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ポール・ダノ「一大リドラー旋風を巻き起こす男」

前置き 

ポール・ダノという俳優に惹かれてしまった。それもあまりに突然に。
この気持ちを表現するのなら「一目惚れ」に似ている。今まで顔も名前も知らなかったというのに、急に人生に現れたポール・ダノに突如として引き込まれた。

本稿は彼の一体なにがそんなに良いのだ?というのをつらつらと書き連ねる記事である

しゃらくせえ!という方はとりあえず彼の出ている映画を見るのだ。一本目は『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)を見ておけば間違いない。仮にポール・ダノにぴんとこなくても、この映画は気楽に見れて、かつ見終わるとすがすがしい気分になれるとても良い映画だからだ。

皆さんはそもそもポール・ダノをご存じだろうか?
日本では洋画好きな人を除いて一般的にはまだあまり知られていないはずだ。なのになぜ今彼を推すのかと言えば、2019年日本でも巻き起こった「ジョーカー」旋風の次に、2021年一大「リドラー」旋風を巻き起こす俳優だからである。なにを隠そう彼は来年公開を予定されている『ザ・バットマン』におけるヴィランの一人、リドラー役を演じるのだ。

リドラーとはバットマンにおける高い知能を持つヴィランである。だがこれまたリドラーも日本ではおそらく知名度が無いので今は覚えておかなくても大丈夫だ。
大事なのはこのリドラーという役にポール・ダノがめちゃくちゃ合うこと、そしてきっと来年にはリドラーもろともポール・ダノが一大人気を博すであろう、それだけだ。

それでは彼の代表作とともにいかにポール・ダノが素晴らしいか紐解いて行こう。

『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)


【あらすじ】子ども版ミスコンに選ばれたオリーブ。てんでばらばらな家族は二日間かけて地元アルバカーキからカリフォルニアまでおんぼろフォルクスワーゲンで行くことに……ハートフルなどたばたロードムービー!

ポール・ダノはこの映画でドウェーンという役を演じている。
ドウェーンは空軍のパイロットを目指しているのだが、ニーチェに多大なる影響を受けているためなんと9か月も沈黙を貫く「無言の誓い」を立てている。
そのため映画中盤まで彼は一言も喋らない。会話する際は目線、仕草、そして筆談だ。

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これはドウェーンの伯父であるフランクと会話しているシーンだ。

フランク:友達はいるのか?
ドウェーン:”皆大嫌いだ”
フランク:家族も?
ドウェーン:”皆!

最初「Everyone」に下線は引かれていないのだが、ドウェーンが家族も皆嫌いなんだと言うように下線をざっと引く。このぐっと力を入れて書く様子で、言葉に表さなくてもドウェーンの内心燃えたぎるような怒り、そしてフラストレーションが十分に伝わってくる。

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家族が嫌いなドウェーン。両親が喧嘩をしている際にはこの表情である。
じわじわとにっこりしちゃう感じがたまらない。
彼の表情を見て思わず分かる~!となってしまう。
この嫌いな人間がなじられている時の愉快感ったら、そしてもういっそ破滅までいっちゃえって望んじゃう時が人間あるよね。

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そんな彼があることがきっかけに喋らざるを得なくなる。是非皆さんも映画を視聴してその一言目が何だったのかを確かめて欲しい。
その際のポール・ダノの表情全身から感情を溢れさせ手足にほとばしる力、そして口を付いて出てくる叫びが素晴らしい。

――この瞬間だ。映画を中盤まで見てきてなんかこの俳優好きだな~とぼんやり思っていたのが、もう愛しさしか沸いてこない!
ここからポール・ダノ沼に転がり込んでいくのである。

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2008)

【あらすじ】舞台は20世紀初頭アメリカ。石油開発に沸くカリフォルニアで、何が何でも石油を掘り続け事業拡大を目指すダニエル・プレインビューの姿を描き出す物語である。

ポール・ダノの何が良いって?

