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何度も足を運びたくなる美術館のひみつ|練馬区立美術館『生誕100年 朝倉摂展』に足を運ぶ 後編

 こんにちは!おちらしさんスタッフの岸見です。素敵なチラシをきっかけに練馬区立美術館『生誕100年 朝倉摂展』に行ってみた、後編スタートです!

前編では8月14日まで開催中の『生誕100年 朝倉摂展』の魅力についてご紹介しました。

 この後編では中村橋にある練馬区立美術館そのものの魅力に注目します!

 実は私にとって練馬区立美術館は『生誕100年 朝倉摂展』以前からもっとも足を運んでいる美術館でして、それにも関わらず来館するたびに新鮮な気持ちになり、また行きたくなる魅力でいっぱいの場所なのです。

 ここでは展示の魅力・建物の魅力・周りの魅力と3つの視点に着目し、前編に引き続き学芸員の真子さんとお話ししながら紹介していきます!

※この記事の写真は練馬区立美術館の許可のもと撮影・掲載しております。

練馬区立美術館の魅力その1 展示

練馬区立美術館前にある美術の森緑地では大きな熊が出迎えてくれます。

岸見:練馬区立美術館では日本近現代美術を中心にしつつも、多様的な展示内容かつ斬新な切り口からアプローチした展示内容も展開していますね。 

真子さん:練馬区立美術館は中規模な美術館ですから、大規模な美術館と同じようなものを企画しても意味はないんですよね。
 だから、面白い視点をもって展示の企画を立てることが使命かなと思います。
 学芸員が5名いるんですが、みんな専門がバラバラになっています。日本の近世の人、近代の人、フランス近代の人…。私は所蔵作家や教育普及などいろいろ手がけています!
 だから、日本近現代美術を中心にしていて、かつ学芸員の専門や視点、興味をと結びつき、所蔵品や今まで37年間の展覧会の流れとうまく絡まって面白い視点の企画が生まれてくるのではないでしょうか。ニッチなところもあるんですけどそういったファンの方もいらっしゃったりします。

岸見:何か引っ掛かりがあると美術館に足を運ぶきっかけにもなりますよね。

過去の展示を振り返ってみる

2020年7月~9月に開催された『練馬区立美術館開館35周年記念 Re construction 再構築』。
練馬区立美術館の所蔵作品を現代の作家の解釈で「再構築」する現代美術展でした。

岸見:私は今まで何回か練馬区立美術館に足を運んできたのですが、2020年の夏ごろに開催された展示『練馬区立美術館開館35周年記念 Re construction 再構築』は今でも記憶に残っています。
 所蔵作品を現代美術作家がリクリエイトする、といった展示ですが、章ごとに「空間」や「色」などテーマがあって興味深かったです。美術作品に対してはもちろん、美術館としての視点が更新されたいい機会でした。

真子さん:ありがとうございます!実は私が担当していまして、準備期間は半年と短く大変でした。
 でも、私は"ミュージアム"としての存在が好きでして。世の中の有象無象を編集してコンパクトに一か所で見せるその存在がとても好きなんです。そんな場所をさらに楽しむにはどういう視点があるのかと思い、展示企画につながりました。

岸見:今思い返して、真子さんの美術館に対する想いがあの展示空間に詰め込まれていたことがよく実感できました。
 あともう一つ、ずっと記憶に残っている展示が…といっても私は当時行けず、友達からの口コミで聞いた展示なのですが、『しりあがり寿 の 現代美術 回·転·展』にはおどろきました…!
 後でネットで調べたのですが、展示されているヤカンやダルマがぐるぐる回転していて…かなり振り切った企画の印象を受けました。特設サイトも回っていますね。

真子さん:この企画はしりあがりさんの魅力に引き寄せられて生まれた企画でしたね。本当にいい方で、自然と人が彼に集まってきて、面白いことが発生してあのような展覧会になりました。

岸見:図録を見ても想像がつかなくて…。実際に見に行っていたらどうなっていたんだろうと今でも思っています。

真子さん:本当に全部回っていましたからね。
 でも、ただ回っているのを見ていると見ている人みんなが勝手に深いところまで考え始めるんですよ。アンケートやSNSでも深堀して考えていて、とても面白かったです。

岸見:通常の展示では得られない面白さですよね…。

真子さん:単純に見せてみんなが勝手に深堀して考えてくれてる展示企画が好きなんです。考えさせられるという点は、先ほどの『練馬区立美術館開館35周年記念 Re construction 再構築』にも共通していますね。
 もちろん次回の展示『日本の中のマネ ―出会い、120年のイメージ―』もですけど、そういう培った研究をみんなに知識として広めるのも必要であり、むしろミュージアムの役割だと思います。

