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【第2回】女の!限界バイト列伝「試食販売」

どうも、さぐです。
この記事は掟ポルシェさん著「男の!ヤバすぎバイト列伝」オマージュ的なエッセイです。掟ポルシェさんほどのアウトレイジみも借金も抱えぬまま社会不適合者として生きるさぐの限界なバイトエピソードを昇華していきます。

宅配寿司でかなりのトラウマと歪んだ思考を植え付けられたわたしだが、そんなわたしをよそに家族からはバイトをしろいつ次のバイトをするのかと責め立てられた。もうすでに労働意欲はえぐり取られていたが「働かないといけない」と盲目的になっていた。

タウンワークや歩いてアルバイト募集を探し、アルバイトに応募するもびっくりするくらい採用されなかった。なんで就活でもないのにこんなに履歴書を書いているのか意味わからないくらいアルバイトに応募していた。アルバイトせず好きなことだけしているクラスメイトに苛立って仕方がなかった。だって高校生だもん。そこまでしてアルバイトに固執しなくて良かったのに、と今だから思える。

お金がない。お金がないとなにもできない。友達と遊びに行けない。「日給」その文字に目が眩んで飛び込んだのは派遣アルバイトの試食販売だった。1日働けば1万円もらえる。月に2〜3日しか働かないで月7000円しかもらえなかったわたしにとって、割のいいバイトじゃん!と錯覚させた。

柳原可奈子は、あの甲高い声で試食を誰よりも美味しそうに食べながら販売しているのが話題となり異常な売り上げを残した、という逸話を思い出した。自分も若いうちに逸話を残したい!

研修が始まり、とにかくでかい声を出して終わった。勤務が終わったらお店の責任者に会社でもらった紙にサインをもらう。その日勤務するお店に失礼のないようにしなければいけない。

早速勤務が始まった。薄暗い従業員入り口から入店する。責任者っぽい人に挨拶するが、目も合わせてくれない。決まり切った文言を一通り説明されると消えた。研修で教わった通りハキハキと挨拶をしても誰も挨拶してやくれない。完全にアウェーである。もうすでに心折れそうだったがまだ仕事が始まっていない。業界では試食販売の人を「マネキンさん」と呼ぶ。

会社で借りたホットプレートに持参した三角巾、エプロン、を身につけ持参したキッチンバサミ、トング、菜箸、ふきんを駆使して高めの肉をサイコロ状に切って焼く。持参品が多い!ふきんくらいはくれ!

土日の休みの夕飯をステーキにして楽して美味しく家族で団欒!いかがですか!?焼き加減の確認のため、味見をしてもいいと言われていたので食べた。うまい。油が濃く、柔らかい。朝からいい肉買いに来るわけねえだろと思いながらも肉を切って焼いていく。柳原可奈子のような逸話を作るのは早々に諦めた。

夕方になって来るとどんどん人が増えて来る。最初は単身のお年寄りが多かったが、ガラッと子供連れのファミリー層がやって来る。カートを引くお父さん、鋭い眼光で品定めをするお母さん、お菓子をおねだりする子供。「幸せってこういうことなのかなぁ」唐突にすごい風圧で自分が孤独が押し寄せてきた。1万円のためにわざわざ電車とバスを乗り継いで挨拶もしてくれない知らんスーパーで肉を食って焼いて、いったいこの先の「幸せ」とは・・・。

そんなことを「マネキンさん」が考えているとはつゆ知らず、無邪気な子供達がキラキラした眼差してわたしの焼いた肉を見ている。子供に「ご自由にどうぞ。熱いから気をつけてね」と進めると必然的に親も寄って来る。その流れで肉を進め、やっと食べてもらえると圧強めの孤独も少しはましになった。

そんなわたしをまた風圧マシマシで、やはり、事件が起きる。

あまり料理の経験はないけれど、なるべく肉の柔らかさを出すためにあまり焼き過ぎないように気をつけていた。

ピーク時が近づいて来ると一人のおばさまがご試食した。

「これ火ぃ通ってない!ペッ」

その場で持参した(持参多過ぎ 怒)ティッシュで肉を口から出して目の前で捨てられた。一生テメェは自分の焼いた肉しか食うな。ほんの数秒で孤独が帰ってきてしまった。

ピークが過ぎてきた頃、ふらりと一人のおじいちゃんが近づいてきた。そのおぼつかない足元に「酔っているのか?」と心配したが、酒の匂いはしなかった。勝手に世間話をし出したので「あー」「はぁー」とヘラヘラしていた。しかし、このおじいさんのせいで誰も近寄ってこない。それは困る。しかしこのジジィを追いやる術もない、助けてくれるような顔なじみもいない。ただヘラヘラとその場をやり過ごすしかなかった。気がつくとそのジジィの内容は下ネタになっていた。

「あのねぇ、気持ちいいのがねぇ、男の【ピー】(規制音)と女の【ピー】を【ピー】するとねぇ、たまんないんだよお〜〜。やってみな〜〜〜!」

とんでもなくエグい下ネタをぶっかまし始めていた。当時そんなに性の知識がなかったわたしは「はぁ・・・」としかコメントはできずとにかくもう数少なくなった肉を先ほどより細かく切ることで時間を稼いでいたが一向にジジィは退かない。内容はエスカレートして【ピー】しか文章に起こせないようなエグい下ネタをこれでもかとぶち込んで来る。今だったら通報してもいいくらいだ。

しかし「自分はブスだからヘラヘラしていなければらない」という歪んだ思想がジジィの思惑通り逃げ道のない若い女として消費されていくしかなかった。先日見た相席食堂の笑福亭鶴光ですら嫌悪感を感じたというのに・・・。

ジジィ、てめえも絶対許さない。そして、今後の若い女の子達にそんな絡み方するジジィが現れたら咄嗟の判断でも助けられるよう眼光を鋭くして鍛えるしかない。

その後も5回くらい(結構やった)は試食販売をしたが、交通費も出なければ持参する持ち物が多くて割りに合わないことをやっと理解したわたしはまた粛々と歩いてアルバイト募集の張り紙を探し、タウンワークにドッグイヤーし、ありとあらゆるアルバイト募集サイトに登録し、必死にアルバイトを探した。

その時はまだ想像もしていなかった別の限界へと身を投じて行くのだった。


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