演技が良いだけじゃなくて声も良いんだ。
滔々と語り掛けられると思わず引き込まれそうになる。そのポール・ダノが三分間きっちり演説してくれるのが『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』だ。

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ポール・ダノが演じるのはこの地域の神父であるイーライ。これが笑っちゃうほどうさんくさいのだ。

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「関節炎?悪魔が憑りついているからですよ!私が祓って差し上げます!」と言ってカルト染みた気迫で悪魔を祓った(仮)かと思えば、
教会での姿はけろっと忘れたかのように「教会に5000ドル払って!さあ!」と主人公に金をせびって来る……

なんじゃこの神父は?

このあけすけ具合が面白いのだが、それ以上に「俺の道を阻む者は薙ぎ払ってやる」というのが ダニエル・デイ=ルイス演じる主人公ダニエル・プレインヴューである。
彼も自身の石油採掘事業を拡大すべく、周囲からの印象を良くするため自分の息子を利用したり、良い土地をかっさらって石油採掘したり、まさに血も涙もない。何がそこまで彼を駆り立てるのだ?と感じるほどだ。
だがそれだけにポール・ダノ演じるイーライの人間臭さがより際立ってくる。
イーライはその立ち居振る舞いから全く好感の持てる人物ではないのだが、あまりの人間くささ、そしてポール・ダノの怪演っぷりに次第に彼が好きになってくるだろう。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』はダニエルの人生を描いた物語だが、ダニエル対イーライの、自身の利益・目的を遂げるためお互いの脳髄までしゃぶりつくしてやる!なバトル物とも読み取れるのである。

ラストはやはりこの二人の対話でシーンが進められていく。そしてあっと驚く視聴者置いてけぼりなラストにしばらく絶句するであろうこと請け合いなので、皆さんもぜひ見て欲しい。

『スイス・アーミー・マン』(2016)

(第95回アカデミー賞7部門受賞!問答無用で最高だった『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のダニエルズ監督作品です)

【あらすじ】無人島で遭難し、脱出できない状態に絶望したポール演じるハンク。ついに自殺しようとしたその時、波打ち際にダニエル・ラドクリフ演じる死体のメニーが現れる。ジェット気流のごとき“おなら”を発しハンクを陸へ脱出させ、しかも死体であるはずのメニーは喋ることが出来たのだ!そんな中ハンクが目指したのは憧れの恋い焦がれる女性の家であった。

「???」

頭の中は疑問符でいっぱいになるが、疲れている時に見るとめっちゃ笑える。
だが監督たちが元々ミュージックビデオ出身なので映像が美しい。

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荘厳な音楽ともあいまって、不思議なことに次第に「生きるとは何なのか?」「人間とは?」と考えさせられてくる。シュールなおバカ映画かと思いきや予想外にちょっとじーんとなってきたところで、ラストに物語は急展開を見せる。

ポール・ダノは視聴者に急展開を味合わせるかのように、ここでふっと表情が変わるのだ。これまで我々が見てきた、気弱だけれども根は優しいハンクは…?一体誰なんだこの人物は……と愕然とする。

スクリーンショット (962)

この目だ。

これはもうヴィランであるリドラーも間違いなし!150点満点!!と今から早くも思えた瞬間だった。

という訳で表現力良!声も良!そして実は俳優だけではなく映画監督も務めている才能溢れるポール・ダノ、めちゃくちゃ推してます!!

