セラピストの言うことを聞かなかった話

転職してすぐの頃、一時的に私の卵巣嚢腫がかつてないくらい悪化したことがあり、お腹全体がパンパンの日々が続いた。後になって考えれば「あれはパワハラだったのかも」と思うようなことがあったからだと思う。でも、その頃の私は、入りたての組織でどうにかもっと早く仕事をできるようになり、皆の役に立てるようになりたいという思いでいっぱいで、ある上司からの態度の全ては私の能力のなさによるものとしか考えられていなかった。

私がずっとお世話になっていたカウンセラーさんは「筋反射」という手法ができる人で、その手法ではクライアントの「身体の声」が聴けるという。彼女は、私の体が「今すぐその仕事を辞めるべき」と言っていると告げた。

卵巣の状態を見ればそれは納得の見解だったし、ああ、私の体は私が思っていた以上に負担を感じていたんだな・・・という感想しかなかった。

でも、結果的に私はその仕事を辞めなかった。

辞めなかった明確な理由や鋼の意思があったわけではない。ただ、自分が何か物事を決断する時に湧き上がってくる「感覚」が来なかったからだ。「辞めよう」と前向きに断定的に明確に思えなかったからとしか言いようがないのだけど、私は大体いつも無意識にこの感覚によってのみ行動を決めていると思う。

私はカウンセラーさんに、「うーん、でも辞める気が起きないんです」と言った。彼女はプロなので、私にそれ以上何も強制することはなかったし、その時にできるベストのことをしてくれた。

でも、卵巣が思っていた以上にえらいことになっていることがわかり、どうにかしなければとは思った。卵巣を治すために色々なセラピーを受けてきたのに、仕事がこんな状態じゃ何をやってもダメなのか・・・とくじけそうな気持ちも出たのだけど、なんとなく、本来の自分はこんなことで体を壊す人間じゃないんだけどな〜という、楽観的なビジョンのような、もっと最適なパラレルワールドの存在もどこかに感じていた。

なので、ちゃんとカウンセリングしてくれるホメオパスのところに行って、卵巣のためのレメディを処方してもらうことにした。

ホメオパスはレメディーをいくつかと、チンクチャーをひと瓶くれた。それぞれのレメディを飲む時間帯と回数がややこしく、ズボラな私が全部をきちんと飲めた日はあまりなかったように思う。

レメディに即効性はなかったし、カウンセラーさんとも継続的にセッションを受けていたし、エッセンスも飲んでいたので、どれがどう効いたのかはよくわからなかった。

ただ、ある日、突如として、その上司のことが死ぬほど嫌いになった。

何がきっかけだったかはよく覚えていない。ただ、その頃常態化していた不要不急かつややこしい仕事の押し付けや、それを私が素早くこなせないことへの嫌味を言われた瞬間だったと思う。

なぜか急に、「ああ、この人は私の成長や組織のためを思ってこういうことをやってるわけではないんだな」と肚の底から理解したのだった。

「こいつがこんなことばかり言うのは、単にこいつがクソなだけだ」という、シンプルな理解がスゥーっと私の頭に入ってきて、腹わたが熱く煮え繰り返ると同時に、頭は妙に冴えて爽やかな風が吹いたように感じた。

そこから先は展開がめちゃくちゃ早かった。

私はその上司からの指示を超超超最低限こっちが必要と思ったことしかやらなくなり、嫌味を言われたら遠慮は一切せず不快感を態度に出した。その上司主催の飲み会に私だけ参加しないとか、もう露骨すぎるくらいに嫌っていることを表に現し、同僚から心配されたり仲裁的なことを提案された時も、別にどうなってもいいしという態度で歩み寄りは一切しなかった。

歩み寄りもしなかったけど、公の場に訴えることもしなかった。単に自分のエネルギーフィールドを、本来の自分の尊厳ある状態に戻すことを自分に許可したという感じだった。

そうしたら、その上司の異動の噂が流れ始め、あっという間に転勤していった。それはたしか2ヶ月くらいの間に起こったことだったと思う。

別に私とのことで左遷されたとかではない。彼にとっては栄転であり、結果的に私にとっても環境が改善されるwin-winの出来事だった。

それでも、私は最後の送別会にも参加しなかったし、嫌いな人は嫌いなままでいいやという感じだった。

その後は、前に書いた話の通り、周りからも羨ましがられる上司や気の合う同僚に恵まれ、卵巣嚢腫の一つは完全に消失し、落ち着きを取り戻した。

カウンセラーさんの(または自分の身体の)言うことを聞かなかったことは、今でも後悔していない。あの時仕事を辞めなかったおかげで、結婚に関する諸々の費用を心配せずに賄うことができた。でも、あの時にそこまで言ってもらえたからこそ、卵巣と自分を大切にするきっかけになった気がする。

結局、どんなに信頼できる人だとしても、常にこの人の言うことを聞いていればokとかはないし、自分の感覚だけが全てで自分だけで何でもどうにかすべきというような単純な話でもなくて、めちゃくちゃ色々な事象と自分の意識や感覚が常に反響しあって、その都度の最善を生み出していくって感じなのかなと思う。

カウンセラーさんはもちろん、あの上司を含め、私が私の本来のあり方に戻るためのプロセスを一緒にやってくれた人々には感謝している・・・とか高次元的な視点で思う自分もいる一方、そんなことより何より、クソなことをまっすぐにクソだと思えること、そしてそこにはそれなりの対応をするってこともまた、とても大事なことなんじゃないかと思っている。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?