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【ねこイベントレポート】猫に優しい保護活動を広める。猫から目線×横浜市栄区のタッグ

『猫』と聞いて皆さんはどんなことをイメージしますか?

「かわいい」「ペット」「にゃんこ先生」
「野良猫」「保護猫」
など色々思い浮かべると思います。
(にゃんこ先生はマニアックかな?私は好きなので推してます。気になる方は夏目友人帳をご覧下さい。)

今回は、そんな猫の「野良猫」「保護猫」の分野で主に西日本で活躍されている株式会社 猫から目線の代表 小池英梨子氏を講師として、横浜市栄区役所が主催する「TNRの為の猫に優しい捕獲講座」が開催されました。

TNRの為の猫に優しい捕獲講座

『ねこから目線。』は猫の問題は人の問題として2018年に小池さんが立ち上げられた組織で現在は株式会社として、猫のためになることならサポートを行う猫専門のお手伝い屋さんです。現在は関西のみならず福岡、沖縄も活動エリアとなっています。

参加者は
・横浜市外で区役所と一緒にTNRを長年やられている女性
・動物病院勤務者
・餌やりボランティア35年と大ベテランの地元おばあちゃん
・友人に保護猫相談をされたことのある男性
などなど、保護猫に深くかかわる人から興味のある人まで様々で参加者の9割は女性でした。

今回の講座の流れは次の通りで行われました。

  1. 猫ってどんな動物?~猫の面白歴史~

  2. TNRとは ~人にも猫にも実は優しい施策~

  3. TNR初級編 ~段取り命のTNR&猫のキモチを知る~

  4. TNR中級編 ~猫から目線流 TNRのテクニック~

  5. TNRあるある ~知って役立つ法律編~

  6. 質疑応答 ~リアルな疑問が浮き彫りに~


「猫に優しいTNRとは」
その具体的なポイントなどをピックアップしてまとめていきます。


1.野良猫は野生動物?

もしかしたら多くの人は『野良猫=野生動物』と思う人が多いのではないでしょうか。

しかし実際は違いました。
そのワケは猫の少し面白い歴史に秘密があります。

猫が日本に渡ってきたのは平安時代。

唐から巻物を船に積んで持ってくる際、巻物をネズミから守る存在として、一緒に船に乗って日本にやってきたとされています。もしかしたら社会科の教科書などでも見たことはあるのではないでしょうか。
唐からやって来たので『唐猫(からねこ)』なんて呼ばれたりもします。
つまり猫は日本古来の動物ではありません。
※ちなみに猫の起源はエジプト。

そして中世ヨーロッパでは黒死病と呼ばれるヨーロッパの人口の3分の1が亡くなったペストが流行り、それを食い止めたのが猫と言われています。
ペストはネズミを介して感染するため猫の独壇場という訳です。

1900年代初頭、細菌学者のコッホが日本にやってきて当時の内務省にペストの予防策として猫を国民に飼うように周知したこともあり、日本でペストは予防されたとも。

このように陰ながら活躍してきた猫たちは、海外から来た動物
国から人に飼うようにも言われ飼われたこともある
『愛玩動物』であり『野生動物』ではないということになります。

認識を覆された方も多いのか、少しびっくりされた顔をしている参加者さんもいました。

2.TNRとは

TNRとは
Trap(捕獲)
Neuter(不妊去勢手術をして耳カット)
Return(元の場所に戻す)
の略です。

保護猫活動には大きく2軸あり
①TNRによる頭数削減
②保護譲渡活動による野良猫削減

①は過剰繁殖を防ぐ予防的処置、②は過剰繁殖後の対処療法となります。
保護活動は①と②の両輪が大切だとしたうえで本講座は①に関する内容になります。

ここで一つ質問ですが猫は1回に何頭子猫を産むと思いますか?


正解は1回の出産で最大8頭生まれると言われます。
仮説ではよく最大頭数を産むと仮定され話が進むことが多いですが
しかし実際、毎回最大頭数産むかと言えば、そんなことありませんよね。

人間だって一人っ子か双子かなんてわかりません。笑

『ねこから目線。』では大阪で月30匹以上不妊去勢手術を行う動物病院さんの過去5年分のデータをもとに1匹のメス猫が1回に産む子供の数の平均が4~5頭だと導いたうえで、TNRが人に優しく猫を守ると、いいます。

母猫とお乳を飲む子猫

もしかしたら
「手術をするのは自然じゃない」「メスを入れるなんて…」
と思われる方も中にはいるかもしれません。
ただこの話を知るとTNRがもたらす猫への優しさが分かるかもしれません。

ちなみ日本古来の野生動物ではないので、日本で野良猫が過剰繁殖してしまっていることも自然ではないのです。

 ① 人を経済に救う


猫は大体年2回出産することが多いため、1年間で10匹産むことになります。
その場合、里親譲渡の活動では10頭を保護し不妊去勢手術を実施、最大10人の里親さんを探す必要があります。1人の里親探しでも結構苦労しますが、10匹だと10倍の労力ではすみません…それ以上です。
手術費用の相場は1回1万円以上。

TNRの場合だと1匹手術すれば済むので、労力もコストも1匹分で済みます。手術費用だけでも10分の1で済んでしまいます。

私も普段譲渡を行う保護猫施設のボランティアをしていますが、里親探しはかなり労力が必要なので、頷くばかり。

 ② 猫の命を救う

そして猫。ちなみに野良猫が過剰に繁殖するとどうなると思いますか?

