雛の家
多分、若き日の父親が、大枚を叩いて。
そして、初孫の初節句を喜んだ祖父母がお祝いを包んで。
そうやって買ったであろう、私の雛人形がある。
本来なら、私が実家から独立した時に、持って行くべきだったのだろうが、新居が狭いアパートだったし、円満に実家を後にしたわけではないので、雛人形はそのまま置いて行った。
以来、引き取る機会もないまま、「こっちで飾ってるから」と母に言われていたので、そのまま実家に置いておいた。
が、7年前に実家が家財を整理した時に、雛人形は私の知らない所で、どこかに行ってしまった。それに気付いたのは、3年前。母に行方を問うと、当時住んでいた自治体に寄付したと言う。
私は、長年預けていたけれど、「自分のお雛様」だという想いがあるが、母は違う気持ちで居たのだろう。
誰にあげたの?とも、何で私に聞いてくれなかったの?とも、私は言わなかった。
言って通じる相手ではないから。
私は、役所の高齢者支援担当に当たりをつけ、電話で問い合わせをした。推理は的中して、その雛人形はこちらで保管していると言われた。そして、強引に寄付されて、扱いに困っているとも。人形だけに捨てるに捨てられず、倉庫に保管しているそうだ。
私が、元々の人形の持ち主であり、人形を引き取りたいと分かると、向こうは二つ返事で返還してくれた。そして久しぶりに、雛人形が私の所に戻って来た。
勿論それを、母には言わなかった。雛祭りの時期が来ても、母も何も、人形の事には触れなかった。どうでもいい物だったのだろう。
2年、我が家に飾って、今年は叔父宅で飾ってもらっている。女児がいない叔父宅にとっては、華やかなお客様が嬉しいようで、旧暦で飾ろうと、来月まで預かってくれるそうだ。
私だけではない。父を始めとした多くの人の想いがこもった人形だから、いつか手離す日が来る時まで、大事に飾って行きたい。
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