【映画感想】『クリード 過去の逆襲』 ★★★☆☆ 3.1点

 伝説の天才ボクサーであるアポロ・クリードの息子、アドニス・クリードの活躍を描く『クリード』シリーズの第3作。『ロッキー』シリーズのスピンオフシリーズであるものの、今作は前作まで登場していたシルベスター・スタローンの出演はなく、ロッキー抜きの完全なるアドニスの物語が描かれる。

 本作を一言で述べるとすると、手堅くまとまっているなという印象。アドニスの過去の過ちに端を発する旧友デイミアンとの因縁が、「成功からの挫折と転落→奮起→スパルタトレーニング→試合」というロッキーシリーズの黄金パターンにきれいにはめ込まれており、小気味良いテンポで物語が進んでいく。

 本作の半分以上の尺を使って描かれる「挫折と転落」パートについては、デイミアンを演じるジョナサン・メジャースの絶妙に信用ならない怪演も相まって、トラブルの種が徐々に芽吹いていく緊迫感が実に良い。

 作品の華である試合シーンも、ハイスピードな試合が繰り広げられるにも関わらず、かっちりしたカメラワークのおかげかどちらに試合が傾いているのかが分かりやすく、かつ、ここぞというところだけ投入されるスローモーションや特殊演出の塩梅も非常に絶妙で、観ていて楽しいシーンとなっている。

 ストーリー展開もアドニスとデイミアンの因縁に絞ったスマートなつくりになっているため、物語の争点が迷子にならず、約2時間集中力を切らさずに観終えることができる。



 といったところで、本作は基本的にはエンターテインメントとしてサクッと観られる良作だと思っているのだが、裏を返すと本作のこの見やすさはアメリカの大衆向けビッグバジェット映画とロッキーシリーズの黄金則に則っているからこその安定感に起因するものであり、だからこそ、これといって本作独自の尖ったポイントはないとも言える。

 ただ、この黄金則に物語の各要素をきれいに配置する手際であったり、ハリウッド映画やロッキーシリーズのあるあるを上手いこと作品に取り込んで、観客の思う「ここでこれが来ると気持ちいい」というポイントを絶妙に取り込む技量であったりが、非常に突出しているため、ライトに観る分にはこのうえなく手堅い作品となっているのである。



 本作の脚本に注目すると、案外弱いポイントが多い。例えば、リングの因縁はリングでしか晴らせないという構造だった前々作や前作と異なり、本作の因縁はことごとくコミュニケーションとマネージメントの失敗に起因しているがゆえに、アドニスとデイミアンの因縁はボクシングの試合では本来解決しえないはずである。

 また、ダーティな試合で次々とチャンピオンベルトを奪っていくという、その手法が一番の問題であったはずのデイミアンが、最後のアドニスとの試合では普通にクリーンに試合しているので、物語の争点が最後の最後でぼやける。

 さらに、娘の学校での暴力沙汰とそれを巡っての夫婦の教育方針の違いが、アドニスとデイミアンとの友人関係とうまく絡まず、宙に浮いて終わる。などなど、ドラマ映画として見ると、本作の脚本は首を傾げたい部分がぞろぞろっと出てくる内容となっている。

 ただ、では鑑賞後にモヤモヤが残るかと言われるとそんなことはなく、アドニスとデイミアンの試合自体は手に汗握る熱いものになっているし、アドニスとデイミアンの過去からの因縁という最も大きな主題はしっかりと解決するし、一つ一つの展開がダラダラせずにスパッと片付きサクサクと進んでいくため、途中でモヤッとした感情にはなっても、観終えてしまうとそういったポイントを忘れて、なんとなくスッキリとした気持ちになってしまえるのである。こういった意味でライトに観る分には本当に手堅い一本に仕上がっているというのが正直な感想だ。



 さて、本作では本編終了後にマイケル・B・ジョーダンのアニメが流れるのだが、これが想像の斜め上を行く作品となっている。

 正直、作品の余韻が吹き飛ばされるような内容で、どう受け止めたものかとも思うのだが、こちらのアニメ作品を観ていて、2点非常に強く印象に残ったポイントがあった。一つは「これからは『ロッキー』サーガではなく、『クリード』サーガとしてやっていくのだという決意」、そしてもう一つは、「日本のアニメ作品あるあるの散りばめ方が絶妙で案外面白いということ」。

 実はこの2点、そのまま本作『クリード 過去の逆襲』にも当てはまる。これがマイケル・B・ジョーダン監督の作品性なのかは分からないが、一見突飛なアニメながら、本編のエッセンスが短時間に凝縮されており、本編の鑑賞中に感じた印象の答え合わせになっているのである。

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