答えは、猫同士のケンカが多発、けがや感染症で猫が命を落とす確率が高くなってしまうのです。
手術をして長生きするのと、ありのまま、けがや病気で思いがけず死ぬこと、どちらが猫にとって幸せなのでしょうか。

3.猫に優しいTNRのポイント

いよいよ今回の講座のテーマである部分になります。
今回の講座で一番重要なポイント、それは

猫は自分が見た事よりも体験したことを強く覚える』

つまり猫の気持ちを想像する、何をされたら猫のキモチがどう動くかを考えるということです。

具体的にTNRが失敗する要因は以下の通り
・他の猫が捕獲された時の大きな音を聞いてびっくりして、警戒したから
・捕獲器の扉に足が挟まったりで怪我をし痛い思いをして、警戒したから

など

つまり、捕獲器=怖いもの という体験をさせてしまっているんですね。

毛を逆立てて警戒する猫(やんのか状態、とも言われます)

小池さんが講座の中で何度も伝えていたことで

捕獲難易度を上げない捕獲技術が大切

不十分な準備や不注意などで猫に怖い思いをさせてしまっているために
本来それほど難しくない捕獲の難易度が上がってしまっていると言います。

では難易度をあげない優しいTNRのポイントとはどのようなものなのでしょうか。

講座の中で出てきたポイントは大きく6つ

 ①餌づけ

TNRの成功率を大きく左右する餌づけ。
意外と見落としがちだと小池さんは言います。
大切なのは『決まった時間』『決まった場所』で餌づけをすること。
置き餌では別の猫に取られたり、ケンカになったりして捕獲が難しくなるそうです。

 ②病院の準備と捕獲機の準備

捕獲してから病院を予約、ではなく、あらかじめ病院と受け入れ可能な日時を決めておくことが大切です。捕獲したはいいものの、病院に行けず何日も猫自身が慣れない場所で保管されるのは半端じゃないストレスがかかります。過度なストレスはおしっこを我慢し膀胱炎を引き起こしたり、病気になったりと猫にとって優しくありません。捕獲から手術までスムーズにできるよう段取りを組むことだ大切です。

また捕獲機を置く場所も配慮が必要と言います。これも意外な落とし穴で
捕獲時に扉が閉まると、その衝撃音が床がコンクリートだと大きく、土や草だと小さくなるため、捕獲された猫、周囲にいる猫に与える恐怖心が変わります。

 ③保管と移動

・捕獲後はすぐに布をかぶせ落ち着かせること
・布でぐるぐる巻きで密閉せず、空気穴を設けること
・運搬車内の室温(※夏だと熱中症の危険あり)
・スムーズな手術への移行
などポイント盛沢山、どれも猫のストレスや体調に配慮したことばかり。

TNRとは単に手術するのではなく、捕獲からリターンまで、猫の命を預かっているのです。

 ④リターン

こちらも意外な落とし穴があります。
それは『最短で必ず元居た場所に返すこと』

野良猫はもともと自分の縄張りを持っていてその中で餌場をいくつか持っています。しかし、全く違う場所に返されてはご飯を調達する場所もなく、しかも別の猫の縄張り、すぐにケンカになる可能性が高いです。

ちなみに元居た場所と別の場所で放すと
動物愛度管理法から『動物遺棄』にあたる可能性もあるので
人にも猫に良くありません。

そして『最短で』というのもポイントの一つ。
長時間の保管は猫さんのストレスになり優しくありません。

 ⑤オスもメスもバランスよくTNRする

これも私は意外でした。しかし答えを聞いて納得。
メスの数が少なくなれば、オスが少ないメスを取り合うのは必至。メスもたくさんのオスに迫られて、強制交尾でリンチ状態。
人なら性犯罪です。
猫一匹一匹の体調、ストレスのみならず、その地域の猫たちのパワーバランスも考慮することも大切だということです。

他にもたくさん具体的なポイントは出てきましたが、そちらは私が詳しくレポートするよりも『ねこから目線。』の勉強会に参加された方が何倍も詳しく学べるので是非ご参加してみてください。講師の獣医師さんや小池さんのしゃべりも面白いです。ちなみに小池さんは定期的に大阪で『ねこからナイト』と題してバーテンダーも行っているので、しゃべりはうまいです。

