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ホリゾンライツ/脱ぎすぎる人々編

昔話しちゃうと自分が終わった人間なんだなぁって思うし、そう思われるのもつらいけど、話したいんだよね。
忘却の中に置いておくには、手に余る輝ける日々だった。
だった………
過去形………

あー、長くなりそう。だらだら喋るわ。コーヒー淹れようか?アルコールがいい?
きついお酒が好きですねー。ビールだとすぐお腹いっぱいになるからジンとかウォッカベースのをちびちび呑むよ。日本酒が好き。焼酎は呑めない。
いくらでも呑めたのは30までの話。
ワイン一瓶空けただけで二日酔いになって、それから控えてる。
二日酔いなんて他人事だったのに、深酒すると年々身体にくるようになったな。
身体が分別を求めてくるこれが大人になるということ……?

もう自宅が死屍累々の酔っ払いの墓場になることもないし、合宿所でビールかけしてマヨネーズかけして、かけてはいけないあらゆるものをかけた勢いで、海まで行って男は全裸、女はギリ下着で深夜の海水浴した日々……。
バカ。
春夏秋冬だいたいまっぱ。
舞台の上でも舞台降りても隙あらば脱いでいた人たち。
みんながみんなそうではないよ。でもみんな違ってみんなバカだった。
それぞれにバカで、それぞれに踏み外していた。まあモラトリアムだし、かわいいもんだけど。
かわいいもんだって思える遠くへきたから。
今もし、全裸で海水浴してる集団みたら通報するかな、微笑ましいって思うかなぁ……
バカがいるって思うだけだろうな…やっぱ。

18歳から足掛け10年くらい演劇をしてた。
高校も演劇部だったけど、部員が1人だった。北島マヤかよ。その話はまたいつか。
完全に不完全燃焼だった高校演劇から劇団に入って、『やれる』ってことだけで嬉しかった。
わかると思うけど、1人だとお芝居打つの大変なんだよ。
それが20人近くいる劇団に入って、頼もしい先輩達ばっかで。入ったばかりなんて全裸になる集団だなんて思わないじゃん、カッコイイー、美人ー、芝居上手いー、大人ーって、キラッキラッに見えたもんね。
この変人集団に入ったせいで少ない友人をなくしてるんだけど、中はね、変人同士繋がりは異様に強固だったよ。
あと芝居バカ。
学業より仕事より恋人より芝居最優先。
言っておくけどアマチュアだよ。
芝居するために金稼いで、芝居するために単位取って、集まって稽古して、稽古終わったら飲みに行って、店が閉まったら誰かのうちになだれこんでまた飲んで。
18くらいが人生でいちばんアルコールを摂ってた。

あれはね……そうだな、
『芝居の空気』だった。
劇団の人たちといると芝居の空気が吸えた。
板の上だろうと部室だろうと飲み屋でも夜の海も、彼等といると芝居の空気でいっぱいになった。
演劇それ自体に魅了されていたわけじゃない。
それは僕の表現手段の一つに過ぎなくて、でもその時は芝居が一番だった。
演劇って総合芸術じゃん。
色んな要素から成り立ってるから、やりたがりの自分は楽しいことだらけだったよ。
吐く息も吸う息も芝居の空気だったから、血管とか細胞とかから機嫌良くなってる感じ?
よくわかんないって?
生きている感じだよ。
生まれて初めて人間を好きだと思った。
ずっと人間って気持ちと思ってたし、だからすごい潔癖症だった。
でも彼等には触れた。友達の手にすら触れなかったのに。
毎日毎日がこれでもかっていうくらい楽しかった。

演劇なんてダサいことしてるの?って言う人はいた。
演劇ってダサいですか?
ちょっと雰囲気独特かも。
人によってはドン引きする程度に独特かも……。
高校の時は露骨に嗤われたよ。一緒にやってて辞めた部員達すら嗤ってたからね。
関係ねーって思ってたけど、傷つかなくはないよ。自分の好きを否定されて変な羞恥心を植え付けられて。
それが劇団に入ってから怖いもの知らずになった。
誰にどんな目で見られても平気なくらい芝居に入れ込んだし。
だいたい小劇場なんて知らない人の方が多いでしょ?
文化祭の延長かテレビのイメージしかないから偏見になる。
偏見から一歩も出ず、仕事だるいとか学校つまらんとか言ってる人の方がよっぽどつまらなかった。

何かに打ち込んでる人間にはさ、なんかオーラ?あるよね。
劇団の人たち、美形と個性派揃いっちゃそうなんだけど、たまに外で会うと浮いてるというかやはり目立つ。
空気がキリってしてるって言うか、逆に淀みきっているか(笑)
そんな人達と一緒にいてみ。気も大きくなるでしょ?
その劇団は学生が母体で、社会人もいた。
何年も留年してる人もいた。
自分のことでもないのに自慢するってどうよ?みっともない?でも彼等のことが誇らしいから誇らせて。
劇団の先輩にはNHKにレギュラー番組を持っていた個性派俳優がいます。日本に住んでたら名前と顔は一度は見てると思う。
後輩もプロの俳優になり、今も舞台に立っています。すっげー声のいい、男っぷりのいい俳優になりました。
入団直後、壇上で乳首を晒して踊ってた子です。
演劇界の大変な状況が早くよくなって欲しい。また舞台見に行きたいよー。
で、演劇の名門でもなければ養成校とかでもない、ただの地方の小劇団からプロになるということ。
才能があったんだねーと一刀両断するならちょいとお待ち。
彼等と一緒に芝居をした、あそこにあった熱量を思うとそれだけじゃないよって言いたいから。
「才能はあって当たり前の世界。ないと思ったら舞台を降りろ」
って言われたよ。
それってメチャクチャ厳しくない?アマチュアですぜ。
でも多分関係ないんだよね。
人に見せるってことは、そういうことは関係ない。
表現者やってたいなら甘えるなって、これ今でも戒めだよね。時々自分の首絞めて逝きかけるから呪いでもある、けど。

そのプロになった後輩が、
「2時間、人を閉じ込めてるって分かってる!?」
って言った時はハッとさせられたよ。
えー、芝居ってだいたい2時間なんですよ。桟敷の狭い劇場だと通路なんてないから始まったら出られないんですよ。つまり面白かろうとつまらなかろうと2時間お客さんを軟禁してしまう……。
我々は観せるほう、軟禁する方なんだから。
ともすると公演頑張ったねうちら楽しいねって自己満足で終わるとこをさ、先輩含めて釘刺してくれて。
やっぱ彼はすごかったよ。
そういう人達に会えたことが、もう遠くなった今でも、今でも、あの、あのさ……、アルバムを全部捨てるような僕でもさ、捨てられないことなんだよね。



ついでにこれ
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2年前の連載小説です。自分の劇団経験がベースになっています。
読みにくい上に青臭いですが、頑張って書いたので頑張って読んでくれたらうれしいです。


読んでくれてありがとうございます。