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【文献メモ】コーチングと成人学習:理論と実践


Oxford Brookes University大学でコーチングとメンタリングプログラムのディレクターを務めるCox氏の書いた文献のメモ。

Cox E. (2015). Coaching and adult learning: Theory and practice. New Directions for Adult & Continuing Education, 2015(148), 27–38.

概要

「アンドラゴジ―」と「変容的学習」という成人学習(Adult learning)の概念が、コーチングにどのような提供を与えているのかを整理している。

コーチングはティーチングと異なり、カリキュラムでなく相手のアジェンダに同調することが必要である。コーチは偏見のない傾聴とオープンな質問でアプローチする(Cox, 2013)
難しいのは、相手の真のニーズよりも、プログラムのアジェンダを優先してしまいがちなことである。また、時間を要するのも実施の上での課題である。
コーチングは、大人が自己主導的学習、変容的学習、個人目標の達成のための支援を得ることができる構成主義的介入である。

3種のコーチング

まず、コーチング定義があるが、3種類の機能別定義が紹介されている。

Segers、Vloeberghs、HenderickxおよびInceoglu (2011)はコーチングの3つの異なった機能関連の定義の有用な類型を示した。

1. Skills Coaching
特定の行動や習慣を修正することを目的としています。「典型的には、1つか2つの主要なスキル領域、または、従業員が現在または将来の役割においてより効果的になるように新しい行動を開発すること」(Segers et al., 2011, p. 205)

2. Performance Coaching
「特定のパフォーマンスの可能性、仕事の要件、欠陥、または脱線に焦点を当て、パフォーマンスのギャップを埋める方法と個人のパフォーマンスを最適化するための仕事を形成する方法」 (Stern, 2004)(P157)です。Fillery-Travis and Lane (2006)は、「コーチが目標を設定し、障害を克服し、自分のパフォーマンスを評価・監視するためのプロセス」(p.25)と表現している。

3. Development or life coaching
開発コーチングやライフコーチングは、パーソナルコーチングとして知られ、「より広く、より全体的な視野を持ち、しばしばより親密で、個人的、職業的な問題を扱う」ものである。その主な焦点は、学習者の「個人的な目標、思考、感情、行動、および個人がより大きな個人的な効果と満足のためにどのように人生を変えることができるか」(Stern, 2004, p.157)である。

変容的学習とコーチング

自分の信念と異なる出来事が起こると、疑問が生じる。その矛盾や葛藤が学習のための入り口となる。Mezirow (1990)は、このような葛藤や開口部を「混乱的ジレンマ“disorienting dilemmas”」と表現し、これが変革プロセスの第1段階であると示唆しています。
コーチングにおいてもFlaherty (2010)は、適切な "オープニング "の重要性について述べている。クライアントがcoachable(コーチングを受けられる状態)になるためには、何らかのジレンマが必要である。
Mezirowの変容的学習プロセスは10あるが、それは直線的に進むとは限らない。コーチは相手にあわせて、段階を見直す必要がある。

Mezirow(1990)は、行動に情報を与えるために使用できる3つの異なるタイプの内省(reflection)を説明している。これらは、Cranton(2013)によって次のように説明されている。

(a)   Content reflection (内容の振り返り)
個人が問題の内容や記述について省察する
(b)   process reflection(プロセスの振り返り)
問題の内容そのものではなく、問題を解決するための戦略について考える(c)    premise reflection(前提の振り返り)
問題自体の関連性、問題の根底にある仮定や価値観を問うことを含む(p. 270)

最終的に視点の変換につながるのは、この3つのうち最後の「前提の振り返り」。(より詳しく知りたい場合は、Mezirowが書いた文献を参照するのがおすすめ)

変容的学習理論に基づいたコーチングは、クライアントが現在の意味の視点や心の癖に気づくことを目的としている。
このようなコーチングは、クライアントが自分の意味観を構成しているこれまで仮定、信念、先入観、前提を批判し、別の見解を作成する機会を持つよう挑戦できる安全な環境を提供することが必要である。このような既成概念にとらわれない思考は、最終的に、より広く、より信頼できる参照枠(frame of reference)を得ることにつながる。
したがって、この文脈におけるコーチングの役割は、クライアントにとって困難で苦痛なプロセスである視点変更のプロセスを奨励し、支援することである。

一言メモ

「視点を変えるコーチング」という言葉が耳にするが、それは変容的学習を起こすコーチングとも言い換えることができるかもしれない。
現状の課題感を明確にする、異なる解釈を持つなど、コーチングスキルとして用いられているものが整理されていく感じ。
こうした整理を進めていくことで、より効果のあるコーチングの確率を高められると考えている。引き続き、他文献を見ながら整理を進めたい。


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