『日本の中のマネ ―出会い、120年のイメージ―』のチラシ。
二つ折のチラシを広げてみると、日本画と洋画が並んでいます。
赤と白で構成されたデザインはどこか「日本」を感じますね。

真子さん:知識を普及する展示も必要ですが、プラスアルファでみんなが勝手に考えたりミュージアムの存在自体を見せたりするような、そういった広がりのある展示も面白いと思っています。
 昔は紹介にとどまる内容が多かったのですが、そういった過去があったからこそ今、いろんな視点で展示企画が生まれていると思っています。その分、来館者もさまざまな引っ掛かりで来てくださって美術館に集まる人が増えてきているのではないでしょうか。

岸見:そういった考えがあるからこそ、多角的な表情があり、毎回足を運ぶごとに新感覚・新発見を体験できることは練馬区立美術館の魅力の一つだと思います。
 ちなみに真子さんで印象に残っている展示企画はありますか?

真子さん:やはり先ほどあげた『練馬区立美術館開館35周年記念 Re construction 再構築』ですね。生きている作家さんを中心とした展示だからかライブ感というか、いい意味で作家さんも半年間で更新されていくのを実感できて楽しかったですね。

岸見:私もあの展示で今を生きている作家さんの作品を見て、一緒の時代に生きていると思えてうれしくなりました。普段の美術展では得られない刺激でした。

真子さん:もちろん現代美術を多く扱う美術館さんだと常にそういうことがあると思います。ただ、練馬区立美術館は現代美術ばかりではないので、結構新鮮でしたね。

練馬区立美術館の魅力その2 建物

ひろびろとした吹き抜けのロビー。右側の枠は企画展示へのゲートです。

岸見:ここからは練馬区立美術館の建物に注目していきたいのですが、展示にあたって建物に関して工夫されていることはありますか? 

真子さん:建物自体が少し古くなってきていたり、ロビーの空間が灰色なので雨の日はやや暗くなりやすかったりと課題はあるのですが、今ここにある空間でどうすれば見やすくなるか考えたり、展示ごとにゲートを作って華やかにしたりすることで工夫を施しています。面白く興味深く見てほしいので、展示の魅力が伝わるような装飾や導線の作り方、作品の見せ方などを常に考えています

展示室内の可動壁。天井の溝に合わせて自由自在に配置できます。

岸見:展示室内では可動壁で展示ごとに作品の配置や導線を変えられるので、毎回同じ美術館に来たとは思えない新鮮さがあるといつも感じます。

真子さん:単純な可動壁ではあるんですけど、自分たちで導線を考えられるので便利ですね。

岸見:作品の内容に合わせることで導線や空間のゆとりも大きく変わったりしますよね。先ほど展示内容の多彩さについて触れましたが、展示空間の自由自在さにもうまく結びついているとも思います。

2階ロビーにある大階段。この階段を昇っていくと3階の展示室へつながります。

岸見:ちなみに展示室が今3つありますよね。建物の2階と3階で構成されている美術館の中で、2階に展示室が1つ、3階に展示室が2つという構成ですね。

真子さん:元は2階は常設展示室で、企画展示は3階のみだったんです。
 だんだん展覧会の規模も大きくなり、巡回展も増えてきたので今は3部屋すべて使う展示がほとんどです。そのためどこで展示室を区切るかをよく考えますね

岸見:そうだったんですか…!確かにどこをどう区切るか考えるのが難しそうですね…。2階の展示室から3階の展示室に移動するときは、1度ロビーに出たりもしますし…。

真子さん:今開催中の『生誕100年 朝倉摂展』では、2階は1章のみ、2章~4章は3階に配置しています。そのためか2章以降になると作品同士の間隔が狭いんです。もう少し2階に2章の作品を置いてもよかったのですが…。
 ただ、どうしても1章と2章で朝倉摂さんの日本画に対する意識が変わったことを伝えたくて、1章を2階に、2章からは3階に部屋を分けました。
 1章は1点ずつゆったりした描き方をしているのでゆとりのある展示空間になっています。2章になってくるといろんな人の関わりが増えてくると同時に作品や表現も広がっていった感じを見せたいと思い、あのような形になりました。

