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neri 梅雨のコース、追体験

こんにちは、neriの田中庭園です。先月ついに、neriを開催することができました...!実際に料理を召し上がっていただき、直接感想をきけることのうれしさでいっぱいの二日間でした。どの方のことも強く印象に残っています。ご来店くださった皆様、本当にありがとうございました。

コースについて

今回のコースは“Perception Cruise”(知覚のクルーズ)と題し、梅雨の季節のさまざまな知覚を味で表現することを目指しました。
料理を考える元となった情景、写真と簡単な説明、Harukaによる解説を添えて、紹介します。

梅雨明けの陽射しが眩しい日々ではありますが、ぜひ、水の季節の記憶を思い出しながら読んでみてくださいね。

neri wave2へ、ようこそ。

2020.7.4-5 neri wave 2
“Perception Cruise” (知覚のクルーズ)

雨が長く降り続き、湿度が上がりきると、まるで街ごと水の中に沈められたかのような感覚になる。音は篭り、光は淡く反射し、土とアスファルトのにおいは癒着する。その頃にはもう、備えていた呼吸器官が肺だったのかエラだったのかさえ曖昧になってくる。これ以上含みきれない湿度は薄い膜となって、普段の知覚を覆っていく。春と夏のあわいで、気まぐれに出現するこの特別な時間の感触を、次々にクルーズしていこう。水中を進むタクシーが、夏の入り口を見つけるまで。

霞が肺に充満し、面影は溶け消えてしまいそうになる

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アリウム、ルリタマアザミ、スモークツリー、キキョウラン

雨つゆに濡れた葉 空気に溶けて吸い込めそうなほどの透明感

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モロヘイヤ 、トマト、きゅうり、ピーマン、そうめんかぼちゃ、ゴーヤー

- 緑色のガスパチョをつくり、少しだけ冷やす。
- ゆでてほぐしたそうめんかぼちゃと、塩をあてたゴーヤの薄切りをあしらう。

解説
モロヘイヤのとろみを生かしたスープは、きゅうりの青さ、トマトの酸味、ピーマンの苦味を包み込み、ゆっくりと体に染み込んでくる。半透明の水面を繰り返し掬っているとゴーヤーの光を捉える瞬間が訪れる。塩気によって引き出された瓜の鮮やかな苦味が、スープ全体のコントラストを増す。

冷菜

プールの水面へ打ち付ける雨 ふたつの水がであうところ

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メロン、烏賊、カッテージチーズ、馬告、バジル、ココナッツミルク

- メロンの種の周りを漉しとり、やわらかめのゼリーをつくる。
- 烏賊は馬告でマリネしてからさっと湯通しする。小さく切ったメロン、カッテージチーズと共にゼリーの上にのせる。バジルの香りを移したオイルと、ココナッツミルクを垂らす。

ペアリング

アルコール
ジン、馬告、パイナップル、トニックウォーター

- 馬告を漬け込んだジンとパイナップルジュースを合わせ、トニックで割る。

ノンアルコール
トマト、ミント、レモングラス

- トマトの出汁をとっておく。フレッシュミントとレモングラスの香りをうつし、アガベシロップでほんの少しだけ甘みをつける。

解説
すべての食材を一度に食べることで、新しいおいしさ、味覚の拡張を体験できる一皿。メロンと烏賊を、味と食感の両面において異化することで、これを実現した。まずメロンは、気怠い甘さととろける食感に到達する前に切り出し、青さを残す。そこにココナッツミルクとバジルオイルを合わせ、透明感のある軽やかさを得る。一方、加熱を最小限としながら、ふっくらと炊いた烏賊は、レモングラスと山椒に似た馬告の香りによって、海から山へと生息地を移す。これらすべてのパーツが合わさると、ルーツが見当たらない味と曖昧な食感によって浮遊感を覚える。
ペアリングについては、モクテルがその透き通る味によって浮遊感を増長するのに対し、華やかなパイナップルで彩度を上げたジントニックは、全体に輪郭線を与える。このペアリングの違いは、プールの底から水のフィルターを通して捉えた太陽の光と、直接肌に照りつけるプールサイドの光となって現れる。

温菜

雨後ぬかるんだ地面 水の中で土の分子が泳いでいるような様子

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とうもろこし、玄米、鶏レバー、味噌、カカオニブ

- とうもろこしの芯と薄皮で出汁をとっておく。玄米ととうもろこしの実をあわせ、固めにリゾットを炊く。
- 鶏レバーは味噌をきかせてペーストにし、ホイップした生クリームと合わせてリゾットの上にふんわりと載せる。カカオニブを散らす。

