2021年11月公開新作映画感想まとめ

エターナルズ

 これまでのMCU作品と比較して圧倒的にスケールの大きい世界観の物語でありながら、その中身は多種多様な考えや悩みやコンプレックスを持った10人の男女の主義主張の濃密なぶつかり合いであるため、その壮大なビジュアルに反して良い意味で非常に渋い作品。

 知的生命体を無差別に殺戮する宇宙生物・ディヴィアンツから人類を守るため、遠い惑星から遣わされた10人の異星人・エターナルズの戦いを描く本作。鑑賞前は果たして10人ものヒーローを1本の映画で描ききれるものだろうかと訝しんでいたが、蓋を開けてみれば、10人が10人とも実に魅力的なキャラクターとして描かれており、全員が魅力的であるがゆえに各々のぶつかり合いによって起こる化学反応の連鎖に惹き込まれる。この湿度の高い濃密なヒューマンドラマの作風は、MCUの一遍として見ると非常に異質であり、シリーズ26作にしてまだこのような新しい切り口の作品が投下されるのかと驚かされる。

 また、超常的な力を持ったエターナルズと数メートルはあろうかというディヴィアンツの激しいバトルや、エターナルズが7000年の間、地球で人類を守り導いてきた歴史といった、スーパーヒーロー映画的な派手でSFチックな映像を作品全体にふんだんに盛り込んでいる一方で、要所要所で記憶に残る自然の美しい情景を散りばめる作風に、しっかりとクロエ・ジャオ監督節が効いていると感じる。MCU作品でありながら、クロエ・ジャオ作品でもあるこの不思議な2つの作風の融合が、本作の特異性を作り上げているように感じる。

 難点を上げるとすると、設定が非常に込み入っているために物語が終盤に差し掛かった段階で、エターナルズたちが何を目標に行動を起こしているのかが良く分からなくなってくる点。大きな目標は分かるため作品を鑑賞するうえで大きな問題はないのだが、この作品世界におけるSF的なルールが微妙に分かりづらいため、何をどうすれば目前の問題を解決できるのかがピンと来ない。このあたりをもう少しスマートに描いてくれていれば、なお良かった。

 同じMCUで言うと、スパイダーマンやガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのような作品を期待していくとかなり肩透かしなのではないかと思う一方で、直近で言うとクロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』にピンと来て、スーパーヒーロー映画が嫌じゃないという人には刺さる作品だと思われる。人を選ぶ映画だと思うが、濃厚なヒューマンドラマを堪能できて、個人的には満足度の高い作品だった。

恋する寄生虫

 作風に対して設定がファンタジー寄り過ぎて、ちょっと気持ちがついていかない印象。作品の根幹をなす重要な設定が物語の中盤で明かされるため、そのポイントでフィクションラインが大幅に上がってしまい、結果チグハグさを感じる作品になってしまっている。この設定で物語を進めるのであれば、作品の最序盤で提示すべきだ。さらには物語の着地の仕方もこの最重要設定をあまり活かせておらず、その点も残念。

 潔癖症の主人公と視線恐怖症のヒロインから見た世界をグロテスクに描写する演出や、主人公たちの現実と妄想が入り混じったような情景描写には惹きつけられる部分がある。が、こういった演出も中盤から終盤にかけて鳴りを潜めていってしまうので、徐々に映像的な面白みが薄れていってしまうのも残念なところ。

 主演の林遣都の社会に適合できず、常に情緒不安定な男の演技には説得力があり、これによって、主人公の人物造形が異常性と人間臭さが共存する多面的で深みのあるものになっており、この点は高く評価できる。

ミラベルと魔法だらけの家

 「自分らしさ」という表現が多用される現代だが、その「自分らしさ」にも様々な側面があり、お互いに歩み寄り分かり合う努力をしなければ、互いの「その人らしさ」の一面だけを見て分かったつもりになってしまう。全員が5歳になると特別な魔法を手に入れる一家の中で唯一魔法を得られなかった主人公のミラベルや、それぞれの魔法の力に開花した家族たちが隠し持つ秘められた内面が作中で少しずつ明かされていき、それによって、他者への偏見と固定概念の危うさが炙り出されていく。ファミリー映画としてはかなり攻めたストーリーだ。

 本作の軸は様々な個性を持った大家族の家族トラブルであり、事件のほとんどが家の中で起きる非常にミニマムな物語だ。にも関わらず、主人公たちの住む家が魔法で作られた家であり、それぞれの部屋にはジャングルや迷宮といった様々な世界が広がっているという設定のおかげで、映像的にはしっかりとした冒険活劇として仕上げられている。このあたりの設定の妙は子供向けエンターテインメントを作り続けてきたディズニーの熟練の業が光るところだ。

 本作では、お互いがお互いを魔法の才能という一側面でしか見ていなかったがために壊れかけていた家族が、そのフィルターを取り払って互いの人となりを深く理解し合うことで再生していく様が描かれる。物語のこの骨子自体には不満はないのだが、ミラベル以外の家族の心情描写、特に姉のイサベラとルイーサの描写が拙速で淡白なのが残念なところ。相互理解がテーマなので、当然、各々のキャラクターの内面描写が必須なのだが、ミラベルと姉たちの心の交流を歌に仮託しすぎているように感じる。通常のドラマだと描くのにかなりの尺を取る心の動きを、歌で一足飛びに表現できるのがミュージカルの強みではあるのだが、こと本作では歌の力に頼りすぎているのではなかろうか。

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