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麦の海 揺られた先に 漁港あり

 えちぜん鉄道の三国芦原線は広大な農地が広がる福井平野を東西に切り裂くように走っている。北に向かう車両の右側には青々と茂った麦畑が広がり、左側は土起しが済み水張りを始めた田圃が広がっていた。麦と米との二毛作は知っていたが、麦の穂が未だ青い内に隣の田圃で稲作を始める地域があるとは知らなかった。

 4月の後半とはいえ遠くに見える山には雪が残っており、九頭竜川から田圃に引かれる水は田植えをするには冷た過ぎるのではないか。麦が実り、刈り取りをした後に田植えをするのは2ヶ月後の6月末くらいになるのではなかろうか。そうだとすると、米が実る時期も数日後には田植えが始まるだろう田圃よりも2ヶ月遅くなる。刈り入れ時が2ヶ月ズレることが、天候不順に対する備えへになるのだろうか。はたまた田植え、稲刈りの時期を2回に分けることによって、コンバイン等の高価な農機具の購入数を減らすことが狙いなのだろうか。車窓を流れる不思議な光景を眺めて、色々な考えが浮かんできた。

 えちぜん鉄道の終着駅のある三国港は、江戸時代には北前船の寄港地として栄え、現在では越前蟹や甘海老等が水揚げされる漁港として栄えている。三国港に着いたのは昼過ぎだったため既に魚市場は閉じられていたが、魚市場の前には海産物を売るお土産屋や水揚げされたばかりの魚を食べさせる料理屋が並んでいた。また、魚市場近くの岸壁には、漁を終えた底引網漁船が10艘近く係留されていた。

 ゴトゴトと進む1両編成の電車で農村風景を眺めつつ稲作について考え、着いた先の港町では日本海での底引網漁に思いを馳せた。そして夕方、同じ電車で福井に帰り着き、街中の居酒屋で福井の米で造った日本酒と三国漁港に揚がった魚を堪能した。えちぜん鉄道は片道1時間の距離を30分に1本しか走っていないローカル線ではあるが、地方都市福井の豊かさを支える大切な存在に違いない。

                               (2022.04.29)

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