世利人

自作の小説等を書いています。 3~5分で読めるので、暇でしたら見てみてください。 素人…

世利人

自作の小説等を書いています。 3~5分で読めるので、暇でしたら見てみてください。 素人ですが、100小説とりあえず書いてみたいと思います。(現在:30小説)

最近の記事

そう遠くない未来の話(小説:30)

「ねぇねぇ、タツロウおじいちゃん」と孫のユイがこちらをまっすぐ見つめて話かけてくる。 孫の視線を一心に受け止め「どうしたんだい?」となるべく優しく言った。 「学校の宿題でおじいちゃんの話を聞いてこようってのがあってね、それでいくつか聞きたいことがあるの!」 「おぉ、そうかなんでも聞いてくれ」と明るく答えたつもりだったが、学校の宿題という義務的なものを通して喋るのは少し寂しかった。 久しぶりなのだからもっと孫の話を聞きたいと思うものも、自分が同じ立場の頃はそんなことして

    • 一人暮らしにサンタ(小説:29)

      12月20日、新しいイヤホンを買いに家電量販店へ向かう。大体の目星は付けているが、できることなら実際に触ってみたいという軽い気持ちで大型の家電量販店へ来た僕だったが、少し後悔することになる。 クリスマスが近いこともあり、店は人でごった返している。店内にはSanta Claus Is Coming to Townが流れていて、完全にクリスマスムードだ。 「何がサンタが街にやってくるだ」と心の中で毒づきながら、店内を奥へと進む。イヤホンコーナーも例外ではなく人が多かった。

      • どこが好きか聞かなくていい(小説:28)

        クリスマス期間のイルミネーションに向けて、街路樹に電飾を施している業者を横目に、ミカとユキは昼の並木通りを歩いている。 この時期になるとどうしても話題に上がるのが恋人の話だ。この二人も例外ではない。 「この間彼氏が料理を振舞ってくれたの。パスタとアヒージョ、それに牛肉の赤ワイン煮込みだっけな。スパークリングも彼が選んできてくれて、とりあえず全部すっごく美味しかったのよ」 ミカがそういうとユキは目を細めて「え?何それ惚気?」と冗談めかしながら言った。「待って、ちゃんと続き

        • 同じ世界(小説:27)

          ある日の土曜日、祖父が亡くなったと連絡を受けた。 容態が悪化したと言われたら、すぐにでも用意して家を飛び出すだろうが、亡くなったと報告を受けた場合はどうすればいいのかわからなかった。 亡くなったことを知らされた状態では、テキパキ動けるような気分でもないし、急いだところで生きている祖父には会えないのだから、やるせない。 妻のミキにも祖父が亡くなったことを話し、2人で少し急ぎ気味に荷造りして家を出た。 電車は少し混みあっていたが、運よく2席分空いていて座ることができた。電

        そう遠くない未来の話(小説:30)

          言語(小説:26)

          土曜日、彼氏のトシキと動物園を訪れていた。大きな動物園ではないが、それにしても人はまばらで、明らかに人より動物の数の方が多かった。 こうなってくると、人間が動物を見に来ているのではなく、動物が人間を観察しているかのような感覚に陥ってしまう。 静かな動物園を二人で歩く。動物の檻の前で立ち止まることなく、横目で眺めながら歩みを進める。 動物園の奥、サルの檻の前でその日初めて立ち止まる。 「確かここだったよね」トシキが檻を見つめたまま聞いてくる。 檻の中にはサバンナモンキー

          言語(小説:26)

          青い鳥(小説:25)

          公園のベンチに腰掛けお気に入りの本を読む。こぢんまりとしたその公園は遊具が2つ3つあるだけで、子供たちが進んで遊びに来るような公園ではない。 だからなのかあちらこちらに草が生い茂げ、鳥の鳴き声もよく聞こえる。この静かな時間が流れる公園が好きだ。 本を読むのを辞め、一度公園を見渡す。足元を見るとそこには、自分の体の何倍もの大きさの蝶々を必死に運ぶ蟻がいた。 サイズの割にはそこまで重くはないのだろうが、如何せん、運びにくそうだ。それに、巣まで持ち帰れたとしても巣の中には入れ

          青い鳥(小説:25)

          治安(ショートショート)

          ダイチは初めての街に来ていた。折角であるから、この辺りを散策してみたいが、大きな荷物が邪魔になってしまう。 仕方なく、商業施設のフードコートで約束の時間まで待機することにする。 それにしても、この街は人が多い、地元であればたとえ連休であっても、こんなに人でごった返すことはない。 人の多さに驚きつつも、全く違う土地に来たことを実感せざるを得ないこの状況に気分は上がっていた。 待ち合わせ相手から連絡が来る。少し遅れるとのことだった。であれば何か軽くお腹に入れたい、どんな店

          治安(ショートショート)

          タイムマシン(小説:24)

          –ある場所– また人を殺してしまった。 何度目だ。いい加減この繰り返しから逃れたいところだが、どうしたらいいのかわからない。きっと最適解があるはずなのに。 椅子に座り頭を抱えていると同僚が通りがかった。 「あぁ、またやっちまったのかお前。で、どうするのまた戻るのか?」 「いや、正直もうどうしたらいいのかわからない」と僕は弱々しく言い、大きなため息をついて、さらに項垂れる。 しばらく沈黙が流れた後、同僚は「わかった、ついてこい」と言い歩き出した。僕は重い腰を上げ、ト

