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【ケーススタディーその2 事故のシナリオ編】自宅ケア用レンタル介護ベッドのリスクと使い方

土庫澄子です PLケーススタディの試作、2回目です 

自宅療養のためにレンタルした介護ベッド(ギャッチベッド)で「事故」が起きた!? ベッドには欠陥があったのか!? ベッドの選択や説明は適切だったか!? 介護者のベッドの使い方はどうだったか!?などが問題となったケースです

わたしは医療者ではなく医学的なことはわかりません 判決文はだれにでも開かれていて自由に議論してよいものとおもいます 

今回もサクッと分析して再発防止のアイデアを練ってみたいとおもいます 

京都地裁平成19年2月13日判決です 

入退院と在宅療養を繰り返したお年寄りの自宅ケアのはなしで、話は昭和にさかのぼります あんまり端折るわけにもいかずどうかおつきあいください

■レンタル介護ベッドによる身体圧迫事故

1 自宅療養のスタート

昭和58年10月26日、長女Bさんは愛知県で一人暮らしをしていた母親Aさん(明治44年生まれ)に電話をかけたところ異変に気づきました 愛知県内に住んでいたAさんのもうひとりの子CさんがAさん宅に駆け付けたところ、意識朦朧状態でガスがつけっぱなしでした Aさんはガス中毒の疑いがあると診断され入院治療を受けました 

昭和63年ころからAさんに認知症の症状が出るようになり、B宅でBさんが介護する自宅療養生活がスタートしました

平成2年、Aさんは呼吸困難を起こして入院しました 退院後は寝たきりの状態となり、平成3年には脳梗塞などで入院治療を受けました

2 旧ベッドの使用

平成8年には肺炎で二度入院し、鼻腔経管栄養で栄養を補給するようになりました 退院後はほぼ寝たきりとなりました このころ京都市から介護ベッドの給付を受けることとなり、D社が製造したギャッチベッド(=旧ベッド)の使用を始めました

平成9年には胸部不快感を訴え、同3月、心房細動などで入院し、退院後の5月には、往診の医師の指示で在宅酸素療法を行っていました 

平成11年12月28日までAさんは自宅2階に置いた旧ベッドで起居していました 鼻腔経管栄養のときはほとんど長女BさんがAさんを抱きかかえて旧ベッド横の車いす・リクライニングチェアに移し、Aさんが座った状態で行っていました

翌日の12月29日、Bさんは「いわゆる2000年問題を気遣い」(←具体的にはよくわかりません)、旧ベッドを1階に移しましたが、車いすとリクライニングチェアを1階に移すことができず、その後は旧ベッドのうえで鼻腔経管栄養を行うようになりました

3 本件ベッドの使用ー長時間の背上げ

旧ベッドのボルトが破損し、修理したときに、Bさんは「これを機会に新しいギャッチベッドを使用しよう」と考え、平成12年5月、D社が製造した新しい介護ベッド(=本件ベッド)をレンタルしました このレンタルに先立ってAさんは、京都市から要介護5に認定されています

平成12年6月14日からは本件ベッドのうえで鼻腔経管栄養を行うようになりました 当初は1日合計6時間くらいでしたが、同7月22日以降は下痢防止のため溶液を希釈して1日合計15時間ないし16時間かけて行っていました 「その間は、本件ベッドを背上げした状態であり、膝上げもしていた」とのことです

修理した旧ベッドはそのまま自宅に置いていましたが、Bさんは「不安をぬぐいきれなかった」ため(←このあたりも詳しいことはわかりません)、同型の新品を交換してもらい、引き続き自宅に置いていました

平成13年11月16日、Aさんは呼吸状態が悪くなり、呼吸不全などで入院治療しましたが、同12月2日、心不全により亡くなりました 90歳でした

4 裁判の結果

Aさんの子であるBさんとCさんは、介護ベッドに欠陥があった、ベッドの選択義務違反や安全配慮義務の違反があったなどとして介護ベッドのメーカーD、 介護保険法に基づく居宅介護支援事業者E、レンタル事業者Fに対して損害賠償を求めて提訴しました

裁判所は、原告の主張をすべてしりぞけて請求を棄却しました

■Step 1.  事故のシナリオを探す

裁判所が描く事故のシナリオはどうなっているでしょうか?

