コロナ後遺症:味覚と嗅覚の障害

PCR検査を受けた当日は味も匂いもわかったから、自分はコロナウイルスに感染しているとは思わなかった。翌日に陽性判定が出た。味と匂いの感じ方がおかしいと思ったのはその日からだった。ミカンを食べた時に味がよくわからなくなっていた。皮を剥いた指からミカンの匂いがしなかった。ただその時はまだ日本酒の匂いやスープに入れた卵の味はわかったから、明日になれば大丈夫だろうと思っていた。結局その日のうちに何もわからなくなってしまった。こういう感じで徐々に症状が出てくるが、おかしなことが起きていることははっきりとわかった。

味覚と嗅覚が失くなってから二週間となった。ネットで同じような後遺症が出た人の話を読むと、治るまでの期間は人によって長かったり短かったりするようだ。

味も匂いもしない状態が続くと気持ちが落ち込む。正直なところ、私はホテルで少しいじけた気持ちになっていた。何を食べても同じように味がない。食欲はあるので、食べないのもそれはそれで苦しい。しかし食欲を落ち着かせるためだけの食事というのは言葉通り味気ないものだ。そして気持ちが落ち込むだけでなく、食べることに意識が向かなくなっていく。そうなるとお腹が空くと手元にあるものを手っ取り早く何でも口に入れてしまう。「どうせ味がわからない」という思いが大きくなってしまうと別段食べたくないものでも食べてしまう。同じものばかり食べ続けたり、味に飽きることがないのでむやみな量を食べてしまう。平たく言うと食事がとても雑になる。それは心身ともに良くないと思う。

ホテルから出た後日、夕食をどうするか迷っていた。自宅から少し離れたところにあるコンビニに行った。食品が並べられている棚を見た時に食べたいものがあった。でも「どうせ味がわからないんだからもっと安くて、ひどく脂っこいものでなければそっちのほうが良いんじゃないのか?何だかお金もったいなくない?」と迷い始めてしまった。狭い店舗だから突っ立っているとみんなの邪魔になる。なので店内をウロウロしながらずっと悩み続けることになった。あまり長時間悩んでいても身体に障りそうだ。思い切って私は食べたいものを選んで帰った。

帰宅後、そうやって選んだものを食べてみると、不思議なことに美味しいと思えた。もちろん味覚と嗅覚が戻ったわけではない。けれどもこれまでの「雑な食事」とは明らかに違った。食べたいものを食べたい時に食べること。ただの動物的な行為としての食事と人間が楽しむ食事にはその差がある。そんなことを思った。

それから私は食事を、コロナウイルスにかかる前と同じように食べたいもの、飲みたいものを欲しいと思った時に摂るようにしている。味がないことにいじけて、卑屈な気持ちで食事をするのはやめた。私は料理も少しは作るから、そのときもきちんと味見をすることにしている。作るということを楽しむことでもあり、自分の食べたいものを食べるということでもある。そうすると食事の楽しさが随分と戻ってくる。そういうやり方で、私はコロナウイルスに負けないようにしているつもりだ。

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