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《プラネット・ユニオン》朗読版

朗読&原案: Elka Nick. 執筆: 水月suigetu 編集: Elka Nick. / 水月suigetu 着想: 「フリー・プラネットの船旅」
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※諸事情ありまして、以前Elka.さんが公開されていた「プラネット・ユニオン」の朗読を、こちらに移動させていただきました。内容に変更はありません。

Elka.さんとのコラボ企画「夢見航路PROJECT」で、短編小説「プラネット・ユニオン」を共作しました。その第二弾として、Elka.さんによる「プラネット・ユニオン」の朗読版をお送りします。


『プラネット・ユニオン』

アコースティックギターを弾いていると、操縦室のドアが開いた。黒猫のネオを抱いている助手のオリバーが入ってくる。

「おはようございます、チャーリー船長。良い音色ですね。朝から弾いてるなんて珍しい」

「うん。暇でね。大体は自動操縦だし、景色もほぼ変わんないしね。あのとき地球からギター持ってきて良かったよ」

また適当に弦を爪弾いてみると、ネオがニャオと小さく鳴いた。ゴロゴロと、盛大に喉を鳴らす。

「チャーリー船長のギター、ネオも気に入っているようですね。私も好きです。地球を思い出します」

オリバーもネオと一緒に、うっとりと表情を緩ませている。地球。宇宙船で旅を続けている僕らの故郷。

僕らの宇宙船は、自由浮遊惑星に擬態できる特別な宇宙船だ。自由浮遊惑星とは、恒星の重力に捕らわれず、自由に宇宙を漂う惑星の事をいう。

最近、この宇宙船には、時空を移動できる機能も付いたらしい。たぶん、オリバーの仕業だ。一瞬で遠く離れた銀河まで行ける。

僕は地球の姿を思い出しながら、
もう一度ギターを強くかき鳴らした。

「やぁ、チャーリー、オリバー、ネオ。おはよう。心地いい音色だね」

「あ、先代。おはようございます。起こしちゃいましたか?」

「こんな素敵な目覚しなら、大歓迎さ。それよりよしてくれよ先代なんて。やっぱりボスって呼んでくれ」

ドアが再び開いて、ボスがするりと入ってきた。

この宇宙船の先代の船長、まぁ、所謂ボスだ。人間ではない。並外れた知性を持つ、液体金属製の地球外生命体。惑星をパトロールする宇宙連合の偉いお方でもある。

僕もオリバーもネオも、今は宇宙連合の一員だ。



ずっとずっと昔、僕とオリバーが宇宙飛行士だった頃。僕らは自由浮遊惑星の実地調査に参加した。その時、調査していた自由浮遊惑星が、たまたまこの宇宙船だったのだ。偶然この宇宙船の擬態を見破ってしまっただけでなく、大勢で乗り込んできた僕らに、ボスはとても驚いたそうだ。

僕らも、もちろん驚いた。液体状の生物のような何かが、頭の中に直接話しかけてきたのだから。おまけに、一緒に宇宙を旅しないかと、誘ってきたのだ。僕とオリバー以外の調査隊員は、首をすぐ横に振った。しかし、僕とオリバーはその誘いに乗った。

この瞬間を僕はずっと待っていた気がしたのだ。
新しい自分の夢の探索に踏み出すその瞬間を。

調査隊員の一員として皆に可愛がられていたネオは、お別れの瞬間に、僕の腕の中に飛び込んできてしまった。焦って地球に帰そうと思ったが、ボスはネオも歓迎すると言ってくれたので、まぁ、いいかということになった。


ボスがオリバーの膝の上にいるネオに、するすると近づいていく。しかし、ネオは少し威嚇しながら、ボスから遠ざかっていった。

「ああ、やっぱり駄目か。撫でたいだけなんだが。怖がらせてごめんよ」

ボスはしょんぼりして、ピンポン玉のような球体になった。ぷかぷかと浮かんでいる。

「ネオは怖がりだから……。いつか慣れてくれますよ。元気出して、ボス」

オリバーが励ますが、ボスはがっくりしたままだ。

「ボスは何でもできる。生体構造を無機質なものに変えて、僕らを不老不死にするなんてことも一瞬でできてしまうのに。猫には手こずるなんて。なんか、おかしいですね」

「ははは、本当だよ。君たちとは上手くやれてるのになぁ。そういえば、オリバーのおかげで、この宇宙船に時空移動機能も搭載できて、また一つ夢が叶ったよ。ありがとう。猫と仲良くしたいという夢は、まだ叶いそうにないが……」

