窓際三等兵

精神に変調をきたして自分を18歳JDだと信じ込んでいる異常中年男性

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最近の記事

書評:令和元年の人生ゲーム (麻布競馬場)

「次は別冊文藝春秋で連載やるんですよねー、連作短編でまとめる感じで」 今から振り返ること1年と少し前。麻布十番の寿司屋で、目の前の男が炙った海苔をつまみにお猪口を傾けながらこう話すのを聞きながら、意外だなと思った。同時に少し安堵したことをうっすら覚えている。 「そうか、こいつも結局、『作家先生』になりたい、『こっち側』の人間だったのか」 薄汚れた感情とともに呑み込む純米大吟醸の酔鯨は旨かった。 当時、目の前に座る麻布競馬場という存在はTwitterという枠を飛び越えつ

    • Twitterデトックス

      トイレで何の気なしにスマホを取り出し、おもむろにTwitterを開いた。そこではいつも通り誰かが誰かを晒していて、いつも通り新聞記者や人文系の学者が馬鹿なことを言っていて、いつも通り怒りや嫉妬などの卑しい心情を催す投稿が並んでいた。当然、その一員としてタイムラインの話題に飛びつき、日常運転で人を小馬鹿にするような投稿をネットの海に放流した。 いつもと違ったのは、そこが自宅ではなく、大自然の中にあるキャンプ場だったということだ。薄手のパーカーでは少し肌寒く、トイレの外では虫の

      • 書評:彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった(山下素童)

        山下素童は風俗界の大谷翔平である。この点について、議論の余地も、説明の必要もないだろう。 ともすれば気持ち悪いオッサンの文章となりがちな風俗レポを文学として昇華し、単行本を出すまでに至った軌跡は周囲から不可能と言われた二刀流を貫き、メジャーリーグという世界最高峰の舞台でトップ選手として君臨する大谷翔平と重なる。 デビュー作「昼休み、またピンクサロンに走り出していた」が大谷翔平にとっての日ハム編だとするならば、本作「彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった」はメジ

        • 書評:清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた(佐川恭一)

          突然であるが、現代日本において最も手軽に自己肯定感を高める手法をご存知だろうか。私見ではあるが、「本当にやりたいこと」とやらを見つけ、それを実現することだと思う。 子供の頃から「個性が大事」という理念の下、地方の駅弁大教育部卒の学校教師からは「自分らしく生きよう」、国民的アイドルグループからは「ナンバーワンよりオンリーワン」というメッセージを聴かされ、ハウス栽培されるあまおうのようにすくすくと甘やかされて糖度を育んできた私たち。 しかし、全てが幻想だったと知るまでに時間は

        書評:令和元年の人生ゲーム (麻布競馬場)

          書評:地図と拳(小川哲)

          とにかく、重厚な本である。600ページを超える辞書のようなぶ厚さもさることながら、満州という人造国家の胎動から崩壊までをロシア、中国、日本の立場からそれぞれ描くというその胆力は読者に強い圧を与え、読了後はある種の達成感があった。 読了感という意味では本屋大賞を受賞した「同志少女よ、敵を撃て」に近いものを感じたが、同士少女がセラフィマという一人の少女の成長を通じて歴史をなぞっていく筋書きだったのに対し、本書は群像劇の形をとっている。全編を通じた明確な主人公というものは設定され

          書評:地図と拳(小川哲)

          描くこと、あるいは書くことについて

          ブルーピリオド最新刊を読んだ。相変わらず最高である。青春をどこかに置いてきた中年男性の課題図書として、読むべき作品だ。 本作は藝大を舞台に若き芸術家の卵たちの悪戦苦闘を描く青春ドラマだ。といってもハチミツとクローバーのように恋愛のついでに芸術があるといった体裁ではなく、表現とは何か、才能とは何かというテーマを突き詰めている。 似たようなテーマの作品に左ききのエレンがあるが、圧倒的な天才と凡人という構図である同作に比べ、ブルーピリオドはより現実路線だ。何でも卒なくこなせる秀

          描くこと、あるいは書くことについて

          世界で一つだけのシャブ

          あとがき 先日、某大手JTCに務めるエリサーの友人と飲んでいた所、 「普通に生きていくの、キッツいわ」 という話になった。 端から見ると、彼は誰もが知っているような大手企業に務め、順調に出世し年収は1000万円オーバー。美人な専業主婦の妻と子供2人を抱え、順風満帆な人生に見える。それでも、本人曰くそういうことではないらしい。 児童手当は所得制限に引っかかり満額もらえず、子供の教育費はかさみ、住宅ローンの返済も大変で自動車も買えない。妻とは夜の営みも久しくない。性欲を持て

          世界で一つだけのシャブ

          書評:ラブカは静かに弓を持つ(安壇美緒)

          久々の小説。週末でまとまった時間も取れないし後で読もうと思ってパラパラと流し読みしていたつもりが、気がつけば物語の世界にどっぷり潜っていて、あっという間に読了してしまった。 本作はJASRACとヤマハ音楽教室の著作物使用料徴収を巡る対決という、実話を元にしたフィクション作品である。JASRACの職員が主婦だと偽り、2年間にわたり音楽教室に潜入調査したというエピソードを覚えている人も多いだろう。 元々ネットではJASRACに対する反発が強かったこともあり、「そこまでやるのか