おまけ(出演作一覧+コメント付き)

ポール・ダノの出演作を何作か見ているとあることに気付く。
やけにぼこぼこにされている役が多くないか……?
これは幻覚ではなく本当にそうなのである。

ということで下記は私が見たポール・ダノの作品一覧の紹介と、ぼこぼこにされてしまうかどうかも念のため記述しておく。
※作品名のリンクはAmazonプライム・ビデオ、もしくはNetflix、『フェイブルマンズ』のみ日本語公式サイトへ飛びます。

ルビー・スパークス
ポールのパートナーである女優ゾーイ・カザンが脚本、そしてポールと共に主演を務めている。ポール演ずる小説家の主人公は、ある日夢に出てきた女性を小説に書くと彼女が現実に現れて…...?!というストーリー。
「お前は人間を書いていない。これは”女の子”だ」は至言
ぼこぼこにされないので安心して眺めていられる。

プリズナーズ
めちゃくちゃにぼこぼこにされる。

それでも夜は明ける
実際に発売された伝記を元にしたアメリカ南部の黒人奴隷制度を描いた作品。ポールは抜きにして、精神状態が落ち着いている時に一度見て欲しい映画。

オクジャ
あのポン・ジュノ監督作品。『パラサイト』で見られるような雰囲気とは違い、ザ・ハリウッド映画のように感じるがNetflixでお手軽に見られるのでオススメ。
珍らしくぼこぼこにするポールが見られる。

ラブ&マーシー
ザ・ビーチ・ボーイズのボーカルであるブライアン・ウィルソンの伝記映画。60年代頃のブライアンをポール・ダノが、80年代頃のブライアンをジョン・キューザックが演じる。
ぼこぼこにはされないが、精神的にかなりぼろぼろに追い詰められる。

LOOPER
タイムループ系のSFもの。No.1下がり眉俳優のジョセフ・ゴードン=レヴィットと共演している。ポールも下がり眉なのでこの二人が画面に一緒にいるととても可愛い。
間接的にぼこぼこにされる。

ナイト&デイ
天才発明家の役をポールが演じる。主人公である無敵のトム・クルーズが守ってくれるためぼこぼこにされない。

ワイルドライフ
こちらはポール・ダノ初監督作品。ゾーイ・カザンと共同脚本である。(ポール、ゾーイは出演していないので注意)
ある日山火事を消火するため家を出て行った父と、そんな夫にやるせない気持ちを抱き不倫しようとする母。急に崩壊する家族、その間にはさまれた息子ジョーが「大人」不在の状況でケアされずに一人成長していく。本当にジョーは偉い......と感じずにはいられない一本。

『ミークス・カットオフ』
女性たちの視点から描かれる西部劇。
男たちが意思決定の場を握っているのだが、なんか遠くの方で、なんか合理性もなく、なんかよく分からないのに決定が下されていく。
その様子は現実社会そっくりで、西部劇という切り口で描き出したケリー・ライカート監督はすごい。
彼女の映画は他の作品いずれも最高です。
本作でポール・ダノは男性陣の中で、比較的近くで顔が映って、比較的台詞もあります。

THE GUILTY /ギルティ
Filmarksにポール・ダノキャストの作品が追加された通知が来てやったー!と思い映画を見たら、まさかのボイスキャスト
いつ画面に出てくるのかな?とわくわくしていたから、声には最後まで気付けなかった...…。流石にもう一回見直す気力はありませんでした。
ただジェイク・ギレンホールの演技がとても良い映画です。

『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
満を持して公開!
絶対ポール・ダノにぴったりだ!と思っていたけれど、本当に彼の魅力と持ち味が余すところなく発揮されていました。(そして案の定途中で精神攻撃されてましたが、おやおや?っていうあのラストよ)
リドラーとしても100点、ポール・ダノとしても100点、映画としても2000億点です。
早くも続編が楽しみだ。

『フェイブルマンズ』
スティーヴン・スピルバーグ監督の子ども時代を描いた自伝的映画。フィルムが思わず映し出す暴力性といったテーマも一部描かれるものの、家族映画の要素がほとんどを占めていると思う。
そしてポール・ダノは主人公サミーの父親役を演じていて、本作はポールの台詞から幕開けします。

出演作品紹介は以上です。

さてそんなポール・ダノが自身の出演作を振り返るインタビュー動画があります。
英語ですが、お時間ある方はぜひ。

ここまで長々と読んで下さってありがとうございました。
一人でもポール・ダノのファンが増えますように!




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