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脳主幹動脈の閉塞に対して、t-PAはskipしたほうが良いか?

Bridging Thrombolysis Achieved Better Outcomes Than Direct Thrombectomy After Large Vessel Occlusion
An Updated Meta-Analysis
Yuting Wang, MD, Xiao Wu, MD, Chengcheng Zhu, PhD, Mahmud Mossa-Basha, MD, Ajay Malhotra, MD

現在(2021年)、欧米のガイドラインでは主幹動脈閉塞患者で、適応となる患者に対しては、機械的血栓除去(MT)前に静脈内血栓溶解療法(IVT)が勧められている。
しかし、MT前の患者にIVTをルーチンに行うことの効果とベネフィットは議論がある。主幹動脈閉塞の閉塞患者はIVTにより11%〜33%で再灌流が成功し、追加の血管内治療が必要でなくなることがあるが、タンデム、長い血栓、完全閉塞、側副血行路が不十分な場合にはIVTの有効性は低下する。またIVTは遠位塞栓や頭蓋内出血の上昇を伴う可能性がある。
Direct MT(d-MT)は有効な治療法であり、IVTの適応外となる患者の転機を改善する。2017年以前に発表されたメタアナリシスでは結果が相反するものとなっていたが、本研究では2017年以降に発表された研究のメタアナリシスを実施し、転機を比較することとした。
(論文発表時点ではDIRECT-MT研究が唯一のRCT)

結果
・90日時点のmRSで定義した機能的自立の評価はBridging thrombolysis(BT群:IVT+MT)群はd-MT群と比較して有意に良い転帰であった。
この傾向はPSでマッチさせたあとも、前方循環のみの研究のサブセットでも同様の傾向であった。
・90日時点の死亡率もd-MT群よりもBT群が良好。
・有症状の出血合併症は有意差を認めなかった。
・TICI2b-3で定義した再開通の成功は、BT群でより高頻度であった。

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質と出版バイアス評価
QUIPSで評価した研究の質は一つを除くすべての研究で少なくとも4項目でバイアスリスクはLowで、全体的に質は高かった。
Funnel plotでも視覚的な非対称はなし。有意な出版バイアスなし。

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結論
過去3年の最新の文献によればBT群がd-MT群と比較して臨床アウトカムが良好で、90日時点での死亡率が低く、再灌流率が高く、短期的な出血合併症のリスク増加もない。
しかし、強い結論を出すにはRCTでのさらなる検証が必要であり、現在、d-MTとBTを比較するSWIFT DIRECT、MR CLEAN-NO IV、RACECATなどの臨床試験が進行中である。



下記のメタアナリシスには2021年1月にJAMAより発表されたRCTであるSKIP 試験、DEVT試験は含まれていない。
Suzuki K, Matsumaru Y, Takeuchi M, et al. Effect of Mechanical Thrombectomy Without vs With Intravenous Thrombolysis on Functional Outcome Among Patients With Acute Ischemic Stroke: The SKIP Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021;325(3):244–253. doi:10.1001/jama.2020.23522

Zi W, Qiu Z, Li F, et al. Effect of Endovascular Treatment Alone vs Intravenous Alteplase Plus Endovascular Treatment on Functional Independence in Patients With Acute Ischemic Stroke: The DEVT Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021;325(3):234–243. doi:10.1001/jama.2020.23523

この2つの臨床試験に関してEditorialから引用
Saver JL, Adeoye O. Intravenous Thrombolysis Before Endovascular Thrombectomy for Acute Ischemic Stroke. JAMA. 2021;325(3):229–231. doi:10.1001/jama.2020.22388
機械的血管内血栓除去術(EVT)の前にIVTを行うことのメリットは、迅速な血栓溶解によりEVTを行わなくて済むこと、血栓溶解が得られなかったとしても、血栓の組成を変化させ、EVTでの除去のしやすさを高める可能性があること、さらにEVT終了時には遠位血管に残留血栓がのこることもあり、血栓溶解剤がこれを溶解する可能性があること。
一方デメリットはEVTの開始を遅らせる可能性があること、血栓を部分的に溶解させることで、血栓が遠位に移動しEVTでアクセスできなくなること、症候性脳出血リスクを高める可能性があること、医療費が増大すること。

DEVT試験は中国で行われた臨床試験で、アルテプラーゼの用量は世界標準の0.9mg/kgで血栓溶解からEVT開始までが40分とやや長い。
一方でSKIP試験は日本で行われた臨床試験でアルテプラーゼは出血の多いアジア人を対象にしているため0.6mg/kgとなっているが、血栓溶解からEVT開始までは8分と短い。

いずれの臨床研究もMCIDで非劣性を証明したものではないが、これはMCIDにすると巨大なサンプルサイズが必要となるためである。

いずれにしても、DIRECT-MT、DEVT、SKIP試験のいずれでもEVT単独がIVT併用と比べておおよそは劣ることはないため、EVT可能な病院へ患者がアクセスした場合にはEVT単独を検討することも妥当であることが示唆される。
またアジア人以外にも一般化可能かどうか検討するためにMR CLEAN-NO IV,SWIFT-DIRECT, DIRECT-SAFEが進行中である。

注意すべき点としては第一に小、中血管閉塞の場合にはEVTは選択肢に入らないため、これらの患者にはIVT投与が必要である。第二に医師がEVTが迅速に施行できると確信できる場合のみEVT前の血栓溶解の投与を控えることができる。またEVT可能な施設まで移送するのに時間がかかる場合には最初の病院でIVTを受けるべき。その他にも慢性頸動脈閉塞などで頭蓋内の血管へアクセスするのに時間がかかるなど頭蓋内血管へのアクセスが確実でない場合にもIVTを開始すべきである。