ノンフィクションのノンをとれ

フィクションを投げる場所

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最近の記事

絶対に本番をしない女

「挿れないですね。絶対。挿れさせないです。えーと半年やって…70人くらい?かな、会ったの。リピーターもいたんで行為の回数自体はもっとですね。 本番は1回もしてないです。 本番しない理由?うーん…。性病と妊娠が怖い。 それだけです。 あと、別に挿れたところでこっちは気持ちよくもないから金銭以外のメリットが何もないですね。 そもそも金以外のメリットとか求めてないんですけどね。 本番、やりたがる人いますよ。こんな地雷ブスにもねえ。男の人って不思議。 でもあたし雰囲気とか言葉に

    • 故人を燃やす

      お通夜にはたくさんの人がいて、次の日の葬式は半分くらいになって、いろいろ経て人が減って、そのあと最後の最後に濾過されて残った親族たちが、斎場からマイクロバスで火葬場へ向かった。私はその中にいた。故人のことを何も知らないのに。 火葬場は山の上にある。人間を焼くのだからそりゃ人里にこんな場所はあってたまるかよなと思う。 「そりゃ」ってなんだろう。『そりゃ人里にあってたまるかよ』この感覚が何かに似ている、気がする、けどわからない。 遠い。異質。デカイ。ずっとそこにあるのに見えない。

      • シンガー

        泣いている理由を問われないから、ライブハウスが好きだ。 生きていると何もかもに理由を求められる。理由というか、説明を。 名前はなんですか。家はどこですか。学歴はどれくらいですか。バイトはなんですか。家族はいますか。好きになるのは男と女のどちらですか。 ずっと苦しかった。でもそのことに気づけなかった。この優しくて汚い場所にきて初めて、おれはずっと苦しかったんだとわかった。 目上の人と話すときはいつも泣きそうになる。部活の先輩も、採用面接官も、笑顔で圧をかけてくる。学校の職員室な

        • 100回目の告白

          「好きです」 と初めて伝えたとき、先輩は「ありがとう」と微笑んだ。それだけだった。 強く好意を寄せれば、人は誰でも、応じてくれるものなのだと思い込んでいた。だから何度も先輩に「告白」をした。 初めて「好きです」と伝えたときから、先輩に告白した回数を数えていた。手帳に書きつけていたから。 それは回数を重ねに重ねてゆき、どうやら40回目あたりから「好きです」に加えて「付き合ってください」「交際をしたいです」「恋人になってください」などとようやく言えるようになる。思えば、最初から

          ありがとうのドラッグ

          幸福の本質は感謝なのだった。 「出てこないですね」 出てくるわけないじゃん。 だって、"ほとんど"全部を捨てたのだから。 朝の8時半、家宅捜査には3人の人間がきた。いかにもなベテランと、こないだの直木賞作家に似ている男と、若手の見習いっぽい雰囲気の女。 家の中のすべてを漁られた。ゲーセンでとったキャラクターのぬいぐるみたちも、綺麗に並べてた稲垣足穂の全集も、まとめてあった積読の文庫本たちも、友達からの手紙も、解散した大好きなバンドのメジャーデビュー時のポスターの裏も、メルカ

          バイシクル

          自転車に乗っていると一瞬で涙が乾いた。私の神様みたいな、あのロックスターも自転車とか乗るのかな。シュッとしたかっこいいやつじゃない、こういうダサいママチャリに。 全26色の色とりどりのボールペンを手に入れたとき、自分では平等に使っていたつもりだったのに『マリーゴールド』という色が真っ先に枯れた。日記帳を見返したらマリーゴールド色ばっかりだった。わかんないけど、わかんなかったけどわたしはこれが好きなんだと思った、だから同じ色の自転車にした。わかんないのは嫌だった。 いちばん好き

          sister

          窓から見えてた地球もずいぶん遠くなった。 あの日決行した。なんの変哲もないあの日だ。あたしたちはロケットに魔改造したキャンピングカーで国道を飛ばした。運転はあたし、助手席はアンタ。昨日の眠剤がまだ抜けきってなくて、ブラックのガムを出す。引っかかるたびに赤信号があたしを急かしてるみたいに感じる。暇を持て余したアンタは苦労して覚えたシェイクスピアのあの劇の長ゼリフをスラスラと暗唱する。あたしはゲラゲラ笑う。そんなもの覚えたって、舞台の上じゃなきゃなんの役にも立たない。それから宇

          ソングライターからシンガーへ

          俺は歌えないから。 表現したいことはたくさんある。歌になりたがってることだって、世の中にあふれてる。だから俺は曲を書くよ。俺なんかにも才能があるとすれば、間違いなく、曲を書く才能だろう でも俺は歌えない。歌えないんだ。シンガーソングライターにはなれない。でも、曲を作ることはできるんだ。だからソングライターにはなれる。言いたいことや伝えたいことや描きたい風景、作曲のタネは枯渇することがない。ただ、俺はソングライター。俺の中にシンガーは不在だ。 シンガーは、メディアだ。この

