手話使いのじじい


私は吃音症を持っている。

普段は普通に話せているのに、ある日突然言語障害レベルの吃音が出てきて、1ヶ月くらいしたら消える。難発(言葉が出ない)、連発(ぼ、ぼくはおおおおにぎりが)などの症状がある。

この間の吃音が始まった日はたまたま楽しみな予定があったので、まずいなーと思ってたら和歌山駅に
「聴き人」なる野生のカウンセラーがいたので声をかけた。(ig:@wakayama.kikibito)

症状の把握とウォーミングアップがてら世間話に付き合ってもらった。

すると、めっちゃちっさくてニコニコした作業服姿のじじいが入ってきた。
なんとそのじじいは手話を繰り出してきた。
聴き人(手話できない健常者)、私(手話できない言語障害者)、じじい(聴覚障害者)の三つ巴になった。

じじいは私の困惑を気にもとめず、嬉しかったことを報告したそうな感じで何回も同じ手話を繰り返してきた。
手でマルを作って、3つ並べるような仕草。
そして、親指でそのマルを連続で押す。

聴き人が先に気づいた。「スロット?」と聞くとじじいは手を叩き、ポケットからお金をチラ見せしてきた。
よく見るとお菓子も持ってる。

じじいはスロットで勝ったことを私たちに伝えてくれたのだった。私たちが読み取るまで根気よくスロットの手話を見せてくれる、その一生懸命さに心を打たれた。
じじいのおかげで、私はスロットの手話を忘れないだろう。
しばらくしてじじいはどこかに消えて行った。

久々にちゃんとした会話をしたな、という満足感があった。

健常者は聴覚も発話能力もあるからってミュニケーションに手を抜きすぎ。
吃音が治っても私はあのじじいみたいにコミュニケーションを諦めない姿勢でいたい。

じじいはそれを教えてくれた妖精だったかもしれない。

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