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【第3回】女の!限界バイト列伝「高級スーパー」2

どうも、さぐです。前回のクセすごメンバー紹介から結構時間が経ってしまった。これからどんどん限界になっていくので安心してください。

 高校生なので平日の夕方、土日をメインに入っていた。2人組でレジに入り、だいたい学生バイトとベテランパートで組まされる。1人は商品のスキャン、1人はレジ打ち。最初はスキャンから教わり、そのあとレジ打ちを教わる。新人ゆえにクセすごベテランのマダム・ミイと組まされることが多く、「位置が違う!」「日本語がおかしい」「野菜はここを持つな」「スキャンが遅い」と一挙一動にご指導が入る。そんなマダム・ミイの厳しい訓練の後にオオニシさんとペア交代になったりする。まさに飴と鞭。「あら、前より上手くなったのねえ」「そんなに気を張らなくていいの」とわたしをフォローしつつも光のような迅速さとJRのような確実さで仕事をしていくオオニシさん。そして最後には本当に飴をくれる。「喉にいいからね」とくれたはちみつ100%飴。コンビニで見かけると今でもオオニシさんを思い出す。

 しかし、最悪なのは締め作業。算数が破滅的にできないわたしは締め作業の清算で阿鼻叫喚。お金がちゃんと合ってるか?それだけの計算なのに、わたしがやるとやってもやっても+になったり−になったり一向に合わない。1人、また1人とパートさんが上がっていき、周りの照明が落とされていく。まるでお姉様と継母に裏切られ家で1人のシンデレラのシーンみたいなライティングの中で電卓を片手に必死に計算するも終わる気配はない。

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♪〜果てしない闇の向こうに Oh,oh手を伸ばそう〜 

限界になるとMr.Childrenの「Tomorrow never knows」が頭の中で再生される。いや、手を伸ばしてんのよ、小銭に、計算に、でもできないんだよ!
(後々になって暗算ができないのは脳の素質とわかって安心した)

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「どうかな?さぐさん。できそう?」

「Tomorrow never knows」が脳内で再生し始めるとサイコパス・チーフが決まって尋ねにくる。

「いや、何回もやってるんですけど計算合わなくて、どうしても・・・」
「そっかぁ」

 笑いながら立ち去ってしまった。もちろん、目は笑っていない。いや、いつも以上に笑っていない。むしろ殺意すら宿っていてもおかしくはなかった。ドラマの殺人鬼が命乞いする人間に向かってする笑顔だ。怒るでもなく、教えるでもなく立ち去るチーフを「きっと教育のためだ」と純粋に信じていたが、シンプルに嫌われていたからかもしれない。

 ロッカーはドラマの殺人現場で使われそうな湿った地下のボイラー室にあった。壁はあるけれど天井は空いている構造だった。その日も勤務が終わり、着替えるためにロッカーに向かうと、マダム達の声がした。

「結構経つのにねぇ、全然仕事できないじゃない」
「あんまり申し訳なさそうにしないよね」
「そうなの。なんのつもりなのかしら」

 ドアノブをひねりながら「失礼しまーす。お疲れ様です!」と勢いよく入室。あからさまに目をそらし、無視をするマダムたち。変な汗が出た。ボイラー室なんかが近くにあるからだろうか。

 気づけば入って1年。研修バッチをつけたままだった。締め作業は絶望的にできなかったが、そのほかの業務はそれなりに慣れてきていた。勝手に外しちゃいけないもんだろう、と思いなんとなくチーフに「あのー、これって(研修バッチ)外していいんですかね?」と尋ねた。

チーフは無垢なチワワみたいに首を傾げて目を丸くすると

「いつか外れるといいねえ」

と笑って消えた。


ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


気がついたら、闇。
闇、闇、闇。
スーパーも、世界も、何もかもなかった。
わたしという人間も、肉体も、魂も、概念も、全ては存在していなかった。
そこにあるのはただ、闇だけ。

続く

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