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【第4回】女の!限界バイト列伝「コンビニ」

 いよいよ限界突破へのへのかっぱになったわたしはやけくそになってしまった。それからもなぜか金はいつもなくて単発のバイトたまにしていた。それでも「バイトをしろ」と家族にせっつかれる。学生なのになんでだったんだろう。全然働きたくないのに。(今もだけど)

 ふと地元の駅の裏手側にあるコンビニを通りかかるとアルバイト募集の張り紙があった。前は学校までの乗り換えの駅で働いていたが、休みの日や学校帰りに働くには地元の駅が一番いいかもしれないと思い、電話で問い合わせた。あまり滑舌のよくない男と面接の日程の約束をした。面接に行くと顔がぼんやりした小柄の男がコンビニのダサい制服を着てヘラヘラしていた。この男が店長とのことだ。電話で話した印象とあまりに誤差がなさすぎた。わたしはこういう「オス」感がない男が好きだ。殴ったり怒鳴ったりしなさそうだからだ。レジカウンター奥にある遅長くて薄暗い通路兼ロッカールームにパイプ椅子を置かれて座る。

「高校生なのにしっかりしてるねぇ。電話の対応もハキハキしてたし」
「ありがとうございます」

気がつけば高校3年生になっていた。あまりにも理不尽なことの連続でもうちょっとやそっとのことでは動じなくなっていた。人生、無駄なことはない。でも高校時代に戻れるなら、これほどアルバイトばかりしないでもっと暇を楽しめばよかったと思う。

即採用になった。やったー!

 どこからともなく梅宮辰夫ばりに色黒でテカってて貫禄と大物俳優感バキバキのおじさんがコンビニの制服を着て登場。完全に出囃子が梅沢富美男の夢芝居が流れていた。

「あ、オーナー」

 オーナーに挨拶をして、初勤務の日を決めた。オーナーが目が大きくてコンビニ全ての光を吸い込まんとする迫力があり、緊張した。けれど、ヘラヘラした店長のおかげでやっていけそうな気がした。

 アルバイトは主に同じ高校3年生と大学生が働いていた。同年代の人が多いところで働けるのは珍しかったので嬉しかったが、散々迫害を受けて来たことから少し緊張した。

同じ年の女子高生がいた。名前はあいり。名前の通りきゅるりんとしたこぼれんばかりのうるうるの目にぽってりした唇。Sサイズでもぶかぶかで「彼シャツ」を彷彿とされる華奢さでアイドルみたいに可愛かった。それでいて人懐っこい。何も聞いてないのにずっと彼氏との話を聞かされた。チワワみたいだ。わたしは怖かった。可愛い子がいると迫害を受ける。常に可愛い子と比べられてただでさえブスなのにより強調されてしまう。同じ大きさなのに一方の方が大きく見える目の錯覚みたいだ。


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案の定というかなんというか、店長はあいりにお熱だった。ガチ恋ではないけど終始「可愛いねえ」「あいりちゃんは僕のアイドルだもんね」と裏でも本人にも言っていた。あいりのリアクションはとても慣れたもので謙遜も自虐もせずただニコニコしていた。聞いてもないのに「僕の元カノはAKBのこじはるに似てたんですよ」と言い出す。知らん。聞いてない。だからアイドルは好きなのだそうだ。当時はAKB全盛期だった。

NEWSの加藤シゲアキくんに似ている大学生、加藤と呼ぶ。気さくて話しやすかったが、ヒゲが濃い。NEWSも当時はメンバーもっといたのに今は3人。時代は変わる。

「さぐさん、武井咲に似てますね」
「えっ!そうですか?」
「いや、似てるっていうか、いや、でも髪型も違うし顔・・・似てるわけじゃないんですけど雰囲気・・・いや雰囲気も違うんですけど。ね!」

似てねえじゃん。

このコンビニはどいつもこいつも聞いてないのに勝手に喋る。

「さぐさん、歌うまそうですよね!」
あいりがいつものうるうるした目で話しかける。

「そうですかねぇ、カラオケあんま行かないのでわかんないです」
「え!タメ口でいいですよ!わたしは西野カナとか歌うんですけど!」

死んでも歌わない選曲だ。肩までサブカルに浸かっていたわたしは心底嫌悪しているジャンルだった。今ではいろんなものを許容できるようになったが、当時は「自分の好きなものが一番!それ以外はクソ!」という歪んだ思想でそれだけが自分の唯一のアイデンティティだと勘違いしていた。

どうして時が経って時が経って
そう僕は気づいたんだろう?
どうして見えなかった
自分らしさってやつが解りはじめた

サカナクション アイデンティティ

「今度一緒にカラオケ行きましょうよ!」
「あ、うん」


絶対行かないやつじゃん。


しかもこの街にはカラオケはない。



続く

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