見出し画像

〔ショートストーリー〕シンデレラのりんご

りんご箱が宅配便で届いた。注文した覚えなどないが、宛名は確かに私だ。送り主は「シンデレラキャンペーン事務局」…。あ、思い出した!2カ月前、スーパーで応募したアレだ!

「2,000円以上お買い上げの方に、この応募券をお渡ししています。枠の中にお名前とご住所を書いて、そこの応募箱に入れて下さいね」
レジで「応募券」と書かれた紙を受け取り、読んでみる。それによると、当選者には『シンデレラのりんご』が当たるとか。リンゴを食べていれば医者要らずと言うし、応募するだけならタダだ。私は軽い気持ちで名前と住所を書いて応募したのだ。まさか当選するとは思っていなかったので、すっかり忘れてしまっていたが。

怪しい商品ではないと分かったので嬉々として受け取り、早速箱を開けてみる。中には、少し小さいけれど美味しそうなリンゴが30個と、リンゴの香りのボディソープなどのバスセット、そして白い封筒が入っていた。
〔ご当選おめでとうございます!この箱の中には「シンデレラのりんご」が紛れ込んでいます。それを見付けたらあなたもシンデレラ!?〕大きく書かれたその後に、小さい文字で注意書きが書かれている。〔1日1個ずつ、絶対に丸かじりせずにナイフで切ってお召し上がりください。また、小さなお子さんやペット、体調の悪い方がいる場合は、離れた場所でお切りください〕
封筒の手紙をウキウキして読んでいたのだが、読み終わって首をかしげる。丸かじりするなとか、子どもやペットの近くでは切るなとか、どういうことだろう。そもそも『シンデレラのりんご』って何?ま、まさか、魔女の毒リンゴ!…いや違う、あれは白雪姫だ。じゃあシンデレラのりんごって?

その後、「リンゴの中にミニチュアのガラスの靴を仕込んでいる」とか「リンゴそっくりのカボチャが混ざっている」とか「ナイフで二等分した断面が、12時を指す時計に見える」とか、いろいろな可能性を考えた。が、答えが分からない。分からないものは仕方がないので、悩んだ挙げ句、取りあえず指示に従ってみることにする。とにかく1日1個、ナイフで切って食べるだけで良いのだから。

とは言え、やはり正体が分からないリンゴを切るには、少々勇気が必要だ。まずは今日の1個目。そーっとナイフを入れ、ゆっくりと切ってみる。途端に甘い爽やかな香りが立ち上り、思わず微笑んでしまった。念のためよく観察してみたが、どう見てもこれは普通のリンゴだ。カットしてから皮ごと齧りつくと、甘みも酸味も絶妙で、これまで食べたどのリンゴよりもジューシーだった。
「うわ、すっごい美味しい~!」
あまりの美味しさにあっという間に食べ終わり、もう1個食べたい誘惑にかられたが我慢した。まずはあの手紙に従おう。

そうして何事も無く、1週間が過ぎた。毎日1個ずつ美味しいリンゴを食べているせいか、体調も良く、お肌や髪の状態も良くなった気がする。もしかして、これがシンデレラ効果かも!私は鼻歌交じりで今日のリンゴを取り出した。気のせいか、いつもより少し軽い気がする。ま、気にするほどでは無いので、いつものようにナイフを入れた。その瞬間、
「バフッ」
破裂音とともにリンゴは風船のように弾け、入っていた大量の粉が飛び散った。私の髪や服はもちろん、見渡すと部屋中が粉だらけだ。
「ケホッ。な、何これ!ゲホッ」
咳き込む私の前に、粉と一緒に小さな紙片が舞い落ちてきた。
〔実はシンデレラは「灰かぶり」という意味なのです。この灰は人体には無害ですが、ぜひ同梱のバスセットをお試しください!〕
その妙に明るい文面に、私はしばし呆然としてしまった。ああ、あのバスセットはそういう意味か…

その後は大変だった。確かにバスセットは香りも使い心地も良かった。が、バスルームから出た私は、爽やかなリンゴの香りを漂わせながら、着ていた服のみならずカーテンやクッションカバーなども洗濯し、掃除機をかけまくり、部屋中の拭き掃除をした。これじゃ、本物のシンデレラより働き者かも知れない。

それにしてもこんなの、苦情が出てるんじゃないだろうか。そう思って検索すると、まあ出るわ出るわ。どうやら『シンデレラのりんご』は大体同じぐらいの場所に仕込んでいたらしく、ちょうど1週間前後で当たった人が多かったようだ。私のように大掃除をするハメになった人、注意書きを読んでなくて齧りついた人、子どもが驚いて泣き出したという人…。苦情が殺到するのは当然の結果だと私は思うが、どうやら発送元は軽いジョークのつもりだったらしく、大慌てで謝罪会見の準備中とのこと。リンゴとバスセット、両方のプロモーションとして、インパクトのある方法を取りたかったのだとか。それにしても、よくあんな精巧なニセモノを作ったものだ。

まあ、他のリンゴは美味しかったし、私としてはそこまで大きな実害を被った訳でも無いから、損害賠償云々は考えていない。だがひとつだけ、問題が残っている。残りのリンゴだ。何と『シンデレラのりんご』は、1箱に1つとは限らないと言うのだ。
本物のリンゴは間違いなく美味しく、私はすっかり虜になってしまった。1日に1個ずつなんてやめて、気の済むまで食べてしまいたい。だが、残りのリンゴの中に、もしかするとまだ『シンデレラのりんご』があるかも知れない。
「袋に入れて、ベランダで叩いてみようかなあ…」
箱から1つ取り出して考える。このリンゴも何だか少し軽い気がするが、気のせいとも思える。リンゴを手に悩む私は、シンデレラよりもアダムとイブの気持ちが分かる気がしていた。


お早うございます。シロクマ文芸部のお題で書いて見ました。

リンゴと言えば白雪姫を思い出したのですが、それでは面白くないので、ちょっと捻ってみました💦成功したかどうかは分かりませんが、取りあえず今は満足です。

小牧さん、いつも素敵なお題を有難うございます。シロクマ文芸部、ほんとに愉しいですね!

また、初めて読んでくださった方、いつも読んでくださる方、どうも有難うございます🍀また読んでいただけるように、ボチボチ書いていきたいと思います!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?