          タイムマシン(小説:24)

          身勝手(小説:23)

          親とは身勝手なものである。別に僕ら子供は好きで生まれてきた訳ではない。頼んでもいない。 よく親に感謝しなさいという風潮があるが、それは間違っていると思う。親のエゴで生まれてきたのだから、できる限り子供の面倒をみることが責任であり、親が子供に産まれてきてくれてありがとうと感謝するべきだ。 この言葉だけ聞くと、「なんて恩知らずなやつだ、自分勝手な主張を親に押しつけているだけだ」と思うかもしれない。確かに文面通りに意味を取ればそうなる。 でも、僕もこの考えが全く間違っていると

          身勝手(小説:23)

          就職活動(小説:22)

          3月中旬、昼下がりの電車の中。 同じような色、同じような形のスーツを身に着けた若い男女があちこちに。 彼らは少し緊張をはらんだ様子で、電光板を見る。もう少しで目的の駅に到着する。 電車が完全に止まると、ドアが開かれ、一斉に電車を降りる。 駅の改札を抜け、目的のビルを見つけると、脇目も振らずただまっすぐ歩く。 スーツの色も相まって、遠目から見ると蟻が巣に戻るかのように、彼らは大きなビルに次々と吸い込まれていく。 個性を大切にしようとする動きが社会全体に広まりつつある中、

          就職活動(小説:22)

          取り残された男(短編小説21)

          忘れた頃に、またあの夢をみる。うなされて体を起こすと、トモキは右手で左肩をさすりながら壁に掛けてある時計を確認する。 夜中の3時、隣で寝ているシズカとトモシを起こさないように、そっと体を布団から抜き洗面所へ向かう。 なんとか洗面所にたどり着くと、冷たい水を顔に勢いよくかける。しかし、水は上手く顔に当たらない。洗面所が水浸しになる。 昼ご飯を食べ終えた後、窓の近くの椅子に座る。入ってくる日差しが暖かい。そこへトモシが「パパ〜」とニコニコしながら、トモキの方へまだ不安定な足

          取り残された男(短編小説21)

          どれ選ぶ?(小説20)

          初めてポケモンで遊んだ時のことをよく覚えている。 最初に御三家と呼ばれるポケモンを1匹選ぶわけだが、あの生意気なライバルは絶対自分に対して有利なポケモンを選んでくる。 そもそも、あんな感じなのだから「俺が先選ぶぜ!」と言って先に選んでもおかしくない。むしろそっちの方が自然だ。 それに、余ったポケモンから最初のポケモンを選ぶのは、なんだか愛が感じられない。高い志を持った者が、これから一緒に旅していくパートナーを余り物から選ぶという姿勢で良いのか? そしてすぐにポケモン勝

          どれ選ぶ?(小説20)

          早口告葉(小説19)

          西日を左に受けながら、穏やかな海の浜辺を二人で歩く。 「あとどれくらい?」とユウカが聞いてくる。 もう少し歩くことを伝えると、ユウカは飲み物を買ってくると言い出し、海岸沿いの道路にポツンと設置されている自販機に向かって小走りした。 帰ってきたユウカの手にはスポーツドリンクとあたたかいお茶が握られている。お茶を受け取り、お金を渡すがユウカは「当たったからもう一回選べたの」と言い受け取らなかった。 お礼を言い、また二人並んで浜辺を歩く。 「あの灯台を超えたらもう少しで着

          早口告葉(小説19)

          最高評価(小説18)

          僕は初詣があまり好きではない。宗教を信じていない人が年始だけ「今年良い事が有りますように」と神様にすがるのはどうかと思う。 それに、やる事と言えば「寒い中長蛇の列に並んでお金を払う」というまるで生産性のない動作。神様にお金あげるなら、その分だけでも僕のお年玉に足してくれれば良いのに。 それでも、家族みんなで折角初詣に行くのに、僕だけ家に残るのもあまり良いこととも思えず、結局は付いてきている時点で僕も同じかも知れない。 賽銭箱に向かって真っ直ぐ伸びる列の最後尾に並ぶ。どこ

          最高評価(小説18)

          そういうことなのかな(小説17)

          朝、電車に揺られながら街の中心へ向かう。 大人の多くがスマホと睨めっこしていたり、目を瞑っているなか、子供の声が響く。 子供と言っても、そんなに幼くはない。中学生くらいだろうか。 さすがにそのくらいとなると、朝の電車の静寂に合わせて声のボリュームを小さくする配慮を持ち合わせている。 しかし、声をいくら落としても、電車の中が静寂である以上声は多少響く。 耳を澄ますと彼らの会話が聞こえてくる。 「無人島に持っていくとしたら何を持っていく?」 よくある質問だった。「ナ

          そういうことなのかな(小説17)

          待ち合わせ(小説16)

          駅前の広場のベンチに腰掛け、彼女の到着を待つ。 駅の方に視線を向け彼女を探すが、人々が次々と行き交い視界を遮る。車や人の声、足音が絶え間なく流れ続け、スマホの通知音は耳に届かない。 今はもう慣れたが、初めて東京に来た時、この人の多さには驚かされた。 地元では、駅前で待ち合わせしていると結構な頻度で、知り合いを見つけるが、東京ではそんなことないと言い切れるくらいに人が多い。 だからなのか、たとえ待ち合わせてあっても、会うとすごく安心して、何故か感動する。 そして、高め

          待ち合わせ(小説16)