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Wizardryのルールはどれ?

以前Wizardryの怪物のデータがD&Dと全く同じだったという話をしたと思う。D&DのようなTRPGがコンピューター用のゲームにほとんどそのまま適用できるというのはちょっと驚きだった。コンピュータゲームは、TRPGと違いオーバーヘッドをコンピュータが処理するため、進みが圧倒的に早い。どうしてもキャラクターが簡単に強くなりがちだ。コンピュータのRPGは、ユーザーをいかに強くさせないか、強くさせすぎてゲームのシステムを崩壊させないようにするかとの戦いだと思う。プレイヤーと開発者との戦いと言ってもいい。
強くさせない、させすぎないやり方はいろいろあるが、基本的には、強さに上限を設けることが基本で、これにその上限に到達するまでに時間をかけさせることと、その上限をハードキャップとした場合、それに至るまでにソフトキャップを設けていかにも永遠に強くできるように見せかけることだ。
みんな大好き私も大好きなEverquestを例にとれば、PoP時代で言えばレベルの上限は65だ。これに至るまでかなり経験値が必要で、さらにHellとかいう経験値必要量が大幅に増えるレベルがあったりもする。レベル65は上限ではなく、AAという要素で65になったあとでもある程度自分を強化することができる。AAをすべて取得することでようやくハードキャップに到達するというものだ。実際はさらに装備品による強化があるため、真の上限というのはすごい高みに存在する。

Wizardryは初期のころの電子ゲームであるため、上記のようなことはあまり考えていないと思う。とはいいつつ、レベルは無制限にあがるものの、攻撃回数が上がる戦士系のクラス以外は、あるレベルからHPが上がるだけで強化量がマイルドになる。このような作りは、D&Dのルールを単純にコピーしただけで実現できるものなのだろうか。そもそもWizardryが参照したD&Dのルールはなんであるのか?WizardryはOublietteの精神的な後継(というか正確には嫡子ではなく、庶子であるが)だが、元祖のOublietteはD&Dの何のルールを参照しているのか、気になってきたので調査することにした。
ひとつだけ、私はD&Dが登場したあとに生まれたので当時の実情はまったく詳しくない。Wizardry自体は小学生5だか6年生のときにFM-7で遊んだのが最初だ。そのため、今日書く中身はほとんどwebから手に入れた情報である。信憑性という意味では怪しいと思う。話半分くらいでみてほしい。

まず、D&Dはすごくたくさんのエディションがあり、それぞれルールが違う。webからの情報によると、D&Dの最初のバージョンは1974に発売されたOD&Dあるいは白箱、0Eと呼ばれるもので、その後1977年に最初のAD&D、1Eと呼ばれるものと、AD&Dを少し簡単にして遊びやすくした、B/X版(のちのBECMI版)がリリースされる。BECMIとは、Basic-Expert-Companion-Master-Immortalの略で、我々のようなおっさんに思い入れがあるのはこのBECMI版になる。そのあとは、AD&D第ニ版(2E)、三版(3E)、3.5版、4版、5版と続く。ちなみに、D&Dの前身にChainmailというゲームがあって、もしかしたら、と思ったので一応買ってみた。

買えるのはD&D発売後(1979)の第三版

ChainmailはWarhammerみたいなウォーゲームで、D&Dとは全然違っていた。一応中にファンタジー版のサプリメントがあり、これが原型かと思ったが、「ファンタジーに特化したTSR出版のD&Dというゲームがあります。巻末に詳細があるので是非購入を!」的な文章がルール説明の中身に書いてあった。

D&Dに話をもどそう。最初のエディション(0E)は1974年に発売された。D&Dの全製品の版権は現在WotCがもっているようで、50年前のゲームでもちゃんとWotCのロゴマークがついていた。0Eは駒の動かし方に関してはChainmailを参照してくれと堂々と書いてあった。当時D&Dを買った人は当然Chainmailも持っているのだろうか、いややはりD&DはChainmailの拡張ルールだと思ったほうがいいのかもしれない。ルールはChainmailをベースにしておりウォーゲームの要素は多分に残るが、それ以外の部分に関しては概ねBECMIと1Eなどの片鱗が見えた。
種族は、人間、ドワーフ、エルフ、ハーフリング。この時点で版権に気を使っている気がしないが、ホビットではなかった。版権ついででいうと、0Eの基本ルールだけしか読んでいないが、鈴木土下座ェ門もいなかった。モンスターは、JRRトールキンとギリシャ神話からもってきている。

このスライムの充実っぷり。ドルアーガの塔

職業は戦士(Fighting-Men)、魔法使い(Magic-Users)と僧侶(Clerics)のみ。呪文は魔法使いはレベル6まで。僧侶はレベル5までだった。僧侶は刃物はもてないというお約束の設定があるものの魔法戦士的な扱いになっていた。たしかにD&Dの僧侶は結構殴れる感じで扱われている。が、実際はそんなでもない、というイメージだった。0Eは戦闘ルールがChainmail準拠だと、そんなに悪くない感じだった。種族に関しては、人間以外の種族には特別なボーナスがあるかわりに、職業の選択制限があり、しかもレベル制限がある。このレベル制限はクラスと種族が一緒になっているBECMI版のD&Dに多少引き継がれている。

