにスマホで写真を撮っている。登和子も撮ってみたが、変わった形をした白い岩が狭いフレームに縮こまって収まっているようにしか見えなかった。目の前に広がる雄大な世界観はまったく写せない。三枚撮ったところで諦めてスマホを下ろした。

 その代わり目に焼き付けるべく、ゆっくり端から端まで見渡す。

「どんづる峯のどんづるって、“屯ろする鶴”って字ぃ書くねん」

 いつの間にかスマホをしまった次郞が、白い世界を眺めながら話し出す。

「たむろするつる?」

「白い岩が、遠目から見ると鶴がたむろしてるように見えるから、そういう名前がついてんて」

 面白い由来だ。入口の山名の看板には“どんづる”とひらがなで書かれていたから、づるが「鶴」だとは思わなかった。

 言われてみれば鶴……のようには残念ながら思えなかったが、昔の人にはそう見えたのだろう。

「ところで、たむろってどんな字やったっけ?」

「ああー、説明しづらいやつ!」

 途端に次郞が視線を宙にさまよわせる。あー、うーとうなったあと、ひねり出すように「屯田兵の屯!」と教えてくれた。

「あ、分かった!分かったけど分かりづらいわ!」

 学生時代の日本史に登場した言葉だということは分かるが、どんな役割の兵だったかまではもう思い出せない。
 これが年を取ったということなのか、と思い至り、登和子は小さくため息をついた。

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