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世界で一つだけのシャブ

あとがき

先日、某大手JTCに務めるエリサーの友人と飲んでいた所、
「普通に生きていくの、キッツいわ」
という話になった。

端から見ると、彼は誰もが知っているような大手企業に務め、順調に出世し年収は1000万円オーバー。美人な専業主婦の妻と子供2人を抱え、順風満帆な人生に見える。それでも、本人曰くそういうことではないらしい。

児童手当は所得制限に引っかかり満額もらえず、子供の教育費はかさみ、住宅ローンの返済も大変で自動車も買えない。妻とは夜の営みも久しくない。性欲を持て余しているが先立つものもないので、夜な夜なトイレでスマホ片手に無料動画を漁っている――。そんな話をしていた。

妻との性的関係はさておき、客観的に見て「寝言は寝てから言え」案件ではあるが、本人は至って真剣に話していて、日本社会の病巣を垣間見た気がした。

物質的に豊かであるにも関わらず、満たされていないエリサー達。年収1000万円といっても、都内で暮らすと余裕がある生活は難しく、リーマン界隈でも横を見れば三菱商事だの東京海上だの自分より稼いでるやつはいくらでもいる。人間は社会的な動物であり、比較対象は常に自分の視界の高さの人々だ。

WFPの最新の発表によると、世界には8億1100万人の人々が満足に食事を取れないままベッドに向かっており、うち4890万人は緊急レベルの飢餓に貧している。しかし、客単価5000円の居酒屋で飲みながら家計が苦しいという人たちにとって、彼らが視界に入ることはない。社会における自分の立ち位置を客観的に評価するということが難しいのだ。

Twitterを見ても、所得制限をめぐり「こんなに我々は苦しいのに」とアピールするフレンズでタイムラインは溢れている。冷静に考えれば、とっとと東京から出てって幕張か流山に住むか、小学校低学年の子供のSAPIXと英会話教室と水泳教室をやめれば済む話なのだが、決してそうした意見が聞き入られることはない。「人には人の地獄がある」というが、要するに勝手に地獄を作り出してギャーギャー騒いでいるだけである。

しかし、等の本人達にすれば切実な悩みであり、冷ややかに見ている人々と痛みを分かち合うことはない。こうして社会に断絶は生まれ、異なる立場の人々は反目し合う。SNSの登場でこの傾向はさらに加速している。

この美しく残酷な世界が、明日も続きますように――。僕はといえば、そんなことを考えながら「おっしゃ、Twitter小説のネタゲット!」と内心ほくそ笑むだけである。今日も他人のヌルい不幸でレモンサワーが美味い。

祝アニメ化。成長が止まった限界中年男性にできるのは筋トレで筋肉を育てるかランニングでマラソンのタイムを縮めるか、漫画の世界の登場人物にかつての自分を投影するかしかないのだよ。

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