          書評:ラブカは静かに弓を持つ(安壇美緒)

          書評:喰う寝るふたり住むふたり(日暮キノコ)

          Twitterで4℃やサイゼや全裸中年男性と並び一大ジャンルとして確立されているのが、配偶者の悪口だろう。タイムラインを開けば、男女問わず配偶者がいかに駄目かを力説する投稿が流れ、家事育児に非協力的な旦那を漫画にした画像がバズっている様子を遠目に見ることになる。実名のFacebookですら、旦那の悪口を延々と垂れながすメンヘラ奥様が稀に観測される。 あの手の投稿を見るたびに、 「SNSに愚痴書いてスッキリしてる暇あったら面と向かって話し合ったら?」 という身も蓋もないことを

          書評:喰う寝るふたり住むふたり(日暮キノコ)

          労働讃歌〜レモンサワーとゆうちょの通帳と共に〜

          「うるさい、誰のおかげで飯が食えてると思うんだ!」 壁にぶつかったグラスが割れる音、母の頬が叩かれる音。暴力的な音の洪水。目を瞑って耳を塞ぐが、父の怒声は小学3年生の人差し指など存在しないかのように私の鼓膜を震わせる。酔った父を止められる人間など、この家には誰もいなかった。「俺の稼ぎで養って貰ってるくせによ!」顔を真っ赤にして吐き捨てる父、うつむいて床に散らばったガラスの破片を片付ける母。小さな弟を抱き抱え、リビングの隅でうずくまる私。テレビから流れる巨人戦。神様、私をこの

          労働讃歌〜レモンサワーとゆうちょの通帳と共に〜

          Twitter始めて2年経たずにフォロワー5万人を突破し、FIREしてインフルエンサーとして会社に縛られずに生きていくためのたった一つの方法

          そんなものある訳ないだろ、目を覚ませ。

          有料
          500

          Twitter始めて2年経たずにフォロワー5万人を突破し、FIRE…

          限界共働き攻略マニュアル〜保育園編〜

          あとがき こないだ1年ほど前に書いたツリーに久々にいいねがついていたので読み返したが、普段、全裸とか中年とか言ってるキチガイが書いたとは思えないほど良いことを言ってる。当時とは若干時代背景が違うとはいえ、現役で保育園に通わせている友人の話を聞いている限り、今でも使えるテクニックだろう。 子育て家庭にとって一番の敵は無駄だ。仕事の責任は増え、公私ともやるべきことは多く、時間は限られる。一方、未就学児というのは無駄の塊だ。この矛盾にどう対応するかと考えた結果、「諦める」ことの

          限界共働き攻略マニュアル〜保育園編〜

          書評:ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告(日経コンピュータ )

          みんな大好きみずほ銀行のシステム障害について分析した名著、「みずほ銀行システム統合苦闘の19年史」の第二弾。システム専門誌の連載を書籍化した経緯もあり専門的な部分はあるものの、私立文系卒でも内容を理解できるように噛み砕いて説明している親切仕様となっている。 前作同様、みずほ銀行のシステムの欠陥をあげつらうのではなく、「何故システム障害が起きたのか」という問いに対して、組織の風土などの問題点を一つずつ丁寧に指摘する構成となっている。この手の本にありがちな糾弾を目的としたもので

          書評:ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告(日経コンピュータ )

          3.11から11年に寄せて

          小雪がちらつく中、目の前には見渡す限りの瓦礫の山が広がっていた。潮の匂いがする中、一面に広がる泥、柱、壁、屋根瓦。破壊の限りを尽くしたような光景の一隅に、ランドセルやぬいぐるみ、子供用のスニーカーが不自然なほど綺麗な状態でたたずんでおり、そこに人々の営みがあったことを示していた。ただただ、持ち主が無事であることを願うことしかできなかった。 震災後ほどなく、福島県南相馬市の沿岸部を訪れた時に観た光景。私は一生忘れることができないだろう。 NHKが3.11に合わせて実施してい

          3.11から11年に寄せて

          書評:タコピーの原罪(タイザン5)

          完結していない物語について評価を下すのは難しい行為であるということを重々承知した上で、本作品の衝撃を一人でも多くの人々に伝えたいという気持ちを抑えられず、こうしてノートパソコンのキーボートを叩きつけている。限界オタクの哀しい性である。 フィクションの考察を生きがいとする有機生命体が既に1億回は言及しているだろうが、タコピーの原罪は令和のドラえもんだ。小学校4〜5年生の少年少女が現代科学を超越した不思議な道具と出会い、成長していく物語。かつてタルるートくんをはじめ、数多くの作

          書評:タコピーの原罪(タイザン5)

          壊れるほどバズっても1/3も伝わらない

          ウクライナ情勢が連日大きく報道される中、これまで我々が享受していた平和が脆く、崩れやすいものだという認識した人も多いだろう。一方、本当に我々はこの世界の脆弱性に気づいていなかったのだろうか。 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は21年9月、シリア紛争が始まってからの10年間で少なくとも35万200人が死亡したとする報告書を発表した。 東日本大震災の死者行方不明者数の合計の16.7倍、新宿区に匹敵する数の人間が命を落とした計算になるが、ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務

          壊れるほどバズっても1/3も伝わらない