Battle Sirens -煮詰まった末の音楽についての散文-

 長い文章を書こうとして煮詰まったので軽めのやつを。

 確か中学三年生くらい、"洋楽"という世界を知った頃からずっとビルボード・チャートというものを追いかけてきた。それはいわゆる日本でいうオリコン・チャートのようなもので、その週にどのアーティストのどの曲やアルバムが人気なのかを示す指標のようなものだ。

 良くも悪くもエンターテイメントの中心はアメリカである。更に言えばニューヨークである。だからこそ、ビルボード・チャートというものは自分にとって現在のエンターテイメントを知る地図のような存在だった。

 R&B、ヒップホップ、EDM、カントリー、ファンク、そしてそれらをミックスしたようなポップとしか言いようのない音楽(例えばTaylor Swiftの"1989"のような)が次々と入り乱れていく様子は、常に刺激を求めていた自分にとってはとてもスリリングで、その時々のサウンドに夢中になっていった。だからなのかは分からないけれど、未だに"新しい音楽"に対する抵抗はほとんど無い。

 例えば最近はFrank Oceanがリリースした"Blonde"という作品を毎日聴きまくっている。それだけでnote一本書けそうな語りがいのある作品ではあるのだけど、シンプルに言ってしまえば「やたらめったらナイーブな青年が、やたら良いメロディに乗せて自身の想いや過去を見事に歌い上げている」わけで、そういうタイプの作品は過去に沢山あった。というか往々にして名盤っていうものはそういうものだと思う。和音やビートの使い方を筆頭に、先進性及びクオリティが高いのは前提で、後はそこにどれだけシンパシーでもアパシーでもいいから人の心に入り込む余地を与えるか。

 言ってしまえば毎日腐る程リリースされるEDMのトラック群は、大体70点から80点くらいのクオリティを満たしていると思う。僕は別に専門家では無いので「聴いて楽しければオッケー」だし、BPM128で四つ打ちのビートオンリーで始まる曲がやたらと多くても、それを気にする必要は無い。そしてそういう曲ばっかり聴いていても、ちゃんと楽しい。

 ただ、やっぱり時には90点台、いやいや100点の曲も聴きたいよねという想いがあって、未だに毎週ビルボード・チャートを確認したり、Pitchforkを眺めたりしている。勿論日本の楽曲も。最近ではきのこ帝国の「夏の影」が格別だった。あれは今年のベストトラックに入るよ。というかそもそも、洋楽を聴く行為自体、「邦楽はクソ」じゃなくて「情報量増やそうぜ」的なスタンスでやってきたわけで。

 正直、そういう作業を不器用ながらも10年近く続けてきているから、過去を遡れば簡単に90点台、100点の曲は見つかる。例えば少し恥ずかしいけれどもMy Chemical Romanceの"Welcome to the Black Parade"は個人的にはもう100点満点だ。リリースから10年経った今でも、未だに飽きずに聴いているくらいだ。更に言えば、評論家に聴かせたら瀕死になること必至、中学時代に死ぬほどハマったORANGE RANGEの"musiQ"の収録曲は大体90点台に到達している。

 そう、無理してBeyonceの"Lemonade"をGenius(歌詞解説サイト)とGoogle翻訳を駆使して理解する必要はどこにもない。そもそもJay-ZとBeyonceの関係なんて心の底からどうでもいい。「え?浮気してたの?へー」って感じだ(作品自体は、一聴して良い感じだという事は分かったけれど、これは歌詞を理解しないとダメな作品だろうと感じてしまった)。

 さて僕は現在、アメリカ・ニューヨークに留学に来ている。これでもう4回目の渡米だ。多分僕はラッキーな方なんだと思う。なかなか2年間で4回もニューヨークに行ける学生はいないんじゃないか。一応言っておくけれど、僕はそこそこに貧乏で、全ての渡米において、奨学金であったり向こうの教授のサポートを受けたりしてやっと成立させている。だからこそラッキーだと思う。

 そして、毎回思う事なのだけれど、実は新しい音楽を追いかけるような人々は少数派なのだ。それが例え、エンターテイメントの最先端の地であっても。

 周りの同僚や同世代の友人に質問をする。

「Frank Oceanを知っているかい?」

「Chance the Rapperを知っているかい?」

「Drakeの新作を聴いたかい?」

「Kanye Westの音楽性についてどう思う?」

「僕はTaylor Swiftが好きなんだけど、どうかな?」

「Justin Bieberの"What do you mean?"いいよね?」

「なんでこんなにThe Chainsmokersは人気なんだろう?」

「日本にはPerfumeっていう凄いユニットがいるんだ」

「最近気に入っている音楽があったら教えてほしいな」

 こんな問いかけから、今まで僕が出来なかった話が始まるといいなと思っていたけれど、概ね答えは「最近はあんまり音楽を聴いてないなぁ」という感じで、少しだけ肩を落とす。でも別に彼らは音楽に興味が無いわけではないのだ。ちょっと前の音楽の話はしっかりと盛り上がる。Radioheadの"Kid A"以前やGreen Day、Linkin ParkにEminemといった名前が続々と挙がる。あっという間に時間が過ぎていく。


 でも、これって日本でもそんなに変わらないじゃないか。


 やがて、僕自身も新しい音楽を探す事に疲れてしまうのかもしれない。


 とはいえ今は「そんな考え知らんがな」と切り捨てて、「すっげええええええええええええええ」と興奮していきたい次第です。あと過去の話でも、同僚から「フランスのヒップホップに一時期ハマっていたんだ」って言われてフランスのシーンを発見したりして、これはこれでエキサイティングです。

Battle Sirens / Knife Party & Tom Morello

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