4.小池さんが伝えたかったであろう大切なこと

先ほども紹介しましたが、講座の中で何度も小池さんがおっしゃったこと

・猫は見たことより、自分が体験したことを強く覚える。
・捕獲難易度をあげない捕獲技術が大事

これを象徴する、私が講座の中で一番印象的だった捕獲映像があります。

ある母猫と子猫3匹の捕獲動画です。

子育て中の母猫は子猫にお乳をあげないとなので、TVチャンピオンもびっくりな超大食い、キャットフードファイターです。

まず母猫が猫缶が置かれた捕獲機にやってきてお食事タイム。
この時3缶食べました。が子猫が現れない為捕獲は一旦仕切り直しで捕獲機を再セットするのですが、なんと職員さんが母猫の目の前で再セットをしていました。母猫さんは「またご飯食べれるのか(キラン)」とでもいうような視線を向けていました。

小池さん曰く、見慣れない捕獲機をガサガサされるよりも

『あの中で美味しいご飯を沢山食べた』

という体験が強く残っているとのこと。
今度は「ごはんあるよ!」と子猫を引き連れて捕獲機の中へ。

無事捕獲、という動画でした。

5.TNRあるある

『ねこから目線。』でよくある、よく聞かれたあるあるが紹介され
面白いのと、ためになる、で少し紹介します。

 ①野良猫の判断基準とは?

言われてみればきになるもの。私もたまに放し飼いにしていた子を連れ去られちゃったのか、ぽっきり見なくなって悲しいという近所の話を聞くこともありました。
ポイントは3つ
①室内外で脱走防止をしているか=逸走防止
②不妊去勢手術をしているか=繁殖制限
③首輪などを装着し所有者の明示をしているか=所有者の明示
これらは動物愛護管理法で定められている、所有者(飼い主)の責務として明示されていることです。
この①~③を満たしていない時、野良猫と判断しているそうです。

 ②警察や周囲へは捕獲の『許可』でなく『情報共有』

公園や市街地で捕獲をする際、警察や関係各所へ許可をとる必要があるのか、という質問をいただくそうですが、答えは『No』。たとえ取りに行っても交番、駐在所には許可を出す権限はなく、TNRが延期になってしまうそうです。道交法76条の観点からも交通の妨害とならなければ許可は不要なので、『許可とり』ではなく、「ちょっとTNRやるので、住民から何か言われたら連絡をください」と『情報共有』に留めているそうです。

 ③子猫の捕獲では兄弟の1匹は大抵変な行動をとる

私もお世話するときによく感じることですが、兄弟が沢山いれば1匹2匹他と違う行動をとる、ちょっと抜けた子がいます。結構あるあるです。
捕獲動画を見ていて可愛くて仕方ないですが、捕獲側としては少し困りものです(笑)

6.横浜市がすごい。

最後にここを触れないわけにはいけません。
小池さんも驚かれた横浜市栄区のすごさがあります。
それは広報紙一面が地域猫特集であることと、区役所が『ねこから目線。』で使用しているトマホーク社(海外製)の捕獲機を20台以上も持っていること。

一面、地域猫特集の栄区の2月広報紙


栄区所有の捕獲機

それもそのはず、昨今よく聞く『地域猫』、この言葉の発祥の地は横浜市磯子区とされています。磯子区では初めて行政の施策として地域猫活動が開始された地とされ、市をあげて注力している社会課題なのです、

神奈川県動物愛護センターは動物に優しい殺処分ゼロを達成した施設として、施設のリニューアルなどもニュースや多くの書籍で取り上げられたほど。
私も8月に実際に見学に行ってきました。
※下記が取り上げられた書籍の一つ

また横浜市栄区では毎年犬猫に関する講座を開講しており、昨年は区役所の会議室を貸し切りドッグトレーニングスクールを行ったそうです。

このような活動が、日本全国に広がればいいなと、職員の方に話を聞いていた時胸が熱くなりました。

7.まとめ

本講座ではTNRがどう猫や人にとって大切なものであるのか、一つの命がそれぞれの地域で人と共に長く暮らしていく社会を作るために大切な施策であること、またそれを行うには人が命を預かるという責任を持ち猫に優しくあることがとても大切だということが伝えられました。

何をすれば猫がどういう風に感じるのか、それを常に想像すること
これは飼い猫にも言えることで、躾けや慣らし、お世話でも私が大切にしていることでもあります。
猫の問題は人の問題という意識で2018年から活動する『ねこから目線。』の失敗と成功から得た知見を社会に還元してくれていることが強く伝わった内容でした。ちなみに今回参加費は無料。

今回はかなり長めのレポートになりましたが読んでくださりありがとうございました。
今回の講座レポートでTNRが猫の事、人のことを思いやった活動であり、TNRが猫を不幸にするものでないということが伝われば幸いです。

『ねこから目線。』では勉強会などを開いていますので、ご興味ある方は是非チェックし見てください。

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