ペアリング

アルコール
リムー・ブラン 2017 - シャトー・ド・ゴール

ノンアルコール
ジュ・ド・レザン・ガゼイフィエ・ブラン2018 - ドメーヌ・エリザベス、
オリーブ、ローズマリー

- グリーンオリーブにフレッシュローズマリーを挿し、グラスに入れる。その上からジュースを静かに注ぎいれる。

解説
大地が雨水を吸い込むように、温かいリゾットに重ねたレバークリームが、だんだんと溶け出し、玄米へと浸み込んでいく。その上に散りばめられたカカオニブの酸味と芯のある食感が、とうもろこしの優しい甘みと、玄米の粒立った食感と呼応して、おいしい土を食しているかのように錯覚させる。
ペアリングは、ワイン・モクテルともに葡萄を主原料としているが、どちらも花梨のアロマを持ち、酸味のきいた切れのあるフルーティーさで、濡れた大地に乾いた風を吹かせてくれる。

梅雨のおわり 葉や花の枯れ散って吹き溜まった様子

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豚、紫キャベツ、赤玉ねぎ、茄子、ボッタルガ

- 豚ロースは塊のまましっとりと焼いておく。紫キャベツは葉を切り分けてオイルを塗り、高温のオーブンで端がカリカリになるまで温める。
- 茄子と赤玉ねぎは赤ワインビネガーで甘酸っぱく炒める。キャベツとあわせて肉に添え、すべての上からボッタルガの粉末を散らす。

ペアリング

アルコール
レザン・エ・ランジュ オマージュ ア・ロベール 2018 - ジル・アゾーニ

ノンアルコール
梅、エスプレッソ、トニックウォーター、スモークパプリカ

- 梅ジャムとエスプレッソを合わせてシャーベットを作っておく。
- スモークパプリカを混ぜた塩でグラスの口に雪を作り、シャーベットをトニックで割る。

解説
梅雨の最後の大雨が、特大の雨粒で窓を激しく打つように、すべての要素がはっきりと主張し合っている。塩をきかせ、クリスピーかつしっとりと仕上げたローストに、炭化させ苦味を持たせたキャベツと、ビネガーで酸味を立てた茄子・玉ねぎを添え、ボッタルガで海の香りをまとわせる。
ペアリングには、痺れるほどの酸味とナチュールらしい含みのある味が饒舌なワインと、燻製香と塩気でダークさを強調したエスプレッソトニックを用意した。セオリーを外し、あえて個性的な組み合わせとしている。

冷菓

帰宅 洗いたてのタオルで顔を拭う

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生姜フローズンヨーグルト、エルダーフラワー、レモン、タイム

- エルダーフラワーとレモンの皮を混ぜ込んだメレンゲを平たく焼き、割っておく。タイムは砂糖漬けにする。
- 生姜味のフローズンヨーグルトを皿に盛り、メレンゲとタイムをあしらう。

解説
爽やかなフローズンヨーグルトと、サクサクのメレンゲの対比を楽しみながら、時折タイムを手に取る。香りを捉え、ついばむようにしてその葉を味わうと、生姜とタイムのスパイシーさに熱を感じる。実際に、食べ終わる頃には、生姜の効用でからだがぽかぽかと温まってくる。

ジャスミンマンダリン

コースについて(ふたたび)

neri wave 2のコースは以上です。梅雨のあいだそこかしこで見かける(けれどこの季節の気怠さのうちに見過ごしてしまう)さまざまな瞬間を料理に落とし込むべく、素材やその食感、香りを探りながら組み立てました。実際のレストランでは、お客様それぞれが記憶を香りごと料理に重ねていただけるのがとても嬉しく、そして不思議な体験となりました。

Twitterで「neripopup」と検索すると、お客様がさまざまに感想を投稿してくださっているのをご覧いただけます。また、編集者の江六前さんが、今回のレポートをnoteで取り上げてくださいました。

https://note.com/erokumae/n/n9ba6221f7fdb

あわせて読んでいただくと、今回の料理がより立体的に感じられるかもしれません。

それでは、また次回のneriでお会いできるのを楽しみにしています!

text/ 田中庭園、Haruka photo/ 反田岳

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