ざっくりまとめてみますと。。

長年入退院と在宅療養を繰り返してきたAは寝たきりとなり、自分で自由に体位を変えられない状態となった 
Bの負担を軽減するギャッチベッドで背上げを行えばAの胸部や腹部を圧迫し、長時間の背上げは身体の負担となることは明らかである 
Bは自分で試してみることでAの身体への負担を容易に理解でき、使用方法を工夫すればAの負担を軽減できたはずである Bがこの工夫をしなかったために、Aの胸部・腹部、特に循環器・呼吸器への負担がおきたのだろう

裁判所は、介護者が自宅でギャッチベッドの使い方を工夫すれば、本人の肺や心臓への負担をうまく軽減できたはず、とくに、長時間の背上げは調整できたはずと考えているようです

【余談】わたしも父の自宅療養でレンタルの介護ベッドを使ったことがあります 10分から15分くらいの背上げでもやり方はいろいろで、本人の身体へのよしあしは微妙でした もちろん本人の状態や事情によりますが、このケースのように鼻腔経管栄養のために1日合計15時間から16時間くらい背上げしたというのは、たしかにずいぶん長いと感じます

■Step 2.  事故の要因を探す

裁判所が描く事故のシナリオは、つぎの1~3の三つの要因からなっているとおもいます

1 本件ベッドの構造ー従来型ベッドとの違い

背ボトムと膝ボトムをもつ従来型のベッドとちがい、本件ベッドは背ボトム、背湾曲ボトム、膝ボトムがついている
本件ベッドは背湾曲ボトムがついているために、従来型ベッドで背上げをした場合にくらべて足側に押し出さない構造となっている (←とはいえ、判旨は、本件ベッドは従来型ベッドにくらべてより大きな圧迫を与える証拠はない、とも言っています)

2 ギャッチベッドのリスク

ギャッチベッドで背上げすると胸部や腹部にある程度圧迫を受けることと、背上げをしたまま長時間姿勢を保つことは身体への負担となることは、明白な事実である

3 介護者が調整してリスク回避できる

介護者は自分で試してみることで2の胸部・腹部への圧迫や身体への負担を容易に理解でき、座った姿勢や位置、容体にあわせた背上げ時間の調整などを工夫すれば本人への圧迫や負担を軽減できたはずである Bはこの工夫をしていない

判決文をみると、事故の主たる要因は3、事故の中心的なシナリオは3にあるといえそうです

1と2は動かせないとしても、もし3の要因がなければ事故は起こらなかっただろうというのが裁判所の見方だとおもいます

自宅で長年母親の介護をしてきた長女Bさんのギャッチベッドの使い方に欠点があったというのが裁判所の評価のポイントとなっているようです

【さらに余談】思いがけず在宅ケアを経験したとき医療機器や福祉用具の微妙さを知り、現在もなにかとケアの微妙さを感じているわたしにとって、このケースは他人事とは思えないのです

■Step 3. へー事故につながるほかの要因を探す

つぎは、ケーススタディのStep 3.事故につながるほかの要因を探すになります 判決文のなかに、裁判所が描く事故のシナリオの外に置かれた事情を探してみる工程です

Step 3.は、1~3の三つの要因にシナリオの外から違うライトをあてて、事故が起きた部分社会の輪郭となる事情が判決文のなかに見え隠れしていないか、探していく工程です

たとえていえば、コンビニを回遊してドアのある入り口からみえない角度にある棚にならぶモノをみつけ、ドアからみた視界をハコのなかで動かし広げていく作業です

Step 3.はつぎにまわして今回はこのへんにしたいとおもいます

ここまでお読みいただきありがとうございました☆

















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