ドールにソウルは宿らない - 『Lies of P』
カルマだ。このゲームを遊んでいてそう思った。
アーマードコア6でゲーマーの本懐ともいえるような心底楽しい思いを味わったぶん、死神が帳尻を合わせにきたのだと思った。幸福と苦痛の収支をトントンにするべく、ゾッとするようなつまらないゲームで俺をメチャクチャにしにやってきたのだと。
その死神は人の姿をしているように見えた。しかし違った。見てくれこそよく似ているが、それは魂を持たない虚ろな人形だったのだ。
死神の名は『Lies of P』という。この秋大本命の新作ソウルライクゲーム……のはずだった。
※以下に掲載するのはX(旧Twitter)上のポスト(旧ツイート)に加筆修正したものとなります。noteには動画が掲載できないため、一部ポストをそのまま貼付します。
【概要】
街を支配する狂気の暴走人形。止められるのも人形だけ。ピノキオがダークソウルでブラッドボーンでSEKIROをする、フロムと童話をこよなく愛する異常者が産み落とした闇鍋ソウルライク
【短評】
フロムゲーの不快なところをじっくり煮詰め、不必要なオリジナリティを足して邪悪さを磨き上げた呪物
ピザカッター好きには文句なしの傑作になりうる
【GOOD】
フロムゲーには見られない紅顔の美少年
フロムゲーには見られない真っ当な美女とイケオジ
アールヌーヴォーとスチームパンクが融合した世界観
ブリキ人形が襲ってくるのは新鮮、開始二時間くらいは
人形やゾンビが相手なので四肢や胴体を切断しても可
左腕のガジェットはあからさまに忍義手だが変形機構などのデザインは秀逸
攻撃を繰り返すと空の回復アイテムが一回分補充されるシステムは戦闘と探索にワンチャンスをもたらす発明かもしれない
ヒットやジャスガの効果音は爽快でメリハリがあり、ソウル本家にかなり近い出来栄え
攻撃や回避の手触りも大部分はソウルそのものといってよく、模倣へのこだわりには執念を感じる
【BAD】
これまで述べたこと以外のすべて
敵の動きが比較的シンプルな序盤は歯ごたえを楽しんでいられるが、中盤以降は「簡単にクリアさせたくない」のがヒシヒシと伝わる性根の腐ったゲームとなる
プレイをしていて嫌な思いをするたびに動画キャプチャを残していったらクリア時に100GBを超えていたのは驚異的というほかない
-戦闘システムについて-
SEKIROをやれば嫌でも理解できるはずだが、ジャスガ主体の戦闘は繊細で多人数戦とは食い合わせが悪い
SEKIROがスタミナ制を廃し、防御専用のリソースとして体幹を用意した理由をよく考えてみましょう
ボスは攻撃のバリエーションが異常に多く、何度かリトライして初めて見るような技がある
敵が気ままにコンボを続けたり止めたりするため、反撃すべきかガードすべきかサッパリわからない
技のバリエーションに比べてモーションは変化に乏しく、本当にギリギリまで見切れない
プレイヤーが冒せる最大のリスクであるジャストガードに対するリターンがあまりにも薄く、できて当然と言わんばかりの舐めた態度
ガード時のノックバックが大きすぎるため、ボスのコンボをすべてジャスガしても強攻撃ひとつ返せないことがよくある
致命の一撃を決めるための以下の手順は正気を疑うほどに遠回り
致命を決めるためにはスタッガーさせなくてはならない
スタッガーさせるためには敵の体力バーが点滅しているときにタメ攻撃を当てなくてはならない
体力バーを点滅させるためにはジャスガかタメ攻撃を繰り返し決めなくてはならない
これほどの時間とリスクをかけて決めた致命の一撃で3割減らせればかなりマシという異常なダメージ設定
スタッガーの持続時間が短く、しかも致命を取れる位置が限定されているため回り込んでいる間にスタッガーが終わることもしばしば
最終盤になって登場する「ガードしたらデバフがかかる」ボスの存在はこれまでジャスガに付き合ってきたプレイヤーへの最大の侮辱
かといって回避主体で戦えるわけでもない中途半端さ
敵の攻撃の苛烈さに対して強靭度が低いため、特大武器の攻撃は発生前につぶされ、振ることすらままならない
通常ガードはHPとスタミナともに大きく削られ、あまり頼りにならない
削りダメージは反撃かジャスガで回復できるが、生で喰らったダメージはまるごと没収という不可解なリゲインシステム
一方で敵が喰らったダメージは時間経過で自然回復するという逆差別仕様
Bloodborneで既に完成されたシステムにアレンジを加えて大失敗するのは料理下手のやらかしに似ている
忍義手には電気ショックや火炎放射など数種類あるが、使い物になるのはコンボが雑に強いワイヤー義手くらい(一応盾も雑に強いらしい)
