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『源氏物語』ヒロイン花重ね遊び①…桐壺更衣

梅雨時に、遅れてきた春のように明るさを灯す未央柳(びようやなぎ)。
『源氏物語』の〈桐壺〉にその名が出てきます。

光源氏の実母である桐壺の更衣。
身分が低いのに帝に一番愛されるので、まわりからいじめを受けます。心労のあまり、源氏がまだ3歳のとき亡くなります。帝は悲しくて、思い出に浸るばかり。『長恨歌(ちょうごんか)』を題材にした絵をずーっと眺めています。

『長恨歌』は中唐の詩人・白居易のなが~い詩。
平安貴族たちは皆知っていたらしいです。
玄宗(げんそう)皇帝が楊貴妃を愛しすぎて政治がおろそかになり……って、やつですね。帝は玄宗と楊貴妃に自分と更衣を重ねるんですよね。

絵に描(か)ける楊貴妃の容貌(かたち)は、いみじき絵師といへども、筆限りありければいとにほいすくなし。太液芙蓉、未央柳も、げにかよひたりし容貌を、唐(から)めいたるよそひはうるはしうこそありけめ、なつかしうらうたげなりしを思(おぼ)し出づるに、花鳥(はなとり)の色にも音(ね)にもよそふべき方(かた)ぞなき。朝夕の言(こと)ぐさに、翼(はね)をならべ、枝をかはさむと契らせたまひしに、かなはざりける命のほどぞ尽きせずうらめしき。

【たいえきのふよう】太液池の蓮の花。美人の顔のたとえ。

意訳:
絵に描いてある楊貴妃の見た目は、たとえ素晴らしい絵師であっても筆のスキルには限界があるので、リアルな美しさは今ひとつ。太液池の蓮の花、未央宮(びおうきゅう)の柳も、確かに楊貴妃の美貌と相通じるものがあるが、唐風の装いは麗しくはあるが、優しくてかわいらしかった更衣のことをお思い出しになられると、花の色にも鳥の声にもたとえることができない。朝夕の口癖に、「比翼の鳥、連理の枝になろう」と契りを結ばれていたのに、叶わなかった更衣の命の短さがいつまで経っても恨めしい。

『長恨歌』の中で、未央柳は玄宗が楊貴妃の面影を重ねる花になっています。
紫陽花、菖蒲(あやめ)、杜若、蛍袋、紫君子蘭……と、青や紫の気品ある花が咲き誇る中、黄の未央柳の目立つこと。
「女御、更衣あまたさぶらひたまひける中」の「めざましきもの」桐壺の更衣は、たとえば、こんな風に華やいでいたのかな?と、私は特に、雨の日なんかには思うんですよね。

「御局は桐壺なり。」
局(あてがわれている部屋)の庭には紫の花が咲く桐が植えられていても、私のイメージでは、桐壺の更衣は、時にはまわりから浮いているようにも見える黄の花です。

美容柳2


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