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【論文レビュー】18研究を検証したコーチングの効果【メタアナリシス】

「コーチングの効果って何?」
「エビデンスは?」
と質問されて、すっと回答できるでしょうか。

今回は、コーチングの効果について18個の研究を統合して分析してくれた論文(ありがたい!)がありますので紹介していきます。

オランダ、アムステルダム大学の労働・組織心理学部 Theeboom氏らが2013年に発表した論文です。

Does coaching work? A meta-analysis on the effects of coaching on individual level outcomes in an organizational context

コーチングは機能するのか? 組織文脈における個人レベルのコーチング効果についてのメタアナリシス

Tim Theeboom, Bianca Beersma and Annelies E.M. van Vianen
The Journal of Positive Psychology, 9:1, 1-18, 2013


概要

はじめにこの研究結果をおおまかにお伝えします。

筆者らは理論面、実践面を考慮しコーチングの効果を下記5つに分類し、効果があったと結論づけています。

研究のプロセス
107本の研究結果を調査し、最終的に下記条件を満たす18本の論文のコーチング効果をまとめた

・定量的に調査されたもの
・コーチは上司が行うものでなく、コーチを受ける人にとって権限をもたない訓練された人によって行われたもの
・リーダーシップ開発などの他介入の影響がないもの
・コーチングのプロセスが明記されているもの

コーチングの効果 

次の5つのカテゴリーで効果があるかどうかを検証した。
1.パフォーマンス/スキル
2.幸福(well-being)
3.コーピング
4.仕事に対する姿勢(work attitudes)
5.目標指向の自己制御(goal-directed self-regulation)

結果として、すべて有意にポジティブな効果を示し、その効果量はg=0.43(コーピング)からg=0.74(目標指向の自己制御)であった。これらの結果は、コーチングが組織における効果的な取り組みであることを示している。

5つのカテゴリーはみなさんの経験と照らしあわせると納得のいくものでしょうか。それでは5つのカテゴリーについて詳細を見ていきましょう。

コーチングの5つの効果

1.パフォーマンス / スキル

特に営利を目的とする企業においては、この「パフォーマンス」向上の効果があるのかは最も関心のあるカテゴリーではないかと思います。

パフォーマンス/スキルのカテゴリー
このカテゴリーには次のような効果が含まれる。
・パフォーマンスを直接的に反映するもの
例:販売数、上司の評価による職務遂行能力
・組織が機能するために必要な行動
例:変革的リーダーシップ行動

それぞれ、主観的および客観的な成果測定が含まれています。

2.幸福(well-being)

次は、well-beingです。well-beingと従業員の生産性の間に関係があることを示す研究がありますので、well-beingも組織における効果として位置づけることができます。

幸福のカテゴリー
ここには、人々の幸福、健康、欲求充足、感情的反応を直接的に表す、主観的および客観的な結果指標が含まれる。
例:精神病理学(Depression Anxiety and Stress Scale; Lovibond & Lovibond, 1995)
例:バーンアウト(Maslach Burnout Inventory; Maslach & Jackson, 1986)

3.コーピング

コーピングはあまり日本では耳にしませんが、説明を読むとストレスへの対処や自己効力感(自分はできるという自己認識)を意味しています。

コーピング
このカテゴリーには、現在および将来の仕事の要求やストレス要因に対処する能力に関連するアウトカム尺度が含まれる。

例:自己効力感(例:一般的自己効力感尺度;Schwarzer & Jerusalem, 1995)
例:マインドフルネス(例:マインドフル・アテンション・アウェアネス尺度;Brown & Ryan, 2003)

4.仕事に対する姿勢(work attitudes)

4つ目は、仕事や組織への満足度のようなカテゴリーです。組織コミットメントというのは、組織への愛着とか帰属意識を表す概念です。

仕事に対する姿勢

このカテゴリーには、仕事やキャリアに対する認知、感情、行動反応に関する成果測定が含まれる。
・例:仕事満足度(職務記述書指数;Smith, Kendall, & Hulin, 1969)
・例:組織コミットメント(例:組織コミットメント尺度;Porter, Steers, Mowday & Boulian, 1974)
・例:キャリア満足度(例:キャリア満足度尺度;Greenhaus, Parasuraman & Wormley, 1990)

5.目標指向の自己制御(goal-directed self-regulation)

最後5つ目は、目標にまつわる行動が含まれるカテゴリーです。

目標志向の自己制御

このカテゴリーには、目標設定、目標達成、目標評価に関連するすべての成果測定が含まれます。
例:コーチングの現場で広まりつつある目標達成尺度(GAS:goal-attainment scaling)GASについての概説は、Spence [2008]とPeterson [1993]を参照

GAS:goal-attainment scalingって何?という方はこちら。
メンタルヘルスプログラムを評価するためKiresukらにより開発された。
対象者個々の目標について,それぞれ5段階(+2~−2)で達成度を評価する。事前に、目標を決め達成すれば0。それより高いと(+1, +2)と低いと(−1, −2)とスコアリングされる。
理学療法学 目標設定と目標達成度評価の考え方 上岡裕美子を参照。

まとめ

この論文では、5つのカテゴリーでコーチングが効果があることを示しました。
筆者らはまとめの章で、「コーチングが機能するか?」という問いでなく「コーチングはどのように機能するのか?」という問いへ移っていく時期にきている、と書いています。
この論文が発表されたのは2013年であり、その後コーチングは「どのように機能するのか」についての論文も出ていますので、また紹介できればと思います。

<参考>
2021年に発表されたコーチング効果のメタアナリシス論文はこちら

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