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父の余命

 父はがんサバイバーである。2015年に肝門部胆管がんを発症し、5時間に及ぶ手術を受けた。手術は成功し、3ヶ月の入院後復帰、抗がん剤を飲み続けて5年が経過し、寛解したと思われた。

 ところが、2021年のこと。腹部の違和感を訴え、血液検査のγ-GTPの値が1,000を超え、おかしいと思い検査すると、がんが再発、転移しており、余命1年と告げられた。

 こちらは寝耳に水である。今の今までピンピンしている父が余命1年だと?胆管に胆汁を排出するドレーンを装着し、腕にはCVリザーバーを埋め込んだ。そして点滴による抗がん剤治療が始まった。

 「部屋には冷蔵庫があるろうかね?夏にはアイスが食べたいが」抗がん剤の長い点滴治療の説明を受けた後、真顔でそんなことを聞く父がなんだかおかしかった。アイス食べながら点滴している人は、どこにもいないと思う。

 しばらくは父の容体も安定し、思い出作りと称してキャンプ、お出かけ、旅行とたくさん行った。焚き火を前にお酒を飲みつつ、良い気分でいる父を見ると、とても余命宣告されているとは思わなかった。期限(?)の1年はとうに過ぎ、このまま元気に行くもんだと思っていた。

 ところが今年になって、父が体調を崩した。腹水が溜まり、食欲が減退している。足のむくみもひどく、靴を履くのも一苦労。よく熱を出すようになり、歩くのもやっとになって来た。

 医師の見立てでは、2月までしか生きられないとのこと。あとひと月ではないか。またキャンプに行こうと計画を練っていたのに。終末期を迎えた父と共に暮らす。胆管がん発症から9年。これまでよく生きて来た。父との思い出を大事に作って行こう。

 今がんと戦っている人や、ご家族、大切な人ががんである人たちへ。私たちはひとりではありません。どうか苦しみも悲しみも抱え込まないでほしい。そしてがん患者と共に、思いっきり笑って楽しく過ごしてほしい。

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