          ソングライターからシンガーへ

          犬は犬小屋に帰る

          マリナの犬を引き取って1か月が過ぎた。マリナに似て馬鹿な犬。 店にいる女の子はそれぞれの理由で店にいた。わたしは整形の借金を完済したらスッパリこの世界から足を洗うつもりだ。もうすぐゴールが見える。価値観や金銭感覚は一周して元に戻った。いろんなものを失って、2年前とは別人になったこの顔だけが残った。良かったことも、後悔することも、色々あるけどすべて人生経験だと納得して飲み込んでいる。 でもマリナはそうはいかなかった。ハマり込んだホストにハマって、ハマって、ハマり続けた結果そい

          フルニトラゼパム(3)

          グッとドアを押して開けると、そこには、昨日新宿で会った少女がいた。あの日と同じ制服で、あの日と同じアネロの黒いリュックだ。 「本当にきた」壁のタイルにもたれかかっていたミィは、手元のスマホから顔をあげる。 「仮にさぁ……ここでウチがグループで待ち構えてたらどうすんの?羽村佐和子さん」 「それは……、私も想定済みだよ?今井美咲さん」 HNハムちゃんこと私、羽村佐和子は、ブレザーのポケットからカッターナイフを見せる。 HNミィこと今井美咲は初めて笑った。入学式のアルバムで相手の本

          フルニトラゼパム(3)

          フルニトラゼパム (2)

          <<なんで逃げたんですか? <<逃げることなくないですか? 18:01 >>まさか同じ制服の人が来ると思わないじゃん >>びっくりしちゃって ごめんなさい 19:12 <<それは確かにそうですが。 19:13 >>てかあの口ぶりってかメッセの文面で、中学生って思わないじゃん >>しかもしかもリボン青ってことはうちら同じ2年じゃん同級生じゃんwwwww 19:16 <<それはこっちのセリフでもあるんですが。 19:17 >>待ってウケる >>ウチら二人とも八王子住みな

          フルニトラゼパム (2)

          フルニトラゼパム(1)

          6/7(金) >>はじめまして >>検索から来ました >>2mgのが欲しいんですがまだありますか? 14:25 <<ミィ様、はじめまして。 <<はい、ございます。 14:40 >>何円ですか? 14:42 <<ツイートに記載の通り、2mgでしたら1シート3500+送料370です。 <<お支払い方法は銀行振込のみで、ご入金の確認ができ次第レターパックでお送りします。 <<また、こちらジェネリックとなります。 <<以上の点ご了承のうえ、よろしければご検討ください。 14:

          フルニトラゼパム(1)

          マザー

          母さんへ この手紙を読んでいるということは、無事に介護施設の職員さんが届けてくれたということですね。どうかあたしの代わりに、お礼を伝えておいてください。 母さん、お元気ですか? そんなわけないよね。このたびは、本当にごめんなさい。あたしは世界一の親不孝者です。でも、許してください。 これから書くのは、遺書ではありません。親愛なる母さんへの、お手紙です。あたしから母さんへの最後のお手紙。母さんは、たったひとりの家族だから、最後に手紙くらい残しておこうかと思ったのです。 ちなみ

          スピード(旅の終わり)

          オレは今サイコーに気分がいい。もっとスピードをあげるんだ。もっとだ。チューンナップしたオレの愛すべきマシン、海沿いの道をひたすらに飛ばす。目的地なんてない。ウゼエ過去がまとわりついてくるからスピードをあげるだけだ。過去も、憂鬱も、罵倒も、凌駕するのは、速さ。スピードなんだ。オレは逃げ続けているんじゃない、前に進み続けている。 このスピードについてこられない奴は振り落としてしまえばいい。賞味期限切れの退屈な人間に興味はないんだ。オレはスリルで遊びたい。危ない橋は弱い他人に渡らせ

          スピード(旅の終わり)

          Tokyo Underground IDOL

          そんな大きなキャリーケース転がして、どこか遠くへ旅行にでも行くのかって? 私はどこにも行けない、ライブハウス以外は。私はアイドル。東京の、地下にきらめくアイドル。東京の、毛細血管のような交通網を駆使して、いろんなライブハウスに出演する。多いときは週に5本。 毎ライブ、うちの客は10〜15人くらい。誰もいないフロアに向かって踊っていた頃を思えば、御の字だ。さらにチェキを撮ってくれるので本当にありがたい。 いわゆる「地底」にいた頃、私たちにオリジナル曲はなく、既存曲のカバー(まぁ

          インターネットに君がひろがる(3)(終)

          「「ありがとうございましたーまたご利用くださいませー」」 彼女との深夜シフトは穏やかに始まった。 「誰も来ない。暇ですね」 「雨だしね。この暇こそが深夜コンビニバイトの醍醐味だよ」 「5時までかー長いなあ〜」 「どうせ今日もあっという間だよ、はい、お菓子の前出し行ってきて」 当たり障りのない会話をしながら、いつあの話題を切り出そうかと頭の中はそれでいっぱいだった。 俺が今日一つ心に決めていたことは、あの画像が本当に彼女なのかを本人に必ず確かめる、ということだった。勇気が

          有料
          100

          インターネットに君がひろがる(3)(終)