見出し画像

元旦

※ダラダラと870文字あります。

元旦の朝は毎年同じ言葉で目覚める。
例え大晦日に飲み過ぎていても、慌てて年賀状を書いて朝方眠りについたとしても、母は容赦無く階下からハスキーボイスで言うのだ。
「お餅何個食べるのーっ?」
正直言うとお正月なんだから、寝かせてほしい。
サザエさん家みたいに「明けましておめでとう」が年始の言葉じゃないの?
なんて心の声は閉まっておいて、寝起きの声を絞り出す。
「に、二個ぉ。」
すでに日本酒による二日酔い状態だが、こちらも毎年同じ数で答える。ちなみに姉妹もそれぞれ寝起きの声で「二個」と聞こえてくる。
毎年二個なんだから聞くなよと思うが、起きろという圧力である。
おいおい。娘なんだから起きて手伝いなさい、なんて正論は正月なので言わないで頂きたい。姉妹も四人もいると役割が決まっているのだ。今年もちゃんと次女だけ起きて手伝っている。ありがとう、お姉ちゃん。三女で良かった。
這うように起きる。
神棚にニ礼ニ拍手。ついでにお願い事。
日本酒。ビール。鮭とば。氷下魚。ワインもあるならチーズも欲しいかも。
旨煮とお雑煮は朝食兼ツマミとなる。
お雑煮はめんみ(道産子愛用の麺つゆ)が基本。四角い餅を焼かずにぶち込むのでだらりとくっついて二個なのか?状態。具は豚肉か鶏肉かは母の記憶により変わる。高野豆腐の薄切りが入っていたりもする。椎茸、長葱、“つと”(北海道だけらしい)、ミツバ。
来客などの用事は二日以後にして、このままダラダラ飲んだり寝たりするのは元旦だけ。(嘘)

ーそんなお正月が懐かしい。

離婚して実家でお正月を迎えるようになった。
久しぶりに実家の料理を作るのは当然私だ。
元旦もちゃんと起きる。
昔からダラダラしてない父に合わせて子供の頃を思い出しながらお雑煮の準備をする。父は今でも五個食べる。元気な老人で何よりだ。母は一個。三女の座に甘えてあまり手伝わなくてごめんなさい、と思いながら小皿に入れて供える。写真の母は笑っているから大丈夫。

さて、まだ寝ている子供達を起こそう。
「お餅何個食べるのーっ?」
母みたいなハスキーボイスはまだ出せない。


え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。