岸見:建物の構造あっての演出ですね。2章に入ると一気に作品の密度が濃くなっていくのは、作品群を見ていてかなり伝わってきました。
 あと私、練馬区立美術館の中で2階の展示をみて3階に行く前に一度ロビーに出るその瞬間が好きなんです。
 特に今回の『生誕100年 朝倉摂展』では、1章は結構柔らかくて人と日常風景的な作品が多いですよね。そういった作品を見た後にロビーに出ると、そこでは来館者がソファーでくつろいでいたり談笑していたりするんです。どこか絵の中にいるような感覚に思えてきて…

2階ロビーにある来館者のくつろぎスペース。
ゆったり休憩したり、談笑したり、チラシラックを眺めたり。

岸見:この感覚は練馬区立美術館でしか味わえないものだと思います。普通の美術館だと展示室が続いていてずっと集中している感じだと思うんですが、ここは一瞬リフレッシュできるのがいいですね。

真子さん:ありがとうございます!そう思っていただけてうれしいです。

岸見:あとは3階にある2つの展示室の間の渡り廊下もいいですよね。ロビーも美術館前の公園もどちらも見えるところが素敵です。

3階にある展示室と展示室の間にある渡り廊下。
右側ではロビー、左側では外の様子が見おろせます。
『生誕100年 朝倉摂展』では舞台写真がずらっと展示されていました。

真子さん:あそこはやはり好きな人が多いですね。渡り廊下でもときどき作品の展示もしています。
 『生誕100年 朝倉摂展』では舞台写真を並べましたが、去年の『没後20年 まるごと馬場のぼる展 描いた つくった 楽しんだ ニャゴ!』ではマラソン大会のシーンで長いページを布に印刷して、展示していました。お子さんにも大人気でした。

真子さん:私たちも10年以上ここにいるので空間の活かし方もだんだん積み重ねてきているかもしれません。展覧会は空間としては消えてしまうものなので、空間を活かすことで少しでも印象に残っているとうれしいですね。

岸見:作品と展示空間が結びついているとやはり記憶に残りやすいではないでしょうか。

練馬区立美術館の魅力その3 美術館の周り

美術館を出て階段を下った先にあるのは美術の森緑地。
よく見ると動物の彫刻が点在しています。

岸見:美術館の周りには美術の森緑地といった公園や図書館があるのもいいですよね。美術の森緑地にはところどころに動物の彫刻が32体も潜んでいて…。元気なお子さんの声も聞こえてきたり。

真子さん:公園があるとお子さんが遊びに来るので明るい雰囲気になります。少し離れた小学校の子たちからも「あのどうぶつ公園のことね」って認識されていたりします。

手前は貫井図書館が展示に合わせて発行しているブックリスト。
展示に関連する書籍が紹介されています。

真子さん:美術館と同じ建物の1階にある貫井図書館では、いつも展覧会ごとに掲示板を作ってくれて図録や関連書籍も置いてくださってます。
 書籍を中心とした普通の図書館とは違い、貫井図書館は図録も所蔵してくださっているんです。

岸見:図録を見れる公共の図書館ってなかなかないですよね。練馬区立美術館の展示以外の図録もたくさん置かれています

真子さん:図録は手に入りにくいし管理も大変ですが、こういう取り組みはとてもいいと思います。

岸見美術館に行った後でも鑑賞の余韻を楽しめることは図書館や公園が一か所にまとまっているからこその良さですよね。

真子さん:それと最寄の中村橋駅から近いことも練馬区立美術館の良さです!都心からは少し遠いと思われるかもしれないですが、駅からは案外近いんですよ。
 少しずつ街の風景は変わってきてはいますが、中村橋はのんびりした地域なのでそこも魅力ですね。駅を出てすぐに商店街があるのでにぎわいもあります。
 ぜひ練馬区立美術館に足を運ぶとともに、中村橋の魅力も感じていただければうれしいです!

岸見:美術館の帰りにふらっとしたりするのも楽しいですよね。練馬区立美術館に行く前と行った後で街が違って見えたり、新たな発見があるかもしれません。
 さて、つい熱く語り合ってしまいましたが、お時間になりました。
真子さんありがとうございました!

真子さん:こちらこそありがとうございました!またぜひお越しください!


 ここまで前編・後編と『生誕100年 朝倉摂展』の紹介をはじめ、練馬区立美術館の多方面の魅力についてご紹介してきました。
 しかし、この美術館にはこの記事に紹介しきれないほど魅力がまだまだあります。ぜひ中村橋に足を運び、あなたの思う練馬区立美術館の魅力を見つけてみてください!


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