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虹を掬う

 あなたがどんな短歌を作っているのか、聞けなかった。不可侵の領域に足を踏み入れてしまう可能性を恐れた。痛みや悲しみを踏み抜くことが怖かった。

 だけど私は、あなたが見ている世界を知りたかった。5・7・5・7・7という秩序の中で、あなたは言葉によって、いかにして世界を切り取るのかを知りたかった。でもきっと、あなたの世界の切り取り方に共感できてしまったならば、あなたのことをもっと好きになっていた。やっぱり知らなくてよかった。あなたが見ている世界、あなたの気持ち、あなたの内側を覗くことに臆病な私でよかった。大胆さは羞恥を伴い、臆病さは後悔を伴う。この選択を後悔していないのならば、こんなところでタラレバなんてしない。取り返しのつかぬ羞恥心と、取り返しのつかぬ後悔は究極の選択である。二択の違う方を選んでしまっただけだ。あの日から私は、タイムマシンを欲し、青く丸いロボットの相棒になることを欲する。便利は不自由だからいけ好かないが、こんな時は都合よく文明の利器に頼りたくなってしまう。“選ばれなかった”事実に、もう少し気付かぬ振りをさせて。虚しくて、心に穴が空いてしまう。

 真夏に雪が降っても、きっとあなたは私を選ばない。私の魅力に気付けるあなたではないし、あなたに見初められる私じゃない。それだけのこと。叶わぬ恋慕の火が消えないだけのこと。そしてその灯りに、心照らされる瞬間が幾度もあること。いつもはひどくうるさく感じるBGMは聞こえず、あなたの哀愁漂う声だけが私の鼓膜を響かせていた。耳にべったりと残り消えないあなたの声は、何度も私を満たし傷付ける。
アイロニカルな言葉を綴りながら、私は何度でもあなたを好きだと思う。二度とお目にかかれませんが、きっとあなたはお元気でしょう。私のことを拒みも受け入れもしないあなたを、思い出さない日はありません。宙ぶらりんの日々を過ごすのは、苦しいけれども自由です。いつか、思想と世界が詰まったあなたの”ことば“にお会いできれば感無量です。

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