ここでいうLordやWizardは称号であり職業ではない

人間にはレベル制限がなかった。しかし、レベルは上がり続けてもどんどん強くなれるわけではなさそうだった。

D20ルールの原型となる部分はOD&Dでは代替ルール的に書かれているのが興味深い。ただその後こちらがメインになることを考えると実際に遊ばれていたのはこちらだったのではないだろうか。上記はTOHAC0に相当する表だが、レベル16以降(クラスによる)はこれ以上改善しないように見える。セービングロールも同様だった。そのため、レベルは無制限に上げられても、せいぜいHPが上がるくらいで無制限に強くなるわけではないようだ。

ほかにもいろいろおもしろいことが書いてあったが、本題から離れていっているのでこのくらいにしようと思う。わかったことは0EはOublietteの元にはなっておらず、その流れでWizardryの原型にもなっていないように見えるというところだ。Oublietteのリリースは1978年から、Wizardryの初出は1980年らしいので、1977年リリースのAD&D(1E)とその簡易版であるB/X版(のちのBECMI版)のいずれかになる。BECMIは種族と職業が分かれていないので、ほぼ確実にAD&Dの第一版を参考にしたことになると思う。ちなみに第ニ版は1989年リリースであるため、時期があわない。あるいはOD&Dの発売である1974年から1977年までの間にいくつかリリースされているサプリメントとの組み合わせかもしれない。ざっと見てみたら、サプリメントではDruid職が追加されたり呪文が拡張されたりとたしかに1Eに近づいている。

この辺から情報があいまいなのだが、Wizardry自体はOublietteそのものからの派生というわけではないようだ。Oublietteが動作する同じPLATOというシステムの上で、D&Dのシステムを移植したdndなるゲームがあった。dndはWhisenwoodのダンジョンの奥深くに隠されたオーブと聖杯をとりかえすというゲームだ。ちなみにWhisenwoodは二人の作者であるWhisenhuntとWoodをつなげた名前だ。WerdnaといいTreborといい、この手の名前付けがこのころ流行りだったのかもしれない。

wikipediaからもってきたスクリーンショット

ゲームは疑似3Dダンジョンではなく、見下ろし型であるようだ。ゲームとしては街があり、そこで準備を行い、ダンジョンにもぐり、ボスを倒してオーブを取り戻すまで続けるという基本的な組み立てはあきらかにWizardryが真似をしている(上のポーションの絵なんかあきらかにWizardryはパクっていると思う)。Oublietteには逆にオーブや魔除けを取り戻すといった明確な目標がなかった。現代のMMORPGのように目標はユーザーが決めるものであり、ゲームは本物の世界と同じくあくまで環境にすぎない。dndの最初のバージョンは1975年にリリースされており、あきらかにこのゲームは0Eをベースにしたものだと思われる。ただ、画面をみるとステータスがD&Dとは多少違っていたりHPがすさまじい量になっていたりするため、dndという名前でありながらかなり改変が加えられているようだ。
dndの作者の一人のコメントによれば、Wizardryの作者であるRobert Woodheadは、dndのソースコードを手に入れ、アイテムやモンスターの名称を変更した「Sorcery」なる派生を作ったが、オリジナリティのないコピーということもあり、結局PLATOシステムの管理人によって削除されたとのことだった。PLATOはコンピュータが非常に高価で巨大だったころのシステムであり、一台のコンピュータに複数の人数が接続するようなスタイルだった。ひとり一台のコンピュータをもつという、パーソナルコンピュータがでるかでないかといったころの話であり、当然著作権という概念も希薄であった。

Wizardryは一部の人間しか遊べない大規模システムではなく、Apple IIのような安価なシステムで、個人が気軽に同様のゲーム体験ができるものを目指して作ったというところが偉業なのだろうと思う。ルールはその当時の最新であるD&Dの第一版、ゲームシステムはOublietteとdndの両方から良いところをとり、複雑なところは排除(例えばOublietteは後衛と前衛が入れ替わるバックアタックがあった)し、なるべく万人が遊びやすいようにしたのだと思われる。ただ、あたかもオリジナリティのあるようなマーケティングを行い、元の作品の制作者の怒りをかっているところは原作者の落ち度だと感じる。著作権の希薄な時代だからしょうがないと言うかもしれないが、どんな時代でも二次創作は一次創作者に対するリスペクトは必要だと思う。

リファレンス

Oublietteレビュー。このblogは古いRPGのゲームプレイとレビューを行っていてとても見応えがある

「コンピュータゲームの歴史」という記事に対する反論記事。dndの作者の一人のコメントが読める

各種ゲームのルールブックのpdfが買える。ここのサイトを眺めているだけでワクワクできる

dndのwikipedia

同じくcrpg addictの「最初期のRPG」の記事。やはり電子版のRPGはD&D 0eリリース後にはじまるようだ。

Oubliette原作者によるWizardryのオリジナリティに関して。dndの原作者と同じようなイメージをもっているようだ。

4gamerのRobert Woodheadに対するインタビュー記事。インタビュアーはすごくよく勉強している。すばらしいと思う。一連の流れを見てからこの記事のWizardryの源流のくだりを読むとかなり面白い。


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