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「イケてる店員」と「イケてない客」

飲食店に行くと、たまに
「自分、これが初バイトです」
という感じの、若い人を見かける。

誰がなんと言おうと、
私はこの、
「自分、初バイトです」
という感じの
若者が大好きだ。

私も若い頃は、
バイトをたくさんした。
家が貧乏すぎて、
家からの仕送りなんて
想像すらしていなかった(笑)
だから、高校生の頃から
必死にバイトをしていた。

少し不安そうなあの眼には、
初バイトの不安と共に、
”生活への不安”も混じっている。

しかし、
なによりあの眼には、
大人は持ち合わせていない
”純粋さ”が宿っているのだ。

だから、
そんな若者に
どんな失敗があろうとも、
全て暖かく見守る。
それは私の
信条と言っても大袈裟ではない。

「失敗はいくらしても良い
 その代わり、
 今のその純粋さだけは
 忘れないで欲しい」

そんな思いで、私は
「自分、初バイトです」さん
見つめる。
私にとって、
「自分、初バイトです」さんは、
とっても「イケてる店員」なのだ。

そんなある日のこと・・・

私は、とある飲食店に入った。
風邪気味であることは伏して、
先に来ていた友人たちに
「ごめんごめん、遅れて」
と言いながら、席についた。

私が席に着くのとほぼ同時に、
「自分、初バイトです」さん
おしぼりを持ってやってきた。

心の中で、
「おー、がんばれ(^^)」
と思いつつ、
風邪気味だったこともあり、
私は、
「ウーロン茶、氷抜きで」
と頼んだ。

そのときだった。

「自分、初バイトです」さんは、
目を丸くして
私に聞き返してきた

「ウーロン茶、氷のみですか?」

・・・
コンマ何秒の沈黙の後、
「あ、いや、ウーロン茶、氷抜き、です」
私は少しハッキリめに答えた。

「あっ!」
という表情と共に
「申し訳ありません!
 ウーロン茶、氷抜きですね!」
と応え、そそくさと厨房に下がる
「自分、初バイトです」さん。

私は、純粋な若者の背中を眺めながら、
ふと我に返った、、、

なにやってんだっ!!!

そこは、
「うんそうそう、
 『ウーロン茶、氷のみ』
 って、出るの氷だけやーん!」

って、ノッてあげるべきだろ。。。

何年間、
「自分、初バイトです」さん
を暖かく見守ってきたんだよ…

全く暖かくないじゃないか、、、

そんなことを思っても、
もうタイミングは逃してる…

背筋を伸ばした
「自分、初バイトです」さんが、
氷の入っていないウーロン茶を
丁寧に私の目の前に
運んでくれるではないか…

「さっきはごめんね、
 ノリツッコミできなくて」
なんて言えるかっ!

くそぅ!悔しい!
「イケてる店員」さんを前にして、
自分は全く「イケてない客」じゃないか…

おそらく孫悟空は、
こういう悔しさと共に、
超サイヤ人になったんだろう(←違う)

私は、心に決めた。
もう二度と、
同じ過ちは繰り返さない。

今度また、
「自分、初バイトです」さん
「ウーロン茶、氷のみですか?」
と聞いてきたら、
「うん、そうそう、
 ウーロン茶、氷のみ
 って、氷だけ出てくるやないかーい!」
と、優しくノリツッコミをしよう
今度こそ、
「イケてる客」になろう

・・・

・・・

ところで、このノリツッコミ、
「自分、初バイトです」さんは、
笑ってくれるのだろうか?

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