ボスはふよふよと、
大きなホログラム画面に近づく。

僕はギターを下ろして、目の前のホログラムボードを操作した。画面には、現在の位置情報が表示された。

「ボス、今は、数百年前の太陽系近くを飛行中です」

「……土星付近をズームアップできるかい?オリバー」

「ちょっと待ってくださいね。はい。できた。ボス、何か気になることでも?」

「さっきから何か、聞こえるんだ。何かを、軽く叩くような音……。トントントン、ツーツーツー、トントントンというリズムが繰り返されている」

モールス信号だ。トントントン、ツーツーツー、トントントンは、確かSOSのサイン。誰かが、助けを求めている。

「ボス!音の発信地の情報を入力してください!それは人間からのSOSです。きっと、宇宙飛行士でしょう。何かあったんです。助けなくては」

「おぉ、そうなのか。大変だ。早く行こう」

宇宙船の速度は増していく。光速を超えていく。スピーカーから、弱々しいモールス信号が聞こえた。かなり古い、アナログのコミュニケーション方法だ。でも、確かに届いた。



隣り合う、紅い双子の星を通り過ぎた時、青い星が見えた。まだ調査したことのない惑星だ。

近づいていくと、予想以上に複雑な色をしていた。紫や群青色、水色など、いくつもの寒色が混ざった、何とも言えない、美しい色。

その星に降り立った僕らは、
壊れた小さなスペースシャトルを見つけた。

一人乗りのスペースシャトルの爆発事故で、ほとんど身動きできないほどの怪我を負っていた女性をなんとか救出した。




「ローズ。準備はいいかい?」

僕はホログラムボードのキーを押して、
とある宇宙観測センターとの通信を開始する。

ローズの双子のお姉さん、カーラという人が、そのセンターのコントロールルームに勤務しているらしい。どうか、彼女が一番に気付いてくれますように、と祈る。

「はい……」

ボスによる治療で回復したローズが静かに頷く。ローズは、抱いていたネオをオリバーに手渡し、ホログラム画面に真剣な顔を向けた。ホログラム画面に、ローズとそっくりな女性が映った。
皆、ほっと息をつく。

「お姉ちゃん!」

「え……ローズ?!ローズなの?!無事なの?!」

「うん……うん!宇宙連合の人たちに、助けてもらったの。お姉ちゃん、会いたかった……!」

「ああ、良かった、本当に、良かった……」

号泣し合って、会話にならない姉妹の再会を僕ら三人と一匹で静かに見守る。

「あれが嬉し泣き、というものか。綺麗だ。ヒトの瞳もやはり美しいね。虹彩が、まるで宇宙のようだ」


ボスが小さく零す言葉に、僕は頷いた。



ローズを地球に転送し終わった後も、僕らは、これまで通り、惑星パトロールを続けている。僕の夢見航路はまだ見つかりそうにない。これからも皆と一緒に無限の旅を続けていこうと思う。



急にホログラムボードが立ち上がる。
チャーリーはそのことに気付いていない。


小さな猫が画面に映る。
ボスが静かに口を開く。


「キミの存在はまだ誰にも気付かれていないよ。まさか猫のキミがね。何万年も前からずっと人類の潜入調査をしているなんて。なぁ、ネオ、いや、モリー」


そう言いかけると、
ネオはそっぽを向いて、通信を切った。

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原案: Elka Nick.
執筆: 水月suigetu
編集: Elka Nick. / 水月suigetu
着想: 「フリー・プラネットの船旅」
https://note.com/nekotoakinosora8/n/n2cd65c611f5a

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