そのワイヤー義手すらちょっとした障害物や段差でキャンセルされて丸損になりがち
終盤のボスは動きが激しすぎて義手コンボへの移行が不自然にキャンセルされることがあり理不尽
カメラが全体的に近く、壁際では死ぬほど見づらい
頭上に飛んだ敵はほとんど視界に入らず、音と勘だけで対応を強いられる
視界外から時間差で追いかけてくる飛び道具と本体の同時攻撃はラスボスでも許されない暴挙
マルチ協力プレイはなく、お助けNPCのみ
NPCは囮と火力要員としては使えなくもないが、ガードも回避も一切やらないという舐めきったAI設定
お助けNPCをお助けするアイテムはリアル時間を消費しないと補充できないという冗談みたいなオリジナリティ
-ステージ設計について-
チェックポイントの近くには逆側からしか開かないショートカット扉が決まって存在し、扉の見た目はどこでもほとんど同じなので驚きがない
見えるところに置かれているアイテムが罠である確率は150%
アイテム回収前に必ず罠があり、罠を超えた先にまた罠がある確率が50%の意味
罠を超えた先のアイテムのほとんどは「名もなき戦士のソウル」程度でありがたみがない
回復アイテムを半分使い切ってまで手に入れたアイテムが「投擲武器になる歯車」ってお前
新武器や新衣装など貴重なアイテムはお節介にも特別な宝箱に入っているので遠くからでも察しがついてしまう
結晶トカゲ枠の発光チョウチョの配置が決まって「岩が転がる坂」とか「落ちたら死ぬ高さの足場」という底意地の悪さ
チョウチョのくせに謎の小爆発で邪魔をするな
それで手に入れられるのが「武器変質をリセットするだけの使い捨てアイテム」ってお前
毒沼に設置した巨人の足元をペシペシ攻撃させる「やりたかっただけ」なソウルライクステージ設計
細い梁を渡らせて狙撃で転落死させるというこれまた「やりたかっただけ」な設計
禁断の毒沼巨人"二度打ち"
当然のごとくバリスタで狙撃もされる、しかも3回くらい
-その他-
カスタマイズ次第では自分の武器が大きすぎて敵のモーションがほとんど見えなくなる
スタッガーの仕様上、タメ攻撃で突進技が出るタイプのパーツに有用性が偏っている
属性特効が異様に強いので、無属性の脳筋ビルドはやらないほうがマシ
属性特効自体は強いが、炎上や腐食によるスリップダメージは微々たるもの(それで敵が怯んだりもしない)
腐食で敵の装備を破壊できるのはユニークだが、ボスの武器を完全破壊して無力化したりはできないので拍子抜け
酸で敵を溶かして戦うピノキオってどうなの
一周目ではすべて埋まらないキャラ強化要素
ジャスガで敵をひるませたり起き上がりに回避ができるといった「もとからあって当然な機能」を強化要素にするセンス
ちなみに強化要素を解放してもジャスガで敵が必ず怯むようにはならない
キャラの口調が急に変わるなど全体的に怪しい翻訳
「砲丸投げ」という投擲武器が存在したりする(それは「砲丸」であって「砲丸投げ」は競技名だ)
強化アイテムの月長石は名前に冠する月齢でレアリティが高くなるが、満月を「完璧な」と直訳してしまっているのではないか
雰囲気は悪くないが割と似たようなロケーションの数々
環境ストーリーテリングに自信がないのか、「この街は終わりだ」「みんな死んじゃえ」といったメモをそこかしこに置いておどろおどろしさを出そうとしている
涙ぐましいが、無いほうがマシな努力というものもある
死ぬと経験値をその場に落とす
これだけならソウルシリーズのお約束だが、回収前にダメージを食らうと落とした経験値が目減りしていくというオリジナル仕様
悪意以外のなにも感じられず、まったくおもしろくない
ストーリーの要所でウソをつくか正直に話すかの二択を迫られる
ピノキオらしい仕掛けではあるが、プレイヤーの答えがエンディングにどれほど反映されているかは最後までわからずじまい
これいる?
【総評】
あらゆるソウルライクはソウル本家の出来の良さを再確認するために存在する
ソウルシリーズの本質が意地悪な難しさであると思っているなら誤解も甚だしい
心底腹立たしいゲームではあるが、オリジナルピザカッターを作っている時間は唯一無二だった
これにフルプライス(8000円超)を出すのは正気の沙汰ではない
ゲームパスでタダ同然で遊べたのが不幸中の幸い
実際手に取ってみるのはオススメしないが、遊んでしまった人と痛みを分かち合うことはできる
【疑問】
こんなものを「ソウルライクジャンルの入門編」「手堅くまとまったシステム」などと書けてしまうライターの感性と職業倫理
屋形船に乗せられて接待でもされたのか?
【補遺】
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