見出し画像

メガネ朝帰り / 毎週ショートショートnote

シャボン玉みたいにぼんやり揺らいで見える。
「あ、眼鏡が無いのか。」
以前はどんなに飲んでも目が覚めたら部屋にいるのが自慢だったのに、今朝は片足だけ靴を脱いだ状態で玄関に寝ていた。
眼鏡を探しながら玄関にばら撒かれた財布や化粧品を拾う。飲み過ぎると母の小言が聞こえる。
「夜中に帰ってきて玄関で寝るなんて!どうせなら男の人と朝帰りでもして来なさい。」
「娘に朝帰りしなさいなんて親いないよ。」
「あー孫が欲しい!結婚式で感謝の手紙読まれたい!」
母の小言が玄関のチャイムで遮られる。
ドアを開けるとスーツを着た若い男性が爽やかに立っていた。
「昨夜お乗り頂いたタクシーです。」
手に持っているのは、私の眼鏡だ。
「ありがとうございます。」
運転手は忘れ物に気付かなかった事を詫びると丁寧に頭を下げ帰って行った。
「眼鏡だけ朝帰りだなんて情けない。」
ぼんやり揺らいでいた世界が眼鏡をかけると輪郭をハッキリさせ、部屋の奥に母の遺影が見えた。
本物の小言はもう聞こえない。


#メガネ朝帰り
#毎週ショートショートnote

お借りした画像は地酒